トランプ氏の圧勝に終わった米国大統領選挙から1ヶ月が経過し、第2次トランプ政権の発足まで1ヶ月となった。
対中強硬派を次々起用
トランプ次期政権の人事も徐々に明らかとなり、最大の外交課題である中国では相次いで対中強硬派が起用されている。

国務長官にはマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏が相次いで起用され、両者とも中国への厳しい姿勢を示す。

また、通商・製造業担当の大統領上級顧問にも対中強硬派のピーター・ナバロ氏が起用されるが、ナバロ氏はトランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、米国の経済と雇用を守り抜くという同政権の保護貿易主義路線を進める過程でライトハイザー元通商代表とともに主要な役割を担った。
トランプ氏が2025年1月以降、対中国を中心に米国の経済や雇用を守るという観点から、関税を武器にあらゆる措置を発動していくことが予想される。
メキシコからの輸入車に関税200%も…
これまでに、トランプ氏は中国製品に対する関税を一律60%に引き上げる、その他の諸外国からの製品に10%から20%、メキシコからの輸入車に200%の関税を課すなどと主張した。
具体的な関税率は異なるものの、その後大統領就任の当日から中国製品に対して10%の追加関税、カナダとメキシコからの全輸入品に25%の関税を課すと明らかにした。

こういった主張や宣言に対し、当然ながら、日本企業の間ではトランプ関税に対する懸念が広がっている。
これまでのところ、日本が直接トランプ関税の標的になっているわけではないが、中国で物を製造し、それを米国へ輸出している日本企業は10%の追加関税、メキシコで自動車を生産し、その多くを米国へ輸出しているトヨタや日産、ホンダなど大手自動車メーカーも25%の関税に直面することになる。

今日、グローバルなサプライチェーンは毛細血管のような複雑な構図をしているが、正直なところ、トランプ外交は不確実性に満ち溢れており、そのどの部分がトランプ関税の標的となるかを予測することは難しい。今後の4年間、企業はそのような予測困難な状況でビジネスを継続することを迫られる。
しかし、企業はトランプ関税を予測困難なもの、企業活動に大きな影響を与えるものとだけの認識で終わらせるべきではなく、トランプ関税のもう1つの顔を把握しておく必要がある。
“関税男”の狙い
周知のとおり、トランプ氏は米国を再び偉大な国にするためにアメリカファーストを強く掲げている。これは外交的に言い換えれば、外国から最大限の譲歩や利益を引き出すと同時に、外国が持つ負担(例えば紛争など)による米国への影響を最小限に抑え、政治的かつ経済的、軍事的に米国の平和と繁栄を堅持、強化することを意味する。

その過程で、トランプ氏が最も得意とするのが関税である。
トランプ氏は関税男(タリフマン)を自認するが、政権1期目の2018年以降、米国の対中貿易赤字を是正するため、4回にわたって計3700億ドルもの中国製品に対して最大25%の関税を課す制裁措置を発動した。

中国が次々に報復関税を仕掛けたことで結果として双方の間では貿易摩擦が激化したが、トランプ氏には対中関税の発動において中国から妥協や譲歩(米国への輸出量を減少させる)を引き出す狙いがあったことは間違いない。
第2次トランプ政権も同じように、外国から最大限の譲歩や利益を引き出すため、高関税を武器として使ってくるだろう。
上述のように、トランプ氏は選挙戦の最中には中国製品に60%、メキシコからの輸入車に200%(これはメキシコで車を製造し、それを米国へ輸出する中国の自動車メーカーを念頭に置いたもの)の高関税を示唆していた。
しかし現時点では中国製品に10%の追加関税、メキシコからの輸入品に25%の関税が具体的に発表されており、60%や200%というものは貿易相手国を動揺させ、譲歩や妥協を引き出すための牽制球としての役割を担ったと言えよう。
日本など同盟国にも関税を
そして、トランプ氏は牽制球や脅しとしてのトランプ関税を中国など違う陣営に属する国々だけでなく、日本などの同盟国や友好国にも使用してくる可能性がある。
例えば、トランプ氏は昨年夏、NATO加盟国の防衛費について、国内総生産GDP比で3%以上を支出するべきとの認識を示したが、日本を含め多くの国でそれは達成されておらず、それは今日のトランプ氏が抱く不満事項の1つであろう。そして、トランプ氏が同盟国や友好国に高関税という脅しをちらつかせることで、GDP比で3%の防衛支出という譲歩を引き出そうとする可能性もあろう。

要は、トランプ関税とは純粋な関税であるものの、軍事や安全保障など非貿易の領域においてトランプ氏が外国に抱く不満や懸念を払拭させるための手段でもある。
トランプ関税が予測困難なもの、企業活動に大きな影響を与えるものであることは間違いないが、トランプ関税における具体的な数字のみを意識するのではなく、トランプ関税の背後にある政治経済的な背景を考慮し、その実現可能性を冷静に判断することが重要になろう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】