不動産取引をめぐる21億円の横領事件で罪に問われた、不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さんが、その後の裁判で無罪となった冤罪事件。
大阪高等裁判所は8日、取り調べを担当した当時大阪地検特捜部の検察官に対して、刑事裁判を開くべきとする異例の決定を出した。
【動画】特捜部検事に対する刑事裁判を開く異例の決定 冤罪「プレサンス」事件
この記事の画像(9枚)山岸さんの代理人 中村和洋弁護士:現決定を取り消して、当該検事を審判に付す、特別公務員暴行陵虐罪で起訴するという決定が出ました。非常に画期的な判断だと思います。
前例のない裁判所の決定に8日、弁護団は安堵の表情を見せた。
■「真実とは異なる供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない」大阪地裁が取り調べを批判
「プレサンスコーポレーション」の社長だった山岸さんは、土地取り引きをめぐり、部下らと共謀して21億円を横領したとして大阪地検特捜部に逮捕・起訴された。
しかし、その後の裁判で無罪が確定。 判決の中で大阪地方裁判所は、検察官が行った山岸さんの元部下に対する取り調べについて、厳しく批判した。
大阪地方裁判所 坂口裕俊裁判長(当時):必要以上に強く責任を感じさせ、真実とは異なる供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない。
■「大罪人」「損害を賠償できますか?」公開された取り調べ映像に
そしてこの後、山岸さんが検察に対して起こした国家賠償請求訴訟で、検察官が行った強引な取調べの実態が明らかになった。
以下の発言は、刑事裁判の判決の中で非難された検察官のもの。 国家賠償請求訴訟で公開された、実際の取調べの一部を記録した映像に残っていた。
大阪地検特捜部(当時) 田渕大輔検事:なんで、そんなことしたの。それ何か理由があります?それはもう自分の手柄が欲しいあまりですか。そうだとしたらあなたは、プレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ。
大阪地検特捜部(当時) 田渕大輔検事:これ例えば会社から今回の風評被害とか受けて、会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます?10億、20億じゃすまないですよね。それを背負う覚悟で今、話をしていますか。
■別の日の取り調べでは「声を荒らげ」「机たたく」様子も
さらに山岸さんの弁護団によると、公開されなかった別の日の取り調べでは、声を荒らげたり、机をたたいたりする様子もあった。
大阪地検特捜部(当時) 田渕大輔検事:(右手を自分の顔のあたりまで振り上げ、振り下ろし手の平で机を1回たたく)嘘だろ!今のが嘘じゃなかったらいったい何が嘘なんですか!
大阪地検特捜部(当時) 田渕大輔検事:(以下、声を荒らげて)命かけてるんだよ!検察なめんなよ!命かけてるんだよ、私は!かけてる天秤の重みが違うんだ、こっちは。
(※取り調べ映像を見た弁護団の監修によって関西テレビが再現したやり取り)
この取り調べで得た元部下の供述によって山岸さんは「共犯」とされ、起訴された。
■「机を叩き、怒鳴り責め立て続けた言動」に罪の嫌疑と大阪地裁
無罪となった山岸さんは捜査で違法な取り調べが行われたとして、裁判所に罪に問うよう直接求める「付審判(ふしんぱん)請求」を申し立てた。
この請求に対して大阪地裁は去年3月、「机を叩き、怒鳴り責め立て続けた言動は特別公務員暴行陵虐罪の嫌疑が認められるべき」と指摘。(佐藤弘規裁判長) 一方で刑事裁判にかける判断には至らなかったことから、山岸さんは大阪高裁に不服を申し立てていた。
■大阪高裁は刑事裁判を開くべきと結論付ける
そして8日、弁護団のもとに大阪高裁の決定が伝えられました。
山岸さんの代理人 中村和洋弁護士:非常に大きな決定かつ画期的な判断ですので、捜査実務に与える影響は極めて大きいと思います、刑事司法が変わると言っても過言ではない。
大阪高裁は、山岸さんの元部下に対する取り調べでの発言は「元部下の恐怖心をあおる脅迫的な内容」などとして「陵虐行為」に当たると判断。そのうえで、「取調べは虚偽供述が誘発されかねない危険性の高いもので、今後繰り返されないようにすべき」などとして、特別公務員暴行陵虐罪に問う刑事裁判を開くべきだと結論付けた。
■大阪高裁「検察における捜査・取調べの運用の在り方について組織として真剣に検討されるべき」
山岸さんの代理人の1人、西愛礼弁護士は刑事裁判を開くとした決定文を読んで次のように述べた。
山岸さんの代理人 西愛礼弁護士:すごいな…『本件は、個人の資質や能力にのみ起因するものと捉えられるべきではない、改めて今は検察における捜査・取調べの運用の在り方について組織として真剣に検討されるべきである』と。なんか弁護団の思い、山岸さんの思いが通じている気がしますね。
特捜部の検察官が特別公務員暴行陵虐の罪で刑事裁判にかけられるのは極めて異例だ。
山岸さんは「公正な判断をしていただいたことに、裁判所に感謝する」とコメントしている。
(関西テレビ「newsランナー」2024年8月9日放送)