ふるさと納税が多くの自治体にとって重要な財源となっている一方、税収ダウンの影響を受けているところも。鹿児島県内で寄付額トップの志布志市と、税金流出に歯止めをかけようとする鹿児島市、それぞれの戦略を探った。
全国から税収を得られるチャンス
2008年度に始まったふるさと納税制度。当初は81億4000万円だった受入額が、2023年度には1兆1175億円まで成長した。自治体にとっては財源確保の鍵を握る重要な手段となる中、各自治体は寄付者に送る返礼品を工夫し、魅力的な商品を提供することで競争を繰り広げている。

鹿児島県内では、過去に霧島市が黒豚1頭を返礼品にしたり、曽於市が500万円の寄付者にキャンピングカーを用意したりと、ユニークな取り組みが見られた。
加熱する競争を抑えるため、今は返礼品の限度額を寄付額の3割までとしているが、各自治体にとっては全国から税収を得られる貴重なチャンスに変わりはない。

ふるさと納税に詳しい法政大学・平田英明教授は「インフレが定着し、生活防衛的な観点からふるさと納税を使い、普段の生活の足しにする流れがはっきりしてきている。当面はこの傾向が続くと見込まれる」と語る。
志布志市の“ウナギ戦略”が大成功
県内でふるさと納税の寄付額トップを走る人口約2万9000人の志布志市。2023年度には67億6500万円もの寄付を集め、全国1700以上ある登録自治体の中で20位にランクされた。
志布志市の成功の秘訣は、ウナギと肉類を中心とした戦略的な返礼品の展開にある。特に人気が高いのが「ウナギのかば焼き」で、地元企業の山田水産が養殖から加工、販売までを一貫して手がけている。

山田水産では、天然の地下水を地下70メートルからくみ上げ、水槽内の水を頻繁に入れ替えることで、臭みの少ないウナギの生産を目指している。

ウナギ営業部の増田洋亮さんは、「冷凍のまま、鮮度が落ちない状態なので、いつでもおいしいウナギをすぐに食べられる。そういう点でふるさと納税の支持を得ているのではないか」と人気の理由を分析している。
ウナギと並んで返礼品の目玉となっているのが肉類だ。食肉やハムなどの製造、販売を行うナンチクでは、志布志市の返礼品を50点製造している。商品数を増やすことで寄付する人の選択肢を広げる戦略だ。

ナンチク企画管理課の小山彩希さんは「発送時期が選べる形と、低価格なものから選べるように価格帯も様々取りそろえているところが、選ばれるためにしている工夫」と語った。
トラブルに負けず志布志ファン創出へ
志布志市は2018年、ふるさと納税の窓口として東京・中央区に駐在所を開設した。多くの自治体が経費削減のため東京からの撤退を進める中、逆行する形で関東でのPRに力を入れた。この戦略が功を奏し、実際に多くの寄付が関東から集まっているという。

ふるさと納税のトップランナーとなった志布志市だが、一方で、特設サイトがサイバー攻撃を受けたり、業者が産地偽装を行ったりと、度々トラブルにも見舞われた。
そのため個人情報を取り扱う専用のセキュリティルーム設置や、食品表示の検査体制の強化に向けた予算を計上するなどの対策を取り、志布志ファン獲得を進めている。

志布志市・港湾商工課の児玉祥一郎さんは「色々な形で、志布志に来てもらったり、首都圏でファンミーティングを開いたり、ふるさと納税のその先にある志布志ファンを創出していく事業に注力している」と話す。前述の東京駐在所発足時に首都圏で志布志のセールスに奔走した児玉さんだけに、説得力が違う。
クラファン型も 鹿児島市の流出対策
一方、人口の多い都市部では税金の流出に危機感を強めている。人口が多い分、他の自治体にふるさと納税をする人が多く、税金が流出しやすい傾向にある。
鹿児島市では2019年度以降、ふるさと納税による流出超過が続いている。2022年度の流出超過額は7億4000万円にも及び、2019年度比で4倍以上と年々拡大している。

こうした状況を受け、鹿児島市は2023年にふるさと納税推進室を設置。これまで市民税課が兼務していたが、専従部隊とすることで体制を強化。推進室の石宮聡室長は、2022年には740点だった返礼品を、現在は約1200点に増やし、仲介ポータルサイトの数も4(2022年度)から18(2023年度)に拡大したと話す。

また、2023年からは応援したい事業を指定して寄付をしてもらうクラウドファンディング型のふるさと納税も導入し、市内にある平川動物公園のコアラを応援するといった鹿児島市ならではの仕掛けにも力を入れている。
その結果、2023年度は寄付額が前年の2倍近くに増え、流出額との差が狭まった。

法政大学・平田英明教授は「ふるさと納税でお金が出ていくことを指をくわえて見ているというところから、各自治体は少しでも取り返そうというトレンドに変わりつつある」とふるさと納税の現在地を分析する。
ふるさと納税は自治体間の競争を促す一方で、地域の特産品を全国に広める役割も果たしている。県外の友人や知人がふるさと納税で鹿児島の自治体を選んでいると聞くとうれしくなるものだ。
いかに自分たちの街の魅力を伝え、税収に結びつけるか。自治体担当者たちの挑戦は続く。
(鹿児島テレビ)