「ポスト安倍」選びに株式市場の注目も集まっている。安倍政権の終焉とともに「アベノミクス」も終わるのか?マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆氏に聞いた。

辞意を表明した安倍首相(8月28日)
辞意を表明した安倍首相(8月28日)
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アベノミクス終わっても株価に影響少ない

――安倍首相の辞意表明で先週末の株価は一時大きく下げました。

広木氏:
安倍政権は市場に“フレンドリー”でしたから一時的に売られましたが、戻したのは「アベノミクスが終わったといっても株価には影響が少ない」と市場が判断したからですね。そもそもアベノミクスは政権発足当初は市場に大きなインパクトがありましたが、ここ1年は安倍首相の口からもアベノミクスという言葉が出ていないくらいですから。

――アベノミクスがこれまで株価を押し上げてきたのにも関わらず、影響は少ないですか。

広木氏:
2012年9月の自民党総裁選の頃から、安倍首相はアベノミクスのような経済政策を掲げていたので、11月に解散が決まった瞬間から株価は上がり始めましたね。政権発足とともに大胆な財政出動と金融緩和を打ち出して株価はさらに上昇しましたが、当時はたまたまグローバル景気が反転上昇に転じるタイミングでした。ですから景気が良くなり、株価が上がった要因は、半分はアベノミクスですが、半分はグローバル景気といえるんじゃないですか。 

安倍首相就任会見・2012年12月26日
安倍首相就任会見・2012年12月26日

”3本目の矢”成長戦略が不発に終わったアベノミクス

――とはいえ、アベノミクスは市場に好感されてきましたよね。

広木氏: 
財政規律より財政出動、異次元の金融緩和で景気対策を行った意味では、まさに市場にフレンドリーでした。ただ、アベノミクスで本当は語らなきゃいけないのは、3本の矢の3番目、成長戦略です。実は成長戦略は、外人向けの英語の資料では「structual reform」=構造改革と書かれています。景気対策が投薬や注射とするならば、成長戦略=構造改革は基礎体力を上げるための毎日のトレーニングです。実は日本の成長力を高めるために、もっとも地道にやっていく必要があったものですね。

――確かに成長戦略として、男女共同参画や一億総活躍、地方創生など次々と打ち出しましたが、どれも中途半端になったように見えます。

広木氏:
本当は成長戦略にこそ市場の期待がありましたが、どれも不発に終わったとしかいいようがないですね。生産性を高めるために様々な政策を検討しましたが、一つとして身にならなかったと思います。 

日銀の異次元金融緩和は黒田総裁辞めても継続

――例えば国のデジタル化。政権発足時から目指していましたが、結局コロナになってから慌てて手を付けた感じです。

広木氏:
そのとおりですね。コロナで明らかになったのが、この国のデジタル化の体たらくでした。特別給付金で役所がパンクした1つをとっても、日本の基礎体力を全く高めていなかったことの表われですね。これはアベノミクスに一番厳しい点数をつけるところだと思います。規制緩和や構造改革を実行するためには、既得権益を打ち砕く政治の力が必要です。長期政権への期待は大きかったのですが、安倍政権は官僚をうまく使って規制改革を進めることが出来ず、逆に官僚が官邸お伺いになってしまったようです。

――異次元の金融緩和は継続ですね。

広木氏:
金融緩和はいま日本だけが特別でなくて、世界のスタンダードになっています。特にコロナ禍においてはそうですね。ですから、たとえ安倍首相、黒田日銀総裁が辞めたとしても、日銀の政策スタンスは変わらないでしょう。つまりアベノミクスが終わったからといって、株式市場はすぐに困る状況にはありませんね。

日銀の黒田総裁
日銀の黒田総裁

菅氏・石破氏とも経済政策は踏襲せざるを得ない

――今後の株式市場はどう動きますか?

広木氏:
アメリカでは、先週ナスダック、SP500は高値更新、ダウ平均も年初来プラスを回復しました。安倍首相辞任のニュースは、アメリカ市場には関係ありませんでした。週末を挟んでだいぶ冷静になったので、日本もアメリカの動きを追うでしょうね。

――いま、ポスト安倍争いは菅官房長官と石破元幹事長に絞られてきた感じがありますが、市場の受け止めはどうですか?

広木氏:
市場は政治的空白を嫌いますから、党員投票より両院議員総会が好ましく、安倍路線を引き継ぐ菅さんを好感すると思います。しかし来年9月には総裁選があり、いかにもワンポイントリリーフだと、安倍政権で出来なかったやり残しの課題、構造改革はどうなるのか疑問が残ります。

――石破氏がポスト安倍となった場合はどうですか?

広木氏:
石破さんはどうしても安倍首相のライバルのイメージがあり、路線を踏襲しない懸念が出てくると、市場は嫌がるのではないかと思います。ただ、石破さんが反アベノミクスを唱えて、財政や金融引き締めを出来るのかというと、いまそれは無理だろうと。そうすると仮に石破さんになっても、経済についてはこれまでの路線を踏襲する以外はないと思います。そういう意味では、どっちになっても市場に大きな影響はないと思いますね

――ありがとうございました。名前は○○(ポスト安倍名)ノミクスに変わるでしょうが、財政出動と金融緩和は継続となりそうですね。

マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆さん
マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆さん

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。