150名の教育リーダーが集結
3月中旬、全国から約150名の教育リーダーが都内に集結し、教育現場が抱える諸課題の解決策を議論した。
このイベントを仕掛けたのは、文科省の若手官僚たち。彼らは、「過去事例無し」「予算無し」の無いない尽くしの中、教育改革の「火種」を広げようと立ち上がったのだ。
「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム(以下、プラットフォーム)」と銘打った会場には、教育現場の改革を目指す教育長、校長、教職員のほか、教育関連の民間企業やNPOが集まった。
このプラットフォームは、ちょうど1年前にスタートし、今回が2回目の総会。
学校現場が抱える4つの課題(学力向上、学校マネジメント、地域との連携、EBPM(※)推進)の具体策を探った。
(※)データに基づく教育政策。教育の科学化。
優れた先生の経験や勘をデータに
「EBPM推進」では、全国でもいち早くEBPMに取り組んだ埼玉県戸田市教育長の戸ヶ崎勤氏が、「教育を科学するにはどうすればいいか」熱弁をふるった。
戸田市では、教育現場に根強い3K(経験・勘・気合)依存から脱却し、客観的な根拠に基づいた教育指導に変えようと取り組んでいる。
EBPMを推進すれば、生徒の学習状況調査(学力テスト)の結果を各担任の先生にタグ付けして、どの先生が生徒の学力をより伸ばしているのか把握することができる。
また、優れた先生の経験や勘を言語化・可視化・定量化し、若手の先生に個別最適化して教えることも可能になるのだ。
これには民間企業との連携が不可欠で、戸田市では学校・教室を実証実験の場(「クラスラボ」と呼んでいる)として提供する代わりに、データなど成果を還元してもらっている。
戸ヶ崎氏は「民間との連携では、当初は教育委員会がレールを敷きましたが、いまは各学校が自走し始めています」と言う。
当初想定していなかった新しい動きも
これに対して福島の関係者から、「ICT導入には費用がかかるが、首長の理解が必要ではないか」と切実な意見が出た。
確かに予算を作るのは、教育委員会や学校現場ではない。ICT教育の普及には、自治体としての理解と総意が不可欠なのだ。
こうした声があがることについて、戸ヶ崎氏はこう言う。
「過渡期ですよね。EBPMという言葉自体、周知されているかと言うと、現場で1,2割程度だと思うんですよ。それが大事だと言うことはわかっても具体的にどうしたらいいのかということについては、まだまだとても分からない状態じゃないかなと思うんですよ」
今回のプラットフォームには、仕掛けた文科省の若手も手ごたえを感じたようだ。
立ち上げメンバーの佐藤悠樹さんは、「昨年のキックオフ以降、地方本部というプラットフォームが各地で作られました。当初そういうことが起きるとは思っていませんでした」と驚きを隠さない。
また、京都の教育委員会に出向している栗山和大さんは、「私はいま現場に近いところにいて、他からよい実践を学んだり自分の実践を共有したり、そういう機会がもっとあったらいいなと気づきました」と語った。
教育行政にアメーバのような新しい動き
文科省の若手の動きに、戸ヶ崎さんはこう言う。
「頭が下がりますよ。『課題は現場にある』と口で言うのは簡単ですけど、手弁当で休み返上して集まっているわけですよね。現場の立場からしても折角彼らが頑張ろうとしていることだから、頑張ってやらなくちゃという想いにさせられますね」
文科省の若手がプラットフォームとなり、ヨコ連携が難しい学校や自治体をつなげる。つながる場ができれば、課題を共有して一緒に解決できるかもしれない。アメーバのように、教育行政の新しい動きが起きているのだ。