生活拠点をどこにするかは、大切な選択だ。物件を見比べて探す人も多いだろうが、ちょっと違った試みがあるのをご存じだろうか。

それが「さかさま不動産」というウェブサービス。特徴は物件情報を掲載していないことで、代わりに、借りたい人が“夢や思い”を発信できるようになっている。物件を貸す側が、借りる側の情報を見て選ぶという、一般的な不動産サービスと“さかさま”のシステムなのだ。

マッチング成立までの流れ

さかさま不動産は公式サイトからアクセスできる、LINEを通じて利用できる。物件を借りたい人は、LINEから「物件を探している都道府県・市町村」を登録し、フォームから「やりたい思い」を入力。さかさま不動産からのインタビューも受ける。

借りたい場合の流れ
借りたい場合の流れ
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そうすると「物件でやりたいこと」「やりたい理由」「希望物件の基本情報」などが後日、サイトに記事として掲載される仕組みだ。実際は次のような“やりたいこと”が掲載されている。

・自然の近くの古民家で絵を描きながら暮らしたい
・地元の人やみんなが集まるゲストハウスを作りたい
・地域密着型の美容室を作りたい!

借りたい人が夢や思いを掲載できる
借りたい人が夢や思いを掲載できる

物件を貸したい人はこの情報を見つつ、気になればLINEからコンタクトをとれる。所有・管理する物件のエリアを登録すると、近場に借りたい人がいたらお知らせも届くという。

借りたい人と貸したい人が、賃料や改装の有無などを交渉し、お互いが納得できればマッチングは成立。地域の不動産業者などに引き継いでもらい、契約が成立するといった流れだ。

340人以上の借りたい人が集まった

さかさま不動産は2020年6月に設立され、340人以上が夢を掲載し、2024年9月26日時点では31件でマッチングが成立している。最近では今年6月、高齢で管理が難しくなったという住居を借り受け、子供の居場所や高齢者の見守り拠点がオープンした。

それにもかかわらず、サービスの登録料や仲介料は取っていないともいう。

古民家や使われない物件の活用につながり、SDGsの目標「住み続けられるまちづくりを」にも貢献しているが、なぜこのような試みを始めたのか。さかさま不動産を運営する「株式会社On-Co」(東京)の代表取締役・水谷岳史さんに聞いた。

“何かを始めたい人”を応援できる

――さかさま不動産が始まったきっかけは?

2011年、名古屋駅(愛知県)近くにある古民家を友人と借りたことです。許可をもらって改装したところ他の友人も住むことになり、シェアハウスとして運営するようになりました。その後も周辺の空き家を借りて、飲食店やレンタルスタジオも開きました。

そうしているうちに「物件はどう探しているのか?」と相談が来るようになり、大家からは「借りたい人はいないか?」と聞かれるようになりました。この人たちをつなげられると“何かを始めたい人”を応援できるコミュニティになるのではと思ったんです。

物件情報は非公開にしつつ、条件面は相談できる
物件情報は非公開にしつつ、条件面は相談できる

――さかさまのシステムなのはなぜ?

大家には物件情報を公開したくない方もいます。営業が来て困る。相手がどんな人か分からないと貸すのが不安といった理由です。一方で借りたい人に話を聞くと夢があふれています。それならシステムを“さかさま”にし、夢や思いで選んでもらうと良いのではと考えました。

東京・南麻布でマッチングした例も

――さかさま不動産を利用するメリットは?

貸し手と借り手のコミュニケーションがしやすいことです。借りたい人の夢や思い、物件をどう活用したいか分かった上で条件を相談できるので、信頼関係が構築しやすいです。古民家や使われていない物件が多いので、物件の改修がしやすいのも良いところだと思います。

愛知県でのマッチング例。空き家が書店に
愛知県でのマッチング例。空き家が書店に

――実際にはどんなマッチングがある?

地域のためになる場所を作りたい、何かの役に立ちたい方が多いですね。例えば、愛知県ではUターンのタイミングで書店開業を夢見ていた人と、本が大好きで近所に欲しかった大家さんがマッチングしました。小さな商店街に書店ができ、若い子が集まるようになったといいます。

長野県でのマッチングでは、見守りの拠点ができた
長野県でのマッチングでは、見守りの拠点ができた

――ほかにはどんなマッチングがある?

長野県では、多世代が利用する交流拠点を作りたい方と、高齢で住居の管理が難しい方がマッチングしています。こちらは住居が、子供の居場所や高齢者の見守り拠点となりました。

東京都では、畳工場がカフェギャラリーに
東京都では、畳工場がカフェギャラリーに

――印象に残っているマッチングは?

東京・南麻布にある、畳工場だった物件の大家さんから「良い人がいたら貸したい」と相談があったことですね。カフェギャラリーとして展示やイベントを開く場所となりました。空き家があるのは都心も地方も同じなんだ、活用してほしい人はいるんだと驚きましたね。

空き家「解消」ではなく「活用」を

――さかさま不動産を始めて気づいたことは?

マッチング件数は約4年で31件なので、数は多くないかもしれません。ただ、地方移住や新規事業の育成、空き家の活用による環境保護などにもつながります。自治体や地域団体には「空き家はあるが来てくれる人が見つからない。街にどんな人が向いているのかわからない」といった課題があると聞いています。そうした方々とも仕事をするので、不動産のマッチングだけではなく、多くの可能性があるかもしれないと感じています。


――現代の空き家問題について思うことは?

空き家は借りる人で使われ方が違います。お店に個性があったり、逆に特定のお店が集まると街の魅力につながるはずです。日本は人口が減っているので空き家の数は増えると思います。その「解消」だけではなく、どう「活用するか」が大切になるのではないでしょうか。



空き家は社会問題にもなっている。扱いに困っているなら“挑戦したい人”を応援するために貸すという、選択肢があっていいかもしれない。
(画像提供:株式会社On-Co)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。