有名店の一流シェフが学校給食の品質向上を目指す独自の取り組みが福岡・北九州市で始まった。おいしい給食で子どもたちが健康に育って、学校に行くのが楽しいとなれば「子育て支援」にも繋がると期待が寄せられている。

名店の一流シェフが取り組む給食

北九州市小倉北区のレストラン「Bekk」。2012年のオープン以来、オーナーシェフの菅沼康二さんが腕を振るってきた。ミシュランガイドにも掲載されたイタリアンの名店で、九州各地の旬の食材を使った料理が人気だ。「ご飯を食べるということを大事に思ってもらいたい。食べることは生きることだし、おいしかったら尚更うれしい」と話す菅沼さんが、今春から取り組んでいるのは、市内の小中学校で「おいしい給食」として提供する新メニューの考案だ。

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栄養バランスのとれた学校給食は、子どもたちの成長や健康増進に大きな役割を果たしているだけでなく、食生活の乱れが指摘されるなか、食に関する正しい知識を身につけるための生きた教材と位置づけられている。さらに、さまざまな事情から家庭で十分な栄養を取れない子どもにとっては、大切な生命線にもなっているのだ。

給食の質の向上には、北九州市の武内和久市長も「おいしくて体にも良くて子どもの育ちを支える給食にしていきたい」と期待を寄せる。

いま北九州市が進めているのが「おいしい給食大作戦」だ。Bekkの菅沼さんを始め、市内の有名店の料理人や大学の栄養学の専門家などが給食応援団を結成し、ボランティアとして魅力的なメニュー作りや栄養面をサポートしている。

限られた予算のなかでやりくり

学校給食のおかずにかけられる費用は、1食あたり約170円。その限られた予算内で菅沼さんが作ることにしたのは「チキンのタルタルソース」と「ミネストローネ」。菅沼さんとともに料理を作る北九州市学校保健課の山下利恵さんは「ミネストローネ自体は、いま既存の給食でも出ている献立ですけど、菅沼さんオリジナルを完成させていきたい」とさらにバージョンアップしたミネストローネへの意気込みを語る。

学校給食の“縛り”は、予算だけではない。アレルギー対策も重要だ。「できるだけたくさんの子どもたちに食べてもらいたいので、卵を入れずにお願いして…」と学校保健課の山下さんから難しいリクエストが入る。

菅沼さんは卵アレルギーの子どもも食べられるよう卵を使わないタルタルソースを作ることにしたのだが、卵を使わずにタルタルソースをどう作るか? 腕に覚えのある菅沼さんもしばし考え込んだ。

「いけます。大丈夫」試作品が完成

限られた食材のなかから菅沼さんが選んだのはヤングコーンとジャガイモ。ミネストローネの余りの野菜でタルタルソースを作ることに…。そして「いけます。大丈夫」と試作品を味見した菅沼さん。シェフが知恵を絞ったタルタルソースがかかったチキン料理。そして、旬の野菜をたっぷり使った彩り豊かで栄養満点のミネストローネの完成だ。「子どもたちがおいしいと言って食べてくれるようすが、目に浮かびました」と山下さんの表情に安堵感と嬉しさが浮かんだ。

「生産者、給食を作ってくれる人、食材を運ぶ人、いろんな人が関わって、初めて学校給食が成り立っているというのをまずは知ってもらいたい。知ることで給食の時間をもっと大事に、もっと楽しくできると思う」と菅沼さんは語った。

そして料理のプロが手掛けた新メニューは「シェフの北キュー三ツ星献立」として月に1回、市内の小中学校で提供される。給食室で味見をて最後のチェック。担当した給食調理員は「大量なのでジャガイモの茹で具合やキャベツの炒め具合がちょっと心配ですが、大丈夫ですか?」と少し心配そう。菅沼さん考案のレシピを元に約800人分の料理を作った調理員。「大丈夫。おいしい」と菅沼さん。シェフのお墨付きをもらってひと安心だ。

子どもたちは食べ残しもなく完食

「手を合わせて下さい。いただきます」新メニューを考案した名店のシェフと給食交流。本格的なイタリアンに子どもたちは興奮気味。「コクが出ていて喉に透き通る感じがして、とてもおいしいです。感動しました」(6年生)とシェフの味に舌鼓を打つ子どもたち。野菜が苦手だという子どもも「苦手だけど、食べられるようになってるからおいしかった」(6年生)と野菜の新たな発見に大満足だ。子どもたちが食べ残しもなくきれいに完食した姿を目にした菅沼さん。「うれしかったです!食に関心をもってもらえたらいいなと思います」と笑みを零した。

料理のプロのアイデアで子どもたちの笑顔が溢れた給食時間。北九州市はおいしい給食大作戦で子どもたちの満足度と学校の魅力を高め、将来的には市外からの移住促進にもつなげたいとしている。

(テレビ西日本)

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