東北一の歓楽街と呼ばれる仙台市の国分町。飲食店だけでなくキャバクラや性風俗店が軒を連ね、夜は多くの人でにぎわう。ここを収入源とするのがいわゆるヤクザ、暴力団だ。捜査関係者の間では、国分町に目を光らせることが宮城県の治安維持に欠かせないとされ、事件抑止の要ともなっている。県内の暴力団構成員は10年前の6割ほどにまで減少し、現在は準構成員を含め約470人いるとされる。暴力団対策法の整備などで表立った活動がなくなった暴力団だが、今も国分町とのつながりが深いことを思い起こさせる事件が2024年9月に判明した。
暴力団に衝撃を与えた逮捕
風俗店の元従業員の女性に堕胎を強要したとして、風俗店経営者らとともに暴力団幹部の男が逮捕された。その後、不起訴となったが、逮捕された男は県内の暴力団構成員の6割が所属する指定暴力団住吉会系組織の幹部で、最も多くの構成員を抱える3次団体のトップだった。
この記事の画像(7枚)捜査を進める中で浮上したのが、暴力団と風俗店の金のやりとりだ。男は組員と共謀し、用心棒を務める代わりに店から現金を受け取る、いわゆる「みかじめ料」を受け取っていたとして、暴力団排除条例違反容疑で逮捕され、仙台地検に略式起訴された。(罰金50万円)
性風俗店から「みかじめ料」
暴力団にはそれぞれの「縄張り」がある。その縄張りで商売を許可する見返りとして要求するのが、みかじめ料だ。店でトラブルがあったときには組員が用心棒として介入し、金を受け取る。
幹部の男は2023年7月ごろから1年以上にわたり、風俗店経営者(同罪で略式起訴)から、みかじめ料として現金約252万円を受け取ったとされている。警察はさらに前から金銭のやりとりはあったと見ていて「国分町では暴力団が店から金を巻き上げるスキームができている」と指摘する。
商店街ともつながる「親分さん」
国分町の隣には一番町という商店街が続く地域がある。仙台の夜の顔が国分町なら、一番町は昼の顔だ。一番町で明治時代から続く店を営んできた男性は、かつては暴力団組員が商店街を闊歩(かっぽ)していたと話す。暴力団組員は客として自らの店にも出入りしていて、1回の会計で30万円は当たり前、200万円弱の商品を迷わず購入するなど羽振りがよかった。男性はみかじめ料を払ったことはなかったが、出入りしていた暴力団組員を「親分さん」と呼び「素人には手を出さない人だった」と懐かしむ。
男性によると、40年以上前には7日17日27日の7が付く日に暴力団の定例会が商店街で開かれていて、一目で組員と分かる男たちが歩いていたという。店を経営する男性の目からは暴力団によって街が潤っていた面もあったと話す。
ヤクザと事業者の関係
男性は怖い目にもあった。ある日、店に「面倒を見てやるから月3万円よこせ」と面識のない暴力団組員から電話があった。支払いを断ると恫喝する口調に変わり、話は1時間半にも及んだという。それでも支払わなかったのは「ヤクザに貸しを作ってはいけない」という意識があったからだ。「親分さん」とも店と客の関係、対等であることを心がけていた。それから10年もすると、親分さんは姿を見せなくなり、街で組員を見かけることはなくなった。1991年に暴力団対策法が成立したからだ。
だが、暴力団はなくなったわけではない。国分町にあるキャバクラの関係者は、何かとトラブルが起きる歓楽街では暴力団と接点を持たずに店をやっていくのは難しいと話す。みかじめ料という認識はないものの、トラブルを解決してもらったお礼として過去に数万円を渡したこともあったという。
事業者にも罰則 規制強化へ
店と利害が一致することもある暴力団。だが、資金をもとに行われるのは犯罪行為だ。
宮城県は2011年に暴力団排除条例を制定し、暴力団と店との関係を断つべく規制してきたが、2023年に条例を改正。暴力団だけでなく、みかじめ料を渡した事業者への罰則も定めた。
改正条例は、国分町や仙台駅周辺の18地域を暴力団排除特別強化地域に指定。地域内で営業するキャバクラや性風俗店などを特定事業者とし、みかじめ料をやり取りした場合、暴力団と特定事業者の両方に「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」を科す。先述の事件を含め、これまでに3件、暴力団の主要3団体(六代目山口組系、稲川会系、住吉会系)の幹部など合わせて4人を検挙しているが、警察はまだ氷山の一角とみている。
報復が怖い…関係を断てるか
今回の改正では「自首減免」という制度も加わった。事業者が自主的に暴力団との関係を申告すれば、罪に問われないケースもあるというものだ。警察は、報復されないよう暴力団対策法に基づき中止命令を出すこともできるとして、事業者に勇気を出して相談してほしいと呼びかけている。誰もが安心して楽しめる街にするために。歓楽街も変わらなければいけない時期がきている。