クマの目撃や被害が全国的に増加する中、静岡県富士宮市ではシカを捕獲するために仕掛けられたワナに誤ってクマがかかるケースが相次いでいる。クマはどんなワナにかかったのか?一方、捕獲されたクマを駆除せずに山に返す理由はどこにあるのか?
猟友会も驚く “異例”の多さ
この記事の画像(14枚)木の間で動く黒い物体。かなり大きく見える。
2024年6月16日、富士宮市の白糸地区にある山林で見つかったオスのツキノワグマだ。
第一発見者は「田んぼの様子を見に行った時に(シカ用の)ワナが仕掛けてあるので見に行った。クマがかかっていて、驚いたというものではなく、びっくり、怖くて急いで逃げてきた」と、その時の恐怖を振り返る。
さらに3週間後の7月8日。富士宮市根原の山林にまたしてもツキノワグマが現れ捕獲された。
西富士山麓猟友会の藤浪庸一 会長は「ちょっと異例。今までにこれほど多く錯誤捕獲でワナにかかったことはない。個体自体(クマ)もかなり痩せている。食べるものがないから、どうしても下りてきてしまう状況だと思う」と指摘する。
2024年に入り、富士宮市ではシカ用のワナにクマが誤ってかかってしまう、いわゆる「錯誤捕獲」が相次いでいて、6月と7月の2カ月だけで9頭にのぼる。
クマがかかった“くくりワナ”
クマはどんなワナにかかったのか。
7月18日、実際に錯誤捕獲でクマが捕らえられた現場を地元の猟友会に案内してもらった。
クマが捕獲されたワナはいずれもニホンジカの駆除を目的に仕掛けられた“くくりワナ”と呼ばれるもので、行政からの依頼を受け猟友会が設置したものだ。
足首などにくい込む金具がついた箱型のワナをワイヤーで木に固定してケモノ道に設置する。ワナはわからないように土で覆われていて、動物が踏むと作動する仕組みとなっている。
案内してくれた西富士山麓猟友会の内野達雄さんも、これまでに何度かクマの錯誤捕獲を経験しているそうだ。
内野さんは「クマはシカと違って恐ろしい。遠くからワイヤーが切れそうかどうか、大丈夫か観察して、それからある程度近寄って見る。確かにクマの方が怖い。ワイヤーの切れる率も高い」とクマの怖さを強調する。
現場には7月18日の取材時点でも至る所にクマの痕跡があった。
池田孝 記者:
私は今、クマが錯誤捕獲された現場に来ています。こちらをご覧ください。木が倒され、爪痕が残り、皮がはがされています
捕獲したクマを駆除しない理由
ただ、静岡県内ではこうして錯誤捕獲されたクマは駆除せずに麻酔で眠らせたあと山へ返すのがルールとなっている。一体なぜなのだろうか?
県はその理由を「クマは繁殖力が高くない動物といわれ、捕獲圧をかけすぎると絶滅の恐れがある」と説明する。
一方で、近年は錯誤捕獲される場所が徐々に人里へ近づき、クマの目撃数も2023年度は過去最多の121件を記録した。
県自然保護課・小澤真典 班長:
生息範囲が広がっているのかなというところはある。今まではクマがいなかった場所でも見かけるような状況になってしまったために、目撃数が増えたり錯誤捕獲が増えたりということが多く発生していると考えられる
「駆除も視野に入れるべき」
こうした状況について、県猟友会の金澤俊二郎 会長は、「放獣しても元に戻ってきてしまうので、“いたちごっこ”になっている」と危惧し、「クマが人里に近づかないようにする対策はもちろんのこと、場合によっては駆除の実施も視野に入れるべき」と主張する。
県猟友会・金澤俊二郎 会長:
我々も(静岡県の)決まりを破るわけにはいかない。県と話をして、事故に遭う前に対処していきたい
猟友会によるとクマの錯誤捕獲現場では麻酔業者が来るまで待機するが、麻酔業者が少ないため待機時間が長くなり、クマの動きに非常に神経を使うそうだ。
人間とクマの共存はどうあるべきなのか。
静岡県は2025年度にかけて生息調査を実施し、現状を把握した上でクマの保護と県民の安心・安全の両立に向けた対応を検討する方針だ。
県の生息調査はカメラ調査とGPS調査の2つの方法で行われ、カメラ調査ではセンサーカメラによる撮影でクマの生息密度を把握し、GPS調査では行動パターンや行動範囲を把握する。
その上で、得られた結果をもとに、専門家に意見を聞きながら今後の方針を決めるという。
(テレビ静岡)