「ごみ屋敷」の実態を総務省が初調査
家からあふれだす「ごみ」の山。うず高く積みあがった「ごみ」からは、ひどい臭いが立ち込め、ネズミや害虫がわいている。火災の恐れも高く、住んでいる本人だけでなく、周辺住民の生活環境にも悪影響を及ぼす。
そんな住宅が全国各地に点在している。
通称「ごみ屋敷」だ。
全国の自治体で事態改善に追われているが、居住者が「ごみ」の排出に応じないケースや、一度「ごみ」をきれいにしても再発してしまう場合があるなど、ほとんどが対応に苦慮している。
国や市区町村の対応状況はどうなっていて、取り組むべき課題は何なのか。
それを明らかにするため、総務省としては初めてとなる「ごみ屋敷」の実態調査を行った。
全国における「ごみ屋敷」の認知件数は、2018年度から2022年度の累計で5224件(2023年3月・環境省調査)。
総務省は今回、人口10万人を超える30市区の中にある181事例を調査した。
解決を阻む「ごみ」の定義の曖昧さ
「ごみ屋敷」解決に向けた難しさとして最初に浮かび上がったのが、そもそも「ごみ」とは何なのか、という問題だった。
一般的に「ごみ」とは「生活で発生する不要な物」や「使わなくなった廃棄物」のことを指す。
しかし、本人が「これは役に立つ、自分にとって大事なもの」とした場合、「ごみ」として扱いにくくなってしまうという。
今回の調査では、未解消事例の約3割は、私たちが「ごみ」と判断するようなものを「大切な宝物だ」と主張して、撤去に応じていなかった。
なぜそんなことが許されるのだろうか?これは国による「定義の曖昧さ」に起因している。
環境省の廃棄物処理法にもとづく「一般的な基準」とは次の通りだ。
「①物の性状、②排出の状況、③通常の取扱い形態、④取引価値の有無、⑤占有者の意思等を総合的に勘案して判断」
かなり曖昧な基準だが、確かに「占有者の意思」が尊重されているのはわかる。
自治体からは「現行の国の指針・通知の内容では、廃棄物処理法上の『廃棄物』に該当するとの判断が困難」「物の劣化状況や居住者が適正に管理していないことについて、具体的にどのように判断すればよいか示してもらいたい」など悲鳴にも似た意見が上がっていた。
居住者が拒否する場合の解決法は?
「ごみではない」と本人が主張さえすれば、本当に何も手出しができないのだろうか?
総務省は今回「居住者の意思は要素の一つではあるが、決定的な要素ではない」との見解を示し、環境省に対して「廃棄物処理法上の廃棄物の該当性判断に資する情報提供」をするよう求めた。
他方で「廃棄物処理法」以外の法令を使って解決した事例も報告された。
「ごみではない」と主張する居住者に対して「公営住宅法に基づいて、明渡しを請求した結果、退去した」というケースや「放置された大量のガスボンベ撤去を火災予防の観点から消防担当が助言し、撤去された」というケースなどがそれ。
このため、報告の中では、環境省だけでなく、国土交通省や消防庁などの連携も必要だと強調された。
「ごみ屋敷」居住者が抱える課題とは
ただ、廃棄物の定義の曖昧さを乗り越えたり、省庁連携による指導をしたりすれば「ごみ屋敷」問題がすべて解決するかというと、そう簡単な話ではない。
今回の調査で明らかになった、さらに根深い社会的背景が、「ごみ屋敷」居住者の健康面や経済的な状況だ。
調査した「ごみ屋敷」のうち、居住者が健康面か経済面で課題を抱えていた事例は7割にのぼっていた。
「ごみ屋敷」の6割が単身世帯で、そのうち半数以上が65歳以上の高齢者。また「ごみ屋敷」居住者の3割が生活保護の受給者だった。
要介護であったり、認知症や精神疾患であったり、生活困窮で撤去費用がなかったり。
また「ごみが堆積している」という事象だけを解決しようとしても、居住者の状況が把握できていなければ根本解決にならず、一度撤去しても再発の恐れが高いという。
実際、「ごみ屋敷」状態のうち、11.8%は「堆積が再発」したもので、19.3%は自治体が「再発の可能性あり」と判断している事案だった。
逆に「ごみ屋敷が解消」と判断された事例の7割で、ヘルパーによる居住介護や自治体職員の見回りなど福祉的支援の継続がおこなわれていた。
さらに、自治体と社会福祉協議会など関係機関が連携して福祉的支援や経済的支援をしたことで、ごみ屋敷を解消した事例も見られたという。
今回調査報告書をまとめた総務省は「ごみ屋敷は複雑な問題を抱えているので、これをやれば大丈夫という唯一の決定的な対策はない。複合的なアプローチが必要にもかかわらず、組織の縦割りで立ち往生している状況も見られる。関係省庁で連携し、環境を整えることが大事」と結論づけた。
今回、自治体からは「関連する法令の解釈や、国の支援方策、他の市区町村における取組事例等を教えてほしい」との意見も寄せられた。
複雑な要素が絡み合う「ごみ屋敷」問題。
「調査しました」だけで終わらせずに、どう根本解決に導いていくか。国や自治体で縦割りを排除した連携が期待される。
(フジテレビ経済部)