仙台管区気象台は8月、岩手山で2024年2月ごろから山体膨張を示す地殻変動が観測されているとして臨時の解説情報を出し、噴火警戒レベルを2に引き上げる可能性があると発表した。日本には富士山や桜島など111の活火山があり、岩手山もその一つ。東北にある他の活火山の鳥海山や栗駒山などと同様、気象庁が噴火の予兆がないかを常時観測している。
この記事の画像(9枚)一方で、日本の美しい景色は火山を抜きには語れない。夏には新緑、秋には紅葉、冬には雪景色が楽しめ、火山灰は肥沃な土壌を作る。登山という楽しみを与えてくれるのも、その多くは火山だ。日本人の暮らしと切り離せない火山について正しく理解し、災害に備えてほしいと今年、「火山防災の日」が制定された。蔵王山を例に、現在の防災対策を紹介する。
火山は重要な観光資源
宮城県と山形県にまたがる蔵王山。かつての噴火によってできたとされる火口湖「御釜」は屈指の観光スポットとなっている。車で気軽に山頂付近まで登れることもあり、全国はもちろん海外からの観光客でにぎわう。「想像以上で感動する」「自然が作り上げた独特な色」などと絶賛される景色は、宮城県や山形県にとって貴重な観光資源となっている。
御嶽山噴火など受け対策強化
一方で、蔵王山は今も活動する活火山だ。2014年9月、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山が突如噴火し、登山客など58人が死亡、5人が行方不明となった。この惨事に加え、蔵王山でも火山性微動が相次いでいたことを受け、対策が見直されることになった。
例えば、防災スピーカー。噴火したときにはいち早く観光客に情報を伝え、レストハウスなどのより安全な場所への避難を促す。レストハウス横には防災倉庫も設置。ヘルメットや飲料水、保存用ビスケットなどを備蓄している。
また、登山中に噴火に遭遇したときのために、避難小屋の備えも充実している。噴石にも耐えられるようコンクリートで造られた刈田岳山頂付近の避難小屋は大人15人ほどが入ることができ、ヘルメットや飲料水、防塵マスクのほか、灯油とストーブも備え付けている。
こうした避難小屋は宮城県だけでも計3カ所設置されていて、突発的な噴火や天候不良などに備えているという。
24時間体制で監視
蔵王山の監視を行っているのは、仙台管区気象台の「地域火山監視・警報センター」だ。蔵王山も含めて12の火山を監視している。高感度カメラや赤外線カメラを用い、噴火や発光現象などが起きていないか、24時間体制で監視を行う。さらに、火山周辺に地震計や地殻変動を観測する装置などを設置し、地中で起きているわずかな変化も見逃さないようにしているという。
警戒レベル1でも噴火の可能性
火山活動の警戒を呼びかける上で、重要な指標となるのが、気象庁が全国49の火山で運用する「噴火警戒レベル」だ。宮城県では蔵王山と栗駒山がその対象となっている。静穏な状態のレベル1から最も危険度が高いレベル5まで、火山の活動状況に応じて警戒すべき度合いを示している。
臨時情報が出されている岩手山はレベル2に引き上げられる可能性が出ているが、9月2日時点で東北の火山はすべてレベル1となっている。しかし、レベル1でも活火山であることには留意しなければならない。御嶽山の噴火では、火山性地震が増加する傾向は見られたものの、レベルを上げるには至らず、レベル1のまま噴火を迎えてしまった。
火山防災を考えるきっかけに
「火山防災の日」に制定された8月26日は、1911年(明治44年)浅間山に日本最初の火山観測所が設置され、観測が始まった日。御嶽山の噴火から10年。火山のリスクを把握し被害を防ぐために、観測情報をうまく活用していくきっかけになることが期待されている。