夏山シーズン真っただ中、「北アルプスの貴婦人」とも呼ばれる富山県の名峰・薬師岳の絶景を紹介。登山の疲れを癒やしてくれる山ごはんのおもてなしや、国の天然記念物で絶滅危惧種の「ライチョウ」との出会い、氷河が長い年月をかけて削り出した「圏谷群」など、その魅力は計り知れない。
小屋を基点に多彩なルートを楽しめる
8月7日から3日間、山の日を前に薬師岳を取材した。富山市の有峰林道、折立登山口から登山を始めると1時間ほどは蒸し暑い樹林帯だ。この日、登山道ではクマが目撃された。有峰地区はもともとクマのすみかで、そこへ人間が足を踏み入れているのだ。
この記事の画像(22枚)登山口から約5時間半が経過したころ、北アルプスの秘境・奥黒部の玄関口、標高2330メートルにある太郎平小屋に到着した。
この太郎平小屋を基点に、奥黒部の多彩なルートを楽しむことができる。
山を深くえぐるように流れる黒部川の最上流部に流れ込む沢のひとつ「赤木沢」は、日本一明るく美しいといわれている沢だ。高原散策や沢歩きなど変化に富んだ奥黒部の山歩き、その旅を支えてくれるのが山小屋だ。
2024年に70周年を迎える太郎平小屋には7日、約130人が宿泊していた。7日の山ごはんのメニューはハンバーグとカジキマグロの昆布締めだった。登山の疲れを癒やして食事を楽しんでほしいと、小屋では日替わりメニューでおもてなししている。
国の天然記念物である絶景を堪能
翌8日朝に太郎平小屋を出発し、薬師岳へ向かった。草原の中の木道を進んでいく途中、遠くには槍ヶ岳、そして黒部五郎岳など名峰を楽しむことができる。
さらに、薬師岳山荘を過ぎるとライチョウに出会った。薬師岳の斜面では、ライチョウがよく見られ、まだうぶ毛の残る子どもを母鳥が見守っていた。
立山連峰の最南端にそびえる、標高2926メートルの薬師岳。たおやかな台形、その悠然とした立ち姿から「北アルプスの貴婦人」とも呼ばれている。
そして薬師岳の山頂に到着。そこにある祠(ほこら)は2023年、52年ぶりに建て替えられ、2024年には開山以来、初めて薬師三尊が安置された。三尊は登山者を優しく見守っているようで、8日は山の日を前に山頂もにぎわっていた。
薬師岳からさらに北の方角へと足を伸ばすと、北薬師岳へと続く切り立った岩場の登山道がある。そこには、ここまで来ないと見られない景色が広がっている。
「カール」は氷河の侵食によってできる谷地形で、このエリアは4つのカールが「薬師岳の圏谷群」として、国の特別天然記念物に指定されている。
氷河が長い年月をかけて削り出した「金作谷カール」は、おわんを半分に割ったような、見事な形。夏でもまだ雪が残っていて、絶景を堪能することができる。
“雲海”広がる 雲の上から見た景色
取材班は、薬師岳の南西直下に位置し、白玉あんみつが名物の薬師岳山荘にお世話になった。小屋の裏にはいくつもの大きなタンクがあり、天水、雨水を最大20トンためることができる。
「雨水だけに頼っているんで。お客さんが到着したあと、夜に雨が降ることを祈っています」と話す薬師岳山荘の堀井琢道さんは、タンクの水を「命の水」だという。
稜線上に建つ小屋にとって、水は貴重品だ。宿泊客に、山の上でも快適に過ごしてもらおうと工夫をしている。
刻々と変わり続ける、夏山の表情。最終日の9日午後7時前。薬師岳山荘の正面には、雲海が広がった。夏の北アルプスでしか出会えない、静かで美しい景色がある。
(富山テレビ)