「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家の野﨑幸助さんを殺害した罪に問われている元妻の須藤早貴被告(28)の裁判員裁判で、和歌山地裁は無罪を言い渡した。
なぜ「無罪」判決となったのか?
元東京地検特捜部検事の中村信雄弁護士に聞く。
専門家「どうやって飲ませたかよく分からない…大きな弱点」
青井実キャスター:
和歌山地裁は、きょうの判決で「被告人の犯行というには合理的疑いが残る」などと述べました。
中村さん、今回の「無罪判決」最大のポイントは?
中村信雄弁護士:
今回の事件というのは検察としては直接証拠がない中、状況証拠の積み重ねによってなんとか有罪にしようと思ったんでしょうけど、状況証拠が足りなかった。「本人が誤って(覚醒剤を)飲んだんだ」ということを排斥できなかった、そこじゃないですかね。
青井キャスター:
野﨑さんは「急性覚醒剤中毒」で亡くなったが、須藤被告が覚醒剤を飲ませて殺害したのか?それとも飲ませていないのか?が争点だった。「覚醒剤」について、判決ではどのように?
宮司キャスター:
まず「覚醒剤」につい、て双方の主張から見ていきます。
検察側は、「須藤被告は致死量をこえる覚醒剤を入手している」「摂取したとされる時間、その場にいたのは須藤被告だけで、飲ませるタイミングは十分にあった」。
一方、弁護側は、須藤被告は「野﨑さんに覚醒剤の購入を頼まれた」「摂取させたことはない」と主張。
結局、どのような方法で飲ませたかがわからないまま審理は終わっていました。
宮司キャスター:
きょうの判決、「覚醒剤」については…。
当日の状況から、被告人が覚醒剤を摂取させることは可能だったが、被告人に渡されたものが覚醒剤とは言い切れない。
第三者の他殺や自殺の可能性は考えられないが、野﨑さんが誤って過剰摂取した事は否定できない、としています。
青井キャスター:
覚醒剤についての裁判所の認定をどう見ましたか?
中村弁護士:
ポイントは、覚醒剤を飲ませることは可能だが、自分で誤って飲む可能性も否定できないということ。背景にあるのはやはり、どうやって飲ませたかよく分からないと。ここが大きな弱点になっているんだろうなという感じがします。
遠藤キャスター:
須藤被告に覚醒剤を準備した売人が、用意したのは覚醒剤ではなくて「氷砂糖だった」と法廷で証言しましたが、これも影響があったんでしょうか?
中村キャスター:
大きいポイントの1つ。検察側からすると「氷砂糖」という証言は痛かった。「覚醒剤を渡している」ということになれば、またちょっと違う認定もあり得たかなと思うくらいに大きい。
弁護側「うすい灰色を重ねても黒にならない」
青井キャスター:
そして、スマートフォンの“検索履歴”も非常に注目されました。
青井キャスター:
こちらが須藤被告が検索したワードは…
▼完全犯罪▼老人 死亡▼トリカブト殺人事件▼薬物▼妻に全財産残したい場合の遺言書の文例▼相続税 海外口座▼覚醒剤 過剰摂取
野﨑さんが亡くなったあとの検索ワードが…
▼昔の携帯通話履歴 警察▼遺産相続どれくらいかかる▼殺人罪時効▼殺人自白なし
検察側は、この検索履歴を証拠のように扱いたかったようですが?
宮司キャスター:
須藤被告の弁護側は、これらの検索は、あくまで“須藤被告の趣味”で昔から「特殊な殺人、グロテスクなものを調べるのが好き」としていました。
きょうの判決では、「スマートフォンの検索」について、「完全犯罪」の検索は、殺害を計画していなければ検索することはありえないとまでは言えない…こうした判断でした。
青井キャスター:
検索履歴でこういう言葉を調べていたことは証拠とされなかった?
中村弁護士:
証拠とされたし、価値もあったが、基本的には状況証拠の1つ。検索があるから100%殺害計画あるとはいえない。覚醒剤に関する証拠が足りなかった。
SPキャスター・パックン:
今後、検察は控訴するのかが気になります。
中村弁護士:
検察の主張にもそれなりの説得力がありますし、私の元検事の感覚でしかないんですけど、おそらく控訴すると思います。この無罪判決に、承服はしないんじゃないのかなと。やっぱり証拠評価の誤りがあるという判断になると思うんですね。多少なりとも補強したい証拠があれば出すことは考えられますけど、それが必ずしも必要とは言い切れないということですね。
青井キャスター:
須藤被告の弁護側は、「うすい灰色をいくら重ねても黒にはならない」と無罪主張。この判決が今後に与える影響は?
中村弁護士:
薄い灰色というのはおそらく状況証拠だと思うんですけど、状況証拠を積み重ねて黒になることはあると思うんです。しかし、今回は薄い灰色の数が足りなかったということなんですけど。今後こういう事件について、検察は慎重に判断せざるを得ない、状況証拠の積み重ねに慎重にならざるを得ないのかなと思います。
(「イット!」 12月12日放送より)