私たちが普段利用している高速道路。使用開始から年月が経ち、補修が必要となっている区間もある。今回は、開通以来最大規模のリニューアル工事の現場に密着した。

高速道路リニューアル工事の現場に密着

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工事が行われていたのは、道央自動車道の千歳川大橋。江別西インターチェンジと江別東インターチェンジの間にある、長さ約1キロに及ぶ橋だ。33メートルの区間2か所が工事の対象となった。

「リニューアルプロジェクトで、床版の取り替え工事を進めている」(NEXCO東日本 三膳和馬さん)

橋は大まかに言うと、土台となる「橋脚」、道路を支える「桁」、そして車が走行する「床版」で構成されている。このうち、床版を取り替える大規模な工事が行われた。

約2か月間にわたり片側車線を規制し、対面通行にして工事が実施された。

高速道路の利用者に不便を強いることになったが、このような大規模な工事が必要とされる理由は何か。

橋の専門家、林川俊郎北大名誉教授によると「橋にも寿命がある。床版の上を車が走るので、一番最初に傷むのは床版だ。床版がだんだん薄くなると、衝撃が加われば穴が開いてしまう。事故が起きたら困るので、予防保全として早めに手当てする」という。

北海道の物流を支える大動脈

提供:ネクスコ東日本
提供:ネクスコ東日本

北海道で初めて開通した高速道路は、北広島・千歳間の23.3キロ。これは札幌五輪の前年、1971年に開通したものだ。現在では総延長が約1192キロに達し、北海道の交通や物流を支える大動脈となっている。

長年にわたり北海道の交通ネットワークを支えてきた高速道路も、床版の劣化が進んでいる。橋の下から床版を観察すると「白い亀甲状のひび割れが床版下面まで入っている状況で、上面はかなり劣化が著しくなっている」(NEXCO東日本 三膳さん)という。

次に、床版を上から見ると、アスファルトをはがした状態で「床版の上面が削れて鉄筋が露出している。重交通による繰り返しの疲労でひびが入り、水分や塩分が浸透して損傷が進行していく」(三膳さん)状況が確認された。

北海道ならではの過酷な気象条件も

今回の工事対象となった千歳川大橋を含む札幌・岩見沢間は1983年に開通し、交通量は当時と比べて6倍に増加している。さらに、北海道ならではの過酷な気象条件も床版の劣化に大きな影響を与えている。

「積雪寒冷地である北海道では、冬場に塩分を多く含んだ凍結防止剤をまく。本州と比べて、北海道の道路は非常に過酷な状況で使われている」(北海道大学 林川名誉教授)という。

冬に散布される凍結防止剤は、海水の6倍にも及ぶ塩分濃度を持つ。この塩分がアスファルトのひび割れから床版に浸透し、腐食を進行させることで、雪の積もらない地域と比べて損傷が激しくなるのだ。

これまでは都度補修が行われてきたが、今回は床版そのものを取り替える抜本的な工事が実施された。

工事現場における働き方改革

約2か月間にわたる対面通行での工事中、利用者からは「夜間など、車通りが少ない時にやった方がいい気がする」(高速道路の利用者)という意見もあった。

工事の際に通行車線に破片が飛散すると、大事故につながる恐れがあるため、細心の注意が払われている。夜間に作業を行えば事故のリスクや利用者への影響も軽減できるが、背景には働き方改革もある。

「建設業界でも働き方改革が進んでいる。この工事現場では残業なしで週休2日を確保しながら工事を進めている」(NEXCO東日本 三膳さん)。

2024年4月からは、建設業でも時間外労働の規制が強化された。これにより、長時間労働の是正をのため週休2日を確保できる工期の設定が行われている。

高速道路工事における技術革新

働き方改革を進めるために、さまざまな技術進歩が後押ししている。

この日は新しい床版の設置作業が行われ、33メートルの区間に1枚約17トンの床版が11枚設置された。

かつては現場でコンクリートを流し込み、固まるまでに約1か月かかったが、現在では「1枚設置するのに大体20分」(三膳さん)で済むようになっている。工場で事前に製造した床版を輸送することで、工期や労働時間の短縮が可能となった。

性能も向上し、新しい床版は耐久性と防水性が向上。同じ品質で製造できるメリットもある。

高速道路を支える職人技

さまざまな技術の進歩が実現したが、工事の安全性を確保するためには現場作業者の高い技術が不可欠だ。職人技の積み重ねが、高速道路を支えている。

「設計値は15ミリ以内の誤差。ずれてしまうと、一からやり直し」(三膳さん)という厳しい基準の中、ミリ単位で調整しながら作業を進める。

設置し終えた床版には、防水性を高めるコーティングが施され、床版の上をアスファルトで舗装する作業が続く。延長66メートルの区間に23枚の床版を設置し、大規模なリニューアル工事は終了した。

「以前と比べると、かなりきれいになりとても気持ちがいい。利用客の安全性や道路の耐久性を向上させるのは、やりがいのある仕事」(三膳さん)。

今後も、高速道路のネットワーク機能を維持するためのリニューアルプロジェクトは続いていく。

北海道文化放送
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