「二足のわらじ」ならぬ「三足のわらじ」で地域の人々をつなぐ活動をしている男性が秋田・三種町にいる。男性の本職は寺の僧侶だが、ミュージシャンとカフェ店員という別の顔も持つ。3つの顔を巧みに生かし、地域住民が気軽に集える場を生み出してる男性を紹介する。

秋田弁×仏教×ギター 松庵寺の副住職

450年以上の歴史を持つ三種町鹿渡の松庵寺。この寺の副住職・渡邊英心さん(39)。

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渡邊さんは、東京の大学を卒業後4年間、日本のみならずブラジルの日本寺院でも修業し、13年前に秋田に帰ってきた。副住職として住職の父と寺を守る渡邊さんだが、実は僧侶とは別の顔がある。

僧服姿で手に持っているのは“ギター”。なんと渡邊さんは、レゲエをメインとしたミュージシャンの活動もしている。年に1度行う「寺フェス」は、渡邊さんが企画し、10年続く松庵寺の恒例行事となっている。

寺フェスの様子
寺フェスの様子

仏教や秋田弁を織り交ぜた独特の歌詞が話題を呼び、寺には法事の依頼に加えて、演奏会の依頼も来るようになった。

「地域の人に喜んでもらいたい」空き家をカフェに改装

若い頃は、お坊さんであることと音楽をやることを分けて考えていたという渡邊さん。

「自分の内側にある世界観は、仏教やふるさとを思う気持ちだと思うので、そういうことを大事にして歌にのせるべきだろう」と思い、お坊さんとしての生き方とミュージシャンとしての生き方を分けないで一緒にしてしまおうと考えたという。

空き家改装中の様子
空き家改装中の様子

僧侶だけでなくミュージシャンとしても活動する中で、「もっと地域の人に喜んでもらいたい」と思うようになった渡邊さん。思いが強くなった頃、寺の隣の民家が空き家になることを知り、渡邊さんは空き家を活用できないか考え、カフェに改装することを思い付く。

地域に住んでいる人たちが楽しめる何かをつくりたいと思って、まずはフェスを始めたものの、フェスは1年に1回だけ。なので、「日常の中に安らぎの時間を増やしたい」という思いがカフェにつながったという。

そうして渡邊さんは、家族や地域の人の協力を受けて念願のカフェをオープン。民家の雰囲気を残し、親しみやすく気軽に入れる装いの店ができた。

「癒やしの存在」月1でバー変身も

店は母の薫さんや親戚が中心となって切り盛りしている。

写真左:豆腐とアボカドのガトーショコラ 右:こはじゃと梨のチーズムース
写真左:豆腐とアボカドのガトーショコラ 右:こはじゃと梨のチーズムース

提供しているのは自家製のカレーやケーキ。三種町で「こはじゃ」と呼ばれるナツハゼの実がたっぷりのったケーキは、甘酸っぱい果実の酸味が濃厚なチーズムースによく合う。ほかにも寺らしく精進料理を意識した「豆腐とアボカドのガトーショコラ」など、オリジナリティのあるメニューが並ぶ。

松庵寺副住職・渡邊英心さん:
自分の居場所として考えてくれる人が結構いるのでありがたい。お坊さんとして、寺に来て膝を突き合わせて相談することはあまり現実的にないと思うが、私もラフな感じでいて、カウンターを挟んで対等な感じで話ができるのが、結果的に寺の敷居を下げるところにもつながってきていると思う。

常連客は「一言で言うと癒やしの存在。普通のカフェよりもアットホームな雰囲気で、楽しくて来ている」と話す。

カフェは普段、夜の営業はしていないが、月に一度だけバーに変身する。渡邊さんがカウンターに立ち、酒を提供しながらギターを弾いたり、客の相談に乗ったりしている。

「地域の人に愛されるのが一番」という渡邊さん。最近は遠方からもお客さんが来るようになったため、「お客さん同士の交流など、ここに来ることで何かが始まるようなカフェにしていきたい」と今後の展望を語った。

渡邊さんはこれからも寺を守りながら、音楽とカフェで地域の人たちとのつながりを生み出していく。

(秋田テレビ)

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