ユリさん(仮名・20代)は、現行犯逮捕された時の様子を「良かった」と、安堵の表情で振り返る。

ユリさん:
捕まった時、「良かった」と警察官の方に伝えていました…もう「立ちんぼ」から逃げられるんだと思いました。

「逮捕」によって逃れられたのは、東京・歌舞伎町の大久保公園のそばで、売春の客待ち、いわゆる「立ちんぼ」の日々だった。
SNSで知り合った男性からの勧めで「立ちんぼ」を始めたものの、次第に男性から暴行を受け、稼いだ金を搾取されるようになり、精神的にも身体的にも限界に陥った。
“逮捕”により、「立ちんぼ」から抜け出せた女性が、当時の状況を振り返った。
「パパ活」と「立ちんぼ」…ユリさんが始めた“売春の共同作業”
ユリさんが売春行為をはじめたのは2年前。好きなアーティストのライブなどに行く「推し活」のためにお金が必要になり、SNSで「パパ活」を知ったのがきっかけだったという。
ユリさん:
「パパ活」がSNSで流行っていて、ちょっとやってみようかなっていうのが始まりでした、違法という認識がなくてSNS見るとみんなやっているから、私もできるじゃんって。

そして「パパ活」で出会った1人の男性から、意外な提案をされる。
「“立ちんぼ”もして、一緒にやった方が稼げるよ」。
“立ちんぼ”と“パパ活”を同時並行で行う、というのだ。

ユリさんが「立ちんぼ」で客待ちや売春をしている間、男性がSNSで「パパ活」相手を募集するという、いびつな“売春の共同作業”。
対面での「立ちんぼ」と、SNSを併用して相手を募り、稼ぎは折半となっていた。
「一緒に稼ぐ」はずが45日間休みなく…
ユリさんは毎日のように、昼の11時から翌朝の4時まで大久保公園に訪れ、45日間休みなく「立ちんぼ」をし続けていた。
一日に最低でも5人、多いときは10人の男性客の相手をして、1カ月で300万円近く稼いでいた。

ユリさん:
最初は一緒に楽しく稼いでいたという感じだったんですけど、次第に暴力や暴言を吐かれるようになり、稼いだお金は全部取られて、精神的にも体も限界でした。
しかし、次第に、“共同作業”をしていた男性の態度が変わっていく。ユリさんが、客とのやりとりでミスをすると暴力をふるわれたという。

「高卒で頭が悪くて、こういう稼ぎ方しかできないんだから、もっとちゃんとやれ」と暴言の限りを尽くして罵倒した。
当初は「折半」だった報酬が、やがて稼いだ金をすべて振り込むよう指示され、自分で使えるお金はなく、まさに「搾取」状態だった。
さらに、男性は、ユリさんが「立ちんぼ」しているか、実際に来て監視するなど、男性の「支配」はエスカレートしていった。
男性の“洗脳状態”からの解放
売春を強要され、搾取される状況が「日常」となっていたユリさん。
2023年10月ごろ、いつものように大久保公園の一角で「立ちんぼ」をし、ホテルに入るところで警視庁に逮捕された。

逮捕されるにも関わらず、男性の「支配」から解放される安心感が上回ったユリさんは、思わず、警察官にこう話したという。
ユリさん:
逮捕された時は、男性から離れられるという安心感から「よかった」という言葉が出ました。
この逮捕をきっかけにユリさんは、警視庁からの紹介で、区役所に生活保護を申請。就労支援も受け、現在は働く場所を見つけている。
取り調べで警察官から「イチからやり直せるよ」
警視庁は2022年から「立ちんぼ」で検挙した女性に対し、その後の生活や仕事を立て直せるよう、区役所などの支援を紹介する取り組みを行っている。
ユリさんも、取り調べの中で「あなたはまだ若いんだから、イチからやり直せるよ」と言葉をかけられ、区役所を紹介してもらい、住む場所や働く場所などの新しい居場所ができたという。

ユリさん:
働き始めるとお金を稼ぐことに対する考えも変わって、犯罪をしてまで“推し活”をするのは違うと思えるようになった。今はちゃんと自分で働いたお金を、自分のために使えているのが一番幸せだなと思います。警察は逮捕するだけではなくて、支援に繋いでくれる人たちだとわかった、当時の自分には早く相談した方がいいよと言ってあげたい。
一度逮捕されても繰り返し…抜けられない“立ちんぼの沼”
しかし、ユリさんのように、売春から抜け出せた女性が多いとは言い難い。
今年、「立ちんぼ」で検挙した女性のうち、区役所などの行政に紹介した割合は15%にとどまっている。

検挙した女性の取り調べを担当する女性警察官にも話しを聞くと、「一回捕まっても、結局ホストクラブ通いや“推し活”がやめられず、自分の生活はどうでもよくなって、また売春行為を繰り返してしまうケースが多い」と話す。

女性警察官は「“大久保公園=立ちんぼ”、というイメージがあり、『みんな立っているから捕まらない』という気持ちで、安易に“立ちんぼ”に手を染めてしまう。犯罪者になるということの重大さを伝えていきたい」と訴えた。
【取材・執筆:フジテレビ社会部警視庁クラブ 北山茉由】