自民党は9月1日、総務会を開いて総裁選の党員投票実施を見送り、両院議員総会で選出することを決定した。小泉環境相など若手議員らは、すべての党員に開かれた透明な選出手続きを訴えていたが、退けられた。これで総裁選は、菅官房長官が一気にリードを広げたかたちだ。
党員の声を反映できなかったのは悔しい
「多くの国会議員、全国の党員の声を反映できなかったのは、大変申し訳ないと思うし、本当に悔しいですね」
党員投票実施のための署名活動を主導した1人、自民党の青年局長である小林史明議員は、総務会後、記者団の取材にこう答えた。
この記事の画像(6枚)一方、署名活動の発起人の1人として総務会に乗り込んだ小泉進次郎環境相は会議後、記者団に淡々と語った。
「残念ながらフルスペックの公選はやらずとなりましたが、フルスペックでやるべきだと約150人の国会議員、自民党の地方組織の皆さん約400名がやるべきだと声を上げていただいた。自民党に多様な声があることが、あらためて証明されたと思います。これで総裁選にいくわけですから、選ばれた総裁が誰であろうとも、より多様な党員の声、国民の声、それが反映されるような自民党を作っていくスタートにしたい。今日はそのスタートだと思います」
憤りを鎮めるため党本部内に留まった
会議の中で小泉氏は、「総裁選で政治の空白が生まれるという話があるが、いま環境大臣を務めている中、政府の組織はしっかり回っている。8月28日に新型コロナウイルス対策もまとめられており、空白が生まれるというのは本当だろうか。コロナ禍において知事選が行われたことを鑑みても、総裁選を公選で行うことを前向きに考えるべきではないか」と発言したという。
若手のリーダーであり、現職の環境相である小泉氏のこうした発言も、結果的に総務会の決定をひっくり返すことはできなかった。
実は会議後、小泉氏、小林氏、そして署名活動の事務を取り仕切った村井英樹議員らは、憤りを静めるため、しばらく自民党本部内に留まって今後のことを話し合ったという。
「この決定に対して、我々が次に何を行動するかを話し合いました」(小林氏)
"事務処理2カ月" アナログな自民党
今回、執行部は総裁選を党員投票で行った場合、2カ月かかることを理由に実施を渋った。
しかし、小林氏は次のように語った。
「我々は事前に1週間でできることを確認していました。しかし今回、正式に説明いただいたら『最低2カ月』だと。2カ月かかるというのは、選挙人名簿の事務的な手続き、事務処理の話です」
「名簿のデジタル化は、ずっと言ってきたのに。アナログなんですよ」
記者団の取材後、筆者が「オンライン投票、できないんですかね」と尋ねると、小林氏は憤りを隠さなかった。小林氏はこれまで、国会や行政のデジタル化を先頭に立って進めてきた議員だ。同時に自民党のデジタル化も進言してきたという。
「選挙期間が短くなることで、国民の皆さんに候補者の政策議論を共有する時間が短くなることが心配です。オンラインなど様々な工夫をして、広く次のリーダーの議論が共有される機会をつくります」
「残念です。悔しいですよ」
筆者は、村井英樹議員に署名提出前から取材をしてきた。村井氏は囲み取材後、筆者に向かって「残念です。悔しいですよ」と語った。
総務会の前日、村井氏は次のように話していた。
「当初想定した以上に反響がありました。8月28日に総理が辞意を表明してから2営業日しか経っていない中で、145名の国会議員、22の県連が賛同してくれました」
筆者は、署名参加者には“石破外し”に反発する石破派議員が多いのかと聞いてみた。村井氏は苦笑しながら、「派閥的には均等に入ってますよ。名簿を見てください」と言い、こう続けた。
「総理が辞意を表明した夜に、小林君(史明議員)や私が相談して、署名をやるかと。29日の土曜日朝に案文をつくって皆で手分けしました。小泉さんにも相談はしますが、大所高所から意見をもらう感じです。小泉さんは若手の中心ですけど、本件は大臣ということもあり自重している感じがありました」
権力無くして自民党を変えられない
結局、若手議員らの主張は、執行部に退けられたかたちとなった。村井氏は「政治は最終的には権力だ」と語る。
「執行部からしたら『権力が無いのにガタガタ言うんじゃないよ。それなら権力取れよ』ということでしょうね。政治は権力闘争ですし、そう言われたら、まあそうなので。悔しいですけど」
党の変革に必要なのは権力だ。小林氏も次のように語る。
「問題は、2カ月かけないと総裁選が行えない自民党の体質だと思います。それを我々が変えないといけない。それを含めて私たちが次は“力”を持って、そして自民党を変えることをやらないといけないと強く思います」
自民党を真に変革するためには、若手が実績を積み重ね、力を蓄えるしかない。自民党の変革は、日本が進化するためにも必要なのだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】