自動車7社の2024年度第一四半期の決算が出そろった。今期も引き続き、ドル高円安による為替影響が業績の押し上げ要因となった。
5社は「増収増益」
トヨタ自動車は、売上高が11兆8378億円、営業利益は1兆3084億円で、同じ時期として過去最高の実績となった。
日本で生産・販売台数が減少したものの、為替や原価低減の取り組みのほか、引き続き北米を中心としたハイブリッド車の好調さが押し上げた。ハイブリッド需要は、前年比の1.2倍から1.5倍ほどだという。
同じく増益となったホンダは、営業利益が四半期で過去最高となった。同じくホンダも北米を中心にハイブリッド車の販売が好調で日本とアメリカで販売台数が増加するなどし、営業利益は902億円増えて4847億円だった。
この記事の画像(5枚)このほか、スズキ・スバル・マツダの3社も増収増益となった。
スズキは、円安で375億円増益となったほか、国内で軽ハイトワゴン・新型「スペーシア」が好調だったことなどから、営業利益は60.8%増えて1575億円となった。
スバルは、主軸を置くアメリカで販売台数が減少したものの、円安が409億円押し上げ増益となった。
マツダは、営業利益が67.7%増え503億円だった。特に北米では収益性の高い「ラージ商品群」としている大型SUVなどの販売が伸び、北米での販売台数は同じ時期として過去最高となった。
一方で、大きく減益となったのは日産自動車だ。営業利益は99.2%減少した9億9500万円だった。北米にハイブリッド車を投入できていないことや、2023年モデルの在庫を多く抱えたことによるインセンティブなどの販売費用が膨らんだ。
三菱自動車も、主力市場のASEANでの経済の低迷、とりわけタイのインフレが響き減益。営業利益は21.3%減った355億円となった。
「急激な変動は困る」「金融不安に移っていくのは怖い」日本のマーケットへの発言も…
各社の決算内容に関心が集まる中、このところ乱高下が続く為替や株式市場への発言も注目された。
各社の受け止めを、発表日の相場とともに、時系列順でまとめた。
7月23日
▼日経平均株価(終値):3万9594円39銭
▼ドル円相場(中心相場):156円72銭
三菱自動車が決算会見を行ったこの日は、大きな変動は見られていなかった。ASEANに主軸を置く三菱自動車は、インフレが厳しい市場環境でも「アジアに軸を置いてビジネスをやっていくという戦略に変わりはない」と強調した。
7月25日
▼日経平均株価:3万7869円51銭
▼ドル円相場:153円25銭
この日のドル円相場は、一日で3円程度の値幅があった。日産自動車のマーCFOは為替相場について「1円でも動くと、プラスマイナス両方に影響がある」とした上で、「安定的な為替が望ましいと思っている」と話したほか、内田社長も「きちっと注視していかなきゃいけない」と話した。
8月1日
▼日経平均株価:3万8126円33銭
▼ドル円相場:149円55銭
トヨタ自動車の決算発表日も為替相場の大きな変動が続いていて、山本経理本部長は、トヨタはいろんな地域で事業所を建ててビジネスをすることを長期的に行っているとした上で「マーケットの変動にしっかり対応して事業をやっていくしかない」と話した。
8月5日
▼日経平均株価:3万1458円42銭
▼ドル円相場:145円65銭
この日は、一日で日経平均株価の下げ幅が4000円を超え、過去最大の下げ幅となった。この日に決算説明会を開いたスバルだが、注視しているのは「アメリカの株安」だとした。
アメリカは、スバルの販売の7割近くを占める主力市場。水間CFOは、米株安は「消費、特に自動車を含む比較的高額な消費に影響があるので、気になるところ」だと説明した。
8月6日
▼日経平均株価:3万4675円46銭
▼ドル円相場:145円02銭
前日に4000円下落した日経平均株価、この日は3000円を超える上げ幅を記録し、上げ幅が過去最大となった。スズキの鮎川副社長は株価の乱高下について「びっくりしている」とした上で、為替の円高進行による販売への影響についても触れ「安定した形で為替が推移することでいろんな対策を打てる」とし、「ある段階で落ち着いてくれるのではないかと期待感を持って現状を見ている」と述べた。
8月7日
▼日経平均株価:終値3万5089円62銭
▼ドル円相場:144円75銭
乱高下が続く中、決算説明会を行ったホンダ。藤村CFOは一連の値動きについて「実質経済に波及をし、もしくは金融不安みたいなところに移っていくといったところが非常に怖い」と懸念を述べたものの、「変化に強い事業構造をいかに日頃から高めていくこと」が必要だとした。
また、同じ日に会見を行ったマツダでもガイトンCFOは、「このような変動が激しい時期でも、我々はこれに過敏に過剰に反応することなく、慎重に見極めて対応していきたい」とし、市場の変動による投資計画の変更はないことを強調した。
重要なのは“見極め”
変動が続く中ではあるが、各社の業績を押し上げた要因のうちの一つは「為替影響」。2024年度通期の為替レートについては各社で対応が分かれたが、各社「注視している」「見極めていく」という発言が多く聞かれた。
【2024年度通期 為替レート】
日産自動車:145円/ドル(5月時点) 155円/ドル(今回時点)
マツダ:143円/ドル(5月時点) 150円/ドル(今回時点)
【各社の発言】
日産自動車:「数日前に推計をしたときは155円で安定していた」「必要に応じてアップデート」(マーCFO)
マツダ:「上期153円・下期145円ほどになれば、そんなに円安に見ているという感じではないと思う」(藤本執行役員)
【為替レート据え置き】
140円:ホンダ
142円:スバル、三菱自動車
145円:トヨタ、スズキ
2023年は各社新型車の投入や、フルモデルチェンジが相次いだが、2024年は各社将来のEVシフトに向けた取り組みに注力しているようにみられる。
変動が大きい市場環境の中、各社は為替レートをはじめとして通期の見通しを慎重に見極めている。為替相場が日本の産業を支える自動車業界の業績を占う材料になる。
平均株価 出典:日経平均プロフィル ヒストリカルデータ
円相場 出典:日本銀行 外国為替市況(日次)データ