「12カ月に渡り、お支払いできなかったご事情を詳しくお伺いしたいんですが」。2024年8月6日、自宅にいたテレビ西日本報道部の記者のもとに海外からかかってきた1本の電話。それは身に覚えのないサイトの利用料を請求する架空請求の電話だった。
「夜8時過ぎに、夜勤明けで寝ているときにかかってきた。最初は話を聞いていたが、怪しいと思いカメラを回し始めた」とそのときの様子を記者は話す。

電話の主は実在する会社の人物!?
身に覚えのないサイトの利用料金を請求する「架空請求詐欺」の電話。+1(844)から始まる電話番号で、海外からの着信であることが分かる。電話の主は実在する会社「NTTファイナンス」の社員を名乗る「サカイ」という人物だった。
「29万3000円でございます」。サカイと名乗る人物は、記者が有料サイトに登録し、1年間利用料を滞納しているとして、額にして29万3000円を一方的に請求してきたのだ。

「何を利用したか、分からない」と全く身に覚えがないため利用履歴を問い質す記者。するとサカイは「あー、何かワンクリックに引っかかってしまったことってありませんか?」と謀ったように問いかけて来る。サカイは「ワンクリック詐欺」という別の詐欺の名前をだして「架空請求」に信憑性を持たせようとしているのだ。
「明日にも民事裁判の手続きが…」
サカイは続ける。「例えば、いま一番多いのが、ご高齢者さまの間違えての操作や小さいお子さまの操作、誤ってご登録に進んでしまい料金が確定してしまい、料金が確定してしまったというケースもございます」とマニュアルを読むように丁寧な口調で説明を始めた。そして「長期未納状態が続いてしまっているので、明日以降、東京地方裁判所にて民事裁判の手続きが行われることが決まっているということでしたので」と続けた。

「明日ですか!? 明日にもう裁判ですか?」と記者が驚いてみせるとサカイは「○○さま(記者)が、債務関係の解消等行うのであれば、本日、早急な対応という形で行っていただく」と29万3000円を支払わなければ、翌日にも法的措置をとるとプレッシャーをかけてくる。
サカイが告げた奇妙な提案
記者が再度、使用履歴の照会を迫るとサカイは「確認の方させていただきますと…、昨年の7月15日の日にですね、やはり…、○○さん(記者)の携帯電話から間違いなく、ご登録はいただいておりまして。一度、29万3000円のお支払いは、本日、必ず必要とはなるんですけど」と伝えたあと奇妙とも思える提案をしてきたのだ。

「ただ…、誤認登録として申請が出た場合は、お支払い資金に対しての95%。こちらが7日から10日前後で、ご返金対応の手続きとることができます」とサカイは続けた。いったん、29万3000円の入金は必要となるが、10日以内に95%を返金するというのだ。被害者を一度安心させる巧妙なテクニックなのか。
その後、記者は指定されたコンビニに向かい、入金を急ぐ振りをみせる。
振込先は「シゲマサ ショウヘイ」
「これより確認をとって参ります。少々お待ち下さい」(サカイ)。「これ、私は店舗に入った方がいいですか? それとも外で待ってた方がいいですか?」(記者)。「外でお待ちいただければと思います」(サカイ。)店員に見破られるのを恐れてか、サカイからは店舗外で待つよう指示された。そしていよいよサカイは核心へと導く。「(口座の名義が)『シゲマサショウヘイ』という方になります。こちら弊社の経理のものになります」とシゲマサという個人名義の口座への振り込みを指示するサカイ。

「サカイさん、詐欺っぽいなと私、思ってるんですけど」と記者が詐欺の可能性を指摘した。するとサカイは「なのであれば、ご自身で電子決済行ってもらっても構わない」とすかさず応えた。狙った獲物を逃がしたくないのか、別の支払い方法を提案してきたのだ。ここで記者が身分を明かし問い詰める。その途端、電話は切られた。
1時間以上に渡ったサカイとの通話。その後、電話をかけても応答はなかった。
「個人口座に振り込めなんてことはない」
サカイが所属しているというNTTファイナンスの広報に確認すると「個人の口座に振り込めなんてことは毛頭ないですし、そういうことからも(電話は)詐欺だと。いまは正直、詐欺がたくさんありますね。だいたい、月に1500件以上。不審だなと思ったら、話をその場で切り上げてNTTファイナンスのホームページを検索して下さい。いろんな手口を載せていますので、そこで詐欺だと気づいていただければなと」と担当の小澤佳晃さんは話す。
(テレビ西日本)