経営者とみられる音声:外科は嫌いやけど上手やろ。中にガーゼ放りこまないと、他の組織痛めたら。
【動画】医師免許ない介護施設経営者が『麻酔なしで手術』 利用者に暴言・暴力 職員へパワハラも
介護施設の中で行われたという違法な“手術”の動画。なんとハサミを握っていたのは、「医師免許がない経営者」だ。無免許の手術で罰金刑が確定したこの事件。
この記事の画像(9枚)この施設では違法な手術や虐待、監禁が繰り返し行われていた疑いも。
経営者とみられる音声:“ひも”は絶対外しておいて。(利用者の家族が)面会に来るって分かっているのに、あんなのがあったら怖いやん。
関係者6人の証言から見えてきた施設の「実態」とは…。
■大阪随一の高齢化地域・岬町で起きた事件
大阪・岬町。人口およそ1万4000人のうち、65歳以上の高齢者がおよそ4割を占め、大阪ではトップクラスの高齢化が進む自治体だ。
そんな岬町では必要不可欠なサービスの「介護施設」で事件が起きた。
「看護小規模多機能型ホームひらり」では、2023年12月から2024年4月にかけて、看護師資格を持つ経営者の女性(61歳)が、医師免許がないのに、利用者の2人にメスやハサミで「手術」をした医師法違反で略式起訴され、罰金50万円の支払い命令を受けた。
手術された1人は軽度な認知症を患う90代の女性で、経営者が作ったとされるメモには、ふくらはぎを「メスで切開する」と書かれていた。
当時の状況を知る関係者:(女性が)『人殺し』って叫んでました。『何が痛いねん』って経営者が言っていた。麻酔もなしだから痛いですよ。血だらけで。
関係者によると、経営者は5年以上前から何度も、「床ずれの処置」などと称して無免許で手術を繰り返していたらしい。
さらには…。
記者リポート:こちらの病院の医師が、医療器具を貸し出していたということです。
施設と提携していた診療所の院長(66歳)もメスなどを貸した疑いで書類送検。真相を聞きに行くも…。
記者:なぜ貸したかとだけ聞きたいんです。
医師からの答えは得られず。
記者:医師はなぜ医療器具を貸したのでしょうか?
介護施設の関係者 Aさん:断れないと思う。気が弱いから。怖いんじゃないか。
医師も逆らえないという経営者。
夜間、利用者が勝手に個室から出られないように、外側からひもでくくってドアを開かないようにもしていたという。そればかりか…。
経営者とみられる音声:ひも外しておいてよ、ひも。部屋の前にあるやろ。ひもは絶対外しといて。(利用者の家族が)面会に来るって分かってるのに、あんなのがあったら怖いやん。
利用者の自由すら奪い、その上、家族にばれないよう隠ぺいを指示する驚きの実態が明らかに。
■「殺したる」と怒鳴る…利用者への暴言や暴力も
およそ30人の職員が勤務する介護施設。どうして問題は長年、外部に発覚しなかったのだろうか?
関係者6人による証言で、施設のいびつな実態が浮かびあがった。
施設の関係者 Bさん:代表が力を持っていて。家族経営で、イエスマンしかいなかった。誰も止められなかった状態。
施設の関係者 Cさん:すごく気性が激しいので、みんな顔色を伺いながら仕事しているのは事実です。
施設の関係者 Aさん:(言い返したら)パワハラ。倍返しにされる。(経営者は)自分が気に入らなかったらいじめて、辞める方向に持って行ってます。
独裁状態だった施設運営。さらには…。
施設の関係者 Dさん:相談するようなところがないんです。第三者がいてみたいな、あるじゃないですか。何もなくて。
第三者の目が届かない閉鎖的な環境で、報復を恐れて職員は告発をできない状況だったというのだ。
矛先は利用者にも向けられていた。
施設の関係者 Aさん:利用者の方にも、暴言・暴力があります。ビンタ。利用者ってお金払って利用してるじゃないですか。生活保護の方には『生活保護のくせに』とか。
施設の関係者 Eさん:利用者を殴ったり、胸ぐらをつかんで外に放置したりしていた。
施設の関係者 Fさん:『殺したる』と大声で怒鳴って、利用者もおびえていた。
経営者による「虐待」が日常的に行われていたという。こんな実態でも利用者が絶えないのには、理由があった。
この施設は「訪問看護・介護」「通い」「泊まり」にまとめて対応できる便利な形態のサービスだが、実は岬町がこの形態で介護保険事業者として指定しているのは、ここしかないのだ。
施設の関係者 Bさん:岬町に1つしかないところなので、行政も頼っていたところもあったのかな?というのはありますけどね。
介護施設での虐待は、全国的な問題だ。
2022年度の厚生労働省の調査では、介護施設のスタッフによる虐待について明るみに出ているものだけでも、相談・通報件数、虐待判断件数、共に過去最多となっている。
■なくならない“虐待”を防ぐには?
虐待がなくならない背景について専門家は…。
日本高齢者虐待防止学会 池田直樹理事長:介護サービスは“ビジネス”だという風に考えれば、金もうけなんですよ。仕事が増えると『余計なことをしてくれた』という感覚になってしまう。それが多分、虐待の、自分の仕事を邪魔しているというか、そういう感覚が根っこにあるんじゃないか。
第三者が定期的に施設をチェックする制度もあるが、受け入れるかどうかは経営者の判断のため、限界がある。
日本高齢者虐待防止学会 池田直樹理事長:オンブズマン(第三者)は、経営者にとっては煩わしい存在なんです。目先のタイムビジネスだけで追われているような所には、そこまでの現場の声は届かない。
実際、岬町は数年に1度、施設を訪問してチェックしていたものの、2023年は「違反なし」と判断していた。
担当者は「事前に訪問する日は伝えているし、1人1人に細かい聞き取りをするわけでもない。違反に気付くのは難しい」と話した。
岬町は改めて調査を進めていて、「施設の指定を取り消すことで介護保険が使えなくなる」という可能性もあるという。
経営者は罰金刑を受けたにもかかわらず、職員や利用者には「無実です」と主張しているということだ。
施設の関係者 Dさん:反省はしていないです、全く。ちゃんと償ってほしい。
現在は別の病院に入院している元利用者。これまでに虐待を受けていたと訴えているが、いまだに経営者からの謝罪はない。
施設の元利用者:思い出したくない。自分がつらいだけのことやと思って(自分の中で)収めた。自分がやったというのを認めて、少しでも『悪い』っていう気持ちがあれば(いい)。
経営者に話を聞こうとするも、何も話さず、施設からも回答は得られなかった。
利用者の多くは認知症の弱者だ。人への敬意を持たない人に介護の仕事を任せられるのかが、今、問われている。
第三者機関での摘発が難しい現状。このようなケースを減らすには、家族が利用者本人の訴えをこまめに聞くなど、細やかにケアすることが必要だ。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年10月10日放送)