「子どもへのわいせつ行為などで、処分を受けた全国の公立小中高校の教職員は過去最多」この問題を取り上げた前回の記事では、わいせつ行為で処分された教員であっても、再び教壇に立つことができる現状を紹介した

子どもが安全に学ぶ場であるべき学校から、わいせつ教員を追放するにはどうすればいいのか?この問題に積極的に取り組む、広島県の平川理恵教育長に話を聞いた。

「絶対に許さない」と鬼の形相でいった

「自校の先生が懲戒免職になりました。そのときのご家族の顔を想い出すと、今でも胸が締め付けられます」

広島県教育委員会で教育長を務める平川理恵氏は、2010年に民間から横浜市の中学校校長に転身。不登校等の生徒を支援する教室を作り,不登校をゼロにするなど教育改革を行ってきた。その手腕を買われ2018年に広島県の教育長に就任してからは、教員によるわいせつ事案の撲滅に積極的に取り組んでいる。

広島県の平川教育長「児童生徒に対するわいせつ・セクハラ行為は絶対に許さない」

平川氏が教育長に就任する前の2017年には、広島県で16件の懲戒処分があり、そのうち児童生徒に対するわいせつ・セクハラ事案が6件あった。

そこで平川氏は、こうした事案は許さないと、懲戒処分の指針の基本的な考え方を示した。

「懲戒処分の内容や量定は変えていませんが,教育に携わる教職員がわいせつな行為やセクハラ行為を行うのは非難に値するものです。とりわけ児童生徒に対してそのような行為を行うことは,当該児童生徒やその保護者のみならず,県民の公教育に対する信頼を著しく損なうものです。そこで具体的な量定の決定に当たっては,処分権者としてより厳しい姿勢で臨むこととしました」(平川氏)

さらに平川氏は自らテレビに出演して、「広島県でもし教員によるわいせつ・セクハラ事案、特に児童生徒に対して起こったら、絶対に許さない」と鬼の形相でいったという。

北風と太陽でわいせつ教員を撲滅する

再発防止策として平川氏は、教職員の意識改革も行った。

「“北風”ばかりしてもよくないので、“太陽”として、いいたいことが言える組織になるように努めました。職員の中でコミュニケーションを密にとり、『この人は危ないな』と思ったら誰かがストップをかける。特にいまコロナで人間関係が疎遠になり、お節介を妬く人が少なくなりましたが、それを推奨するのが太陽の部分ですね」

こうした取組が功を奏し、2018年には児童生徒に対するわいせつ・セクハラ事案が3件に減少、2019年は1件となった。

平川氏はわいせつ・セクハラ行為への社会の意識について、飲酒運転を例に挙げてこう語る。

「例えば,飲酒運転についての社会の認識は、少し前とはずいぶん変わったと思います。法的な処罰も厳しくなり、社会的な認識も厳しいものに変わりました。それがいまでは常識になりましたし,法制化もされています。わいせつ・セクハラ行為についても社会的な意識の急激な変化、例えば被害告発,被害撲滅意識の高まりが見られます」

他都道府県で広島県に追随する動きは見られない

しかし、教員の児童生徒に対するわいせつ・セクハラ行為には、社会の意識はまだ甘いと指摘する。

「学校の先生と児童生徒間に生じるわいせつ・セクハラ行為への意識や認識は、現状では少し緩いのではないかと感じています。社会の認識はもっと厳しくあるべきです。学校は児童生徒にとって、安心安全である必要があります。児童生徒に対するわいせつ事案はあってはならないことで,広島県ではより厳しい姿勢で対処するとしたわけです」

一方、他の都道府県では、広島県に追随する動きは見られない。

「残念ながら無いです。どの都道府県もこうした事案に頭を抱えているのに、どこも策を打っていません。行政はまず決まり事からなので懲戒処分の指針を改正して、トップから『絶対に許せない』と発信する。鬼の形相でやることくらい、誰でもできますよ」(平川氏)

国はわいせつ教員から子どもを守る気があるのか

こうしたわいせつ・セクハラ教員を、2度と教壇に立たせないためにも、必要なのが教育職員免許法(以下教免法)の改正だ。いまの法律では、わいせつ行為で懲戒免職を受けた教員であっても、3年後に教員免許の再交付を申請すれば再び教壇に立つことができる。

さらに、強制わいせつや強制性交などの暴力的な性犯罪で懲役刑を受けた教員であっても、服役後10年たてば刑が消滅し、教員免許の再交付を申請すれば再び教壇に立てる。

この国はいったい、子どもたちをわいせつ教員から守る気があるのかと疑いたくなる。

過去わいせつ行為を行った教員を、把握する仕組みにも問題がある。

都道府県の教育委員会が運営する「教員免許管理システム」は教員の情報を一元管理しているが、わいせつ行為など懲戒免職となった具体的な理由は確認できない。

また、教員がわいせつ行為などにより懲戒免職になった場合、官報に公告されるものの、3年を超えると情報が検索できなくなる。

つまりいまの国のシステムでは、過去わいせつ行為を行いながら再び教壇に立つ教員を、把握することが困難なのだ。

わいせつ教員は自治体間のばば抜きのばば

この問題について、萩生田文科相は国会でこう語っている。

「各教育委員会はそういう先生を、早く自分の自治体から出ていってもらいたいものですから、敢えてそういうことを隠して異動の資料に、『ベテランで指導力の高いいい先生だ』なんて書いてあったりするわけですよ。だからもうほとんど“ばば抜き状態”で、次の自治体が知らないでそれを採ってしまって、この連鎖を打ち切らなくてはならないと思っております」

萩生田文部科学相

“ばば”を引かされた自治体には、何も知らない保護者や子どもがいるのだ。

多くの保護者や国民に、こうした教員を学校から追放することに異存があるとは思えない。にもかかわらず法改正が行われてこなかったのは、「職業選択の自由」の壁があるからだ。

つまり「人間は更生するので、一度の過ちでその人の職業選択の自由を制限するのは難しい」という論理が、法改正に立ちはだかるのだ。

萩生田氏は教免法の改正に意欲を示しているが、これまではこうした論争に巻き込まれたくない政治や行政が法改正に及び腰だった。

小児性愛障害は教壇に立つ前に治療が必要だ

そもそも「職業選択の自由」は、すべての国民に無制限に保証されるものだろうか。

たとえば警備業法という法律があり、アルコールやドラッグの依存症がある者は、警備業を営むことが禁じられている。

また道路交通法では、アルコールやドラッグの依存症がある者は、免許が取り消され、自動車を運転する職に就くことができない。

児童生徒に対するわいせつ行為を繰り返す教員は、その多くに小児性愛障害が疑われる。依存症には治療が必要だし、警備や運転のように法律で制限をかけるべきである。

教員免許においては、小児性愛障害に対する医学的知見を積み重ねて、「こうした行為を再び行うことはない」と合理的な判断ができるまで、免許を授与しない法整備と仕組み作りが必要ではないか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】