トランプカラーに染まった共和党大会

11月の大統領選挙に向けた与党・共和党の全国大会は8月27日、トランプ大統領を大統領候補に指名し終了した。

身内の共和党員からも「トランプ大統領にハイジャックされた」との声が漏れるほど、4日間の党大会で強調されたのは、トランプ大統領の3年半の成果だった。特に印象的だったのは、連日にわたって展開された「トランプ大統領が庶民を救う」姿をアピールする演出だ。

例えば、銀行強盗で服役した元受刑者がホワイトハウスに招待され、今は心を入れ替えて、犯罪者の更生支援を行っていると身の上話をする。それを聞いたトランプ大統領が、「あなたの社会貢献は素晴らしい。完全な恩赦を与えよう」と語りかけ、元受刑者が涙ながらに感謝する様子が会場に流される。

元受刑者に恩赦を与えるトランプ大統領。共和党大会2日目(ABCテレビより)
元受刑者に恩赦を与えるトランプ大統領。共和党大会2日目(ABCテレビより)
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また別の日には、トルコやイランで長期にわたって拘束され、トランプ政権下で解放された元アメリカ人捕虜らが、口々にトランプ大統領に感謝するセレモニー。いずれも、現職大統領の強みを最大限に生かして「結果を出す大統領」というイメージを前面に打ち出すのが狙いだ。

さらに、野党・民主党などから「政治利用だ」と批判を浴びながらも、最終日の指名受諾演説をホワイトハウスで決行し、およそ2000人の支持者の前で熱弁を奮った。現職の大統領が演説の場所としてホワイトハウスを使うのは1940年のフランクリン・ルーズベルト大統領以来で、実に80年ぶりのこととなった。

指名受諾演説のキーワードは「法と秩序」

70分以上にわたったトランプ大統領の指名受諾演説は支持固めに照準を絞り、「中国叩き」や「暴徒化したデモの取り締まり」など、保守派の喜ぶメッセージをふんだんに盛り込んだ。また、対戦相手となる民主党のバイデン候補を41回も名指しして徹底批判した。

「法を守るアメリカ人を守るか、それとも、市民を脅かす暴力的な無政府主義者や犯罪者に自由を与えるのか。それを決めるのはあなたの1票です」

トランプ大統領が特に強調したのが、バイデン氏が当選し民主党政権が誕生すれば、アメリカの伝統的な価値観が永遠に失われ、「法と秩序」が破壊されるという「危機感」だった。

ミネソタ州で5月に起きた白人警官による黒人暴行死事件をきっかけに、全米に人種差別反対デモが広がった。「ブラック・ライブス・マター(黒人の命も大切だ)」のスローガンは共感を呼び、多くの著名人も支持を表明している。

一方で、デモの一部が暴徒化し破壊活動や窃盗が発生したことから、トランプ陣営はこうした動きを「過激左派」の仕業と批判し、軍の動員も辞さないなど強硬姿勢を崩していない。「過激左派の操り人形」であるバイデン氏に対し、「法と秩序」で対抗するトランプ大統領との対立構図を際立たせることで、支持層の結集につなげようという思惑が伺える。

バイデン前副大統領(左)とトランプ大統領(右)
バイデン前副大統領(左)とトランプ大統領(右)

郊外に暮らす女性をターゲットに

トランプ大統領は8月中旬、自身のツイッターに「郊外の主婦たちは私に投票するだろう。安全な暮らしが求められている」などと投稿。

前回2016年の大統領選で、トランプ大統領は郊外で健闘した。出口調査によると、郊外に住む有権者の得票率で民主党のクリントン候補に5ポイントの差をつけ勝利した。今回も郊外の有権者、特に女性票を固めることで再選を確実にする戦略を描いている。実は、今回の共和党大会には、ターゲットとする「郊外に住む女性」に明確なメッセージを伝える仕掛けがあった。

人種差別反対デモの参加者にライフル銃を向け、武器の不正使用で訴追された白人夫婦が、ビデオメッセージで参加したのがその一例だ。

自宅前のデモ隊を銃で威嚇する夫婦。7月20日撮影(トランプ陣営のHPより)
自宅前のデモ隊を銃で威嚇する夫婦。7月20日撮影(トランプ陣営のHPより)

妻のパトリシアさんは、「自らの安全を守るために銃を使う権利がある」と主張。バイデン氏が勝利すれば、「民主党が推進する低所得者向けのアパートが郊外にたくさん建てられ治安が悪化する」「アメリカのどこに住んでいても安全ではなくなる」などと危機をあおった。彼女の発言に対してツイッター上には批判が殺到したが、一方で共感を示す書き込みも目立った。

バイデン氏の下「治安が悪化する」と主張するパトリシアさん。共和党大会初日(ABCテレビ)
バイデン氏の下「治安が悪化する」と主張するパトリシアさん。共和党大会初日(ABCテレビ)

しかし、郊外に暮らす女性票を取り込むのは簡単ではない。

治安は彼女たちにとって重要な問題だが、それ以上に切実なのが家族の健康に直結する新型コロナウイルス対策だ。対応が遅れたトランプ大統領への不満と不信感は“トランプ離れ”を招き、支持率を押し下げた。ウォールストリート・ジャーナルなどが行った7月の世論調査では、郊外の女性の56%がバイデン氏を支持し、トランプ大統領は39%にとどまっている。

大統領選まで残り2カ月となったが、果たして勝利の軍配はどちらに上がるのか。

国民の不安と怒りをあおるトランプ流か? それとも、国民の宥和と分断の修復を訴えるバイデン流が決戦を制するのか?

次の山場は、トランプ大統領とバイデン氏の一騎打ちの場となる討論会だ。選挙戦の行方を大きく左右する3番勝負に有権者の熱い視線が注がれている。

トランプ大統領の指名受諾演説の後に打ち上げられた花火。首都ワシントンにて(ABCテレビ)
トランプ大統領の指名受諾演説の後に打ち上げられた花火。首都ワシントンにて(ABCテレビ)

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。