「ママ…」と不安そうに母親を探す女子児童。広島市佐伯区で迷子になっていた児童を中学生3人が保護した。児童には重い知的障がいがあり、意思の疎通が難しい中、迅速な保護に役立ったのは「ヘルプマーク」だった。
中学生が迷子のヘルプマークに気づく
9月19日、広島市の佐伯警察署を訪れた城山中学校1年生の今岡柾人さん、佐伯嶺旺さん、定森敦士さん。
この記事の画像(9枚)3人は迷子になっていた女子児童を保護したとして警察から感謝状を受け取った。女子児童には重い知的障がいがあり、当時、保護者からの通報を受けて警察も行方を捜していた。
児童が行方不明になったのは、夏真っ盛りの8月21日。午後4時すぎ、自宅から塾に向かっていた今岡さんと定森さんは、手を振りながら母親を探す女子児童の姿を見つけた。「ママ…」と言い、不安そうな様子だったという。
女子児童のただならぬ表情に、定森さんは「知らない人が手を振ったりしてくることはないので、なんでなんだろう」と思い、「どうしたん?」と声をかけた。しかし、女子児童には知的障がいがあるため意思の疎通がうまくいかない。自宅が近い佐伯さんも「大変だから来て、とりあえず来て。急いで」と連絡を受け、合流。その時、目に入ったのは女子児童のバッグについていたヘルプマークだった。
なぜヘルプマークを知っていたのかと尋ねると、今岡さんは「テレビとかで見て。ヘルプマークを見つけたら困っている人だから助けてあげようと思っていた」と言う。
マークに貼られた“連絡先”が幸い
ヘルプマークの片面には「この子が困っているときはここに電話してください」というメッセージと母親の連絡先が書いてあった。勇気を出して電話をかけると、母親につながった。現在地を伝え、3人は女子児童と一緒に母親を待ったが、この日の広島市は午後4時でも35度近い猛暑。女子児童に飲み物や日傘を渡し、熱中症にならないよう気遣ったという。
迷子の女子児童を発見してから約20分。母親の車が見えた瞬間、児童は「お母さん」と言って泣きだした。車から降りてきた母親も泣いていた。無事に再会した2人は抱き合い、母親は中学生に何度もお礼を言ったそうだ。
この中学生3人は野球部の仲間でもある。「野球部として当たり前のことをしただけです。先生が礼儀や当たり前のことを教えてくれて、いいことをしたなと思いました」と今岡さんが少し恥ずかしそうに言うと、佐伯さんと定森さんも照れ笑い。
城山中学校・原田忠則校長は「3人の行動を誇らしいと思います。地域で育てられた子たちなので、困った人を助けることが当たり前になっているんじゃないかと思います」と話す。
佐伯警察署・河﨑啓史署長は「目の前で困ってる人を見つけたら助けなければいけないというふうに自発的に動いていただいたこと、すごく素敵なことだなと思います。小さな親切が広がっていってくれたら」と3人の冷静な対応をたたえた。
「ヘルプカード」の存在も知って
冷静な連携プレーでお手柄の中学生。優しい心と勇気、そしてヘルプマークを知っていたことが安全な保護につながった。
ヘルプマークは「援助が必要」なサイン。障がいや難病は外見ではわからないことがある。そんな人も援助を得やすいように作成されている。両面とも同じデザインだが、今回の保護者は片面に緊急連絡先を書いて貼っていたため、連絡が取れたということだ。
広島県ではヘルプマークとあわせて、障がい名や病名などを記入する「ヘルプカード」を希望者に配布。連絡先だけでなく、主治医や具体的にお願いしたい配慮も書けるようになっている。もしヘルプマークをつけて困っている人がいたら、ヘルプカードを持っているか聞くことで何か力になれるかもしれない。
(テレビ新広島)