離島の防衛を想定した日米共同訓練「レゾリュート・ドラゴン」が2024年7月28日から沖縄や九州などで実施された。軍事一体化を加速させ、訓練の意義を強調する陸上自衛隊やアメリカ海兵隊。一方、「再び島が戦場になり、出ていかざるを得なくなる」と住民からは不安の声があがっている。
離島防衛に重点 日本最西端の島で
沖縄や九州などで実施されている国内最大規模の実動訓練「レゾリュート・ドラゴン」。陸上自衛隊からは西部方面隊などおよそ5700人、アメリカ海兵隊は2023年に発足した離島防衛の中心部隊、海兵沿岸連隊・MLRなど3200人が参加した。
一部の公道や民間施設も使用し離島防衛のための連携強化を図る。1700人が暮らす与那国島には、110人ものアメリカ兵が展開した。与那国駐屯地内ではアメリカ海兵隊の最新鋭のレーダーが持ち込まれ航空機やミサイルなどの警戒・監視訓練をおこなった。また、負傷者をテントの中で治療し自衛隊機で運ぶ訓練なども実施された。
この記事の画像(6枚)西部方面総監 荒井正芳 陸将:
強固な日米同盟の抑止力、対処力を内外に示すことは、我が国防衛の観点からも極めて重要だと認識しています
第3海兵機動展開部隊司令官 ロジャー・B・ターナー 中将:
中国の行動は挑戦的であり、この地域で何十年にもわたって保障されてきた平和と秩序を損なうものだ。日米両国は継続的に協力と体制を強化し、断固として侵略を抑止し、効果的で必要な備えを十分に確保する
日米の部隊トップが国境の島・与那国島で訓練の意義を語る背景には「中国をけん制」する思惑がすけて見える。
抑止力の効果に疑問も
一方、こうした状況に警戒感を抱く住民もいる。2024年8月4日に会見を開いた有志は、抑止力の効果に疑問を呈する。
狩野史江さん:
いま世界で軍備があるから安心と思っているところがあるでしょうか。戦争しているところで、軍備があるところこそ狙われていますよね
猪股哲さん:
抑止力というのは、漠然とした国とか国体とか言われるものを守れるのかもしれないですけど、住民の命を守るものではない
与那国で生まれ育った長濱智恵子さん(91)は、かつて戦場となった故郷の記憶が脳裏から離れない。目の前の光景は当時の状況と重なって見えるという。
長濱智恵子さん:
目の前に戦争がきたと思うね、怖いね。なんのために与那国に米兵が100人も来るのかというのが考えられない
1944年、長浜さんは与那国国民学校の5年生だった。
長濱智恵子さん:
学校の上に飛行機が来ているわけですよ。パラパラパラという音にみんなびっくりして。腕の血がダラダラだったり、足がやられている人を、宇良部岳から兵隊が担いで降りてくるのをみんな見ているわけ
長濱さんは、80年の時を経て歴史が繰り返されてしまい、「与那国にいられないような感じになってしまっている」と不安を募らせる。
まるで疎開ではないか・・・募る不安
台湾有事を念頭に、政府は宮古・八重山地域の住民の避難計画の策定を急いでいる。台湾に最も近い与那国町も避難の在り方について住民との意見交換会を開催した。示された計画案では航空機を11便運航させ、1日で全島民が与那国島を脱出。福岡空港を経由し佐賀県へ避難させるとしている。しかし住民の不安はぬぐえない。「島を出た後の家や畑の保全はどうなっているか」「避難先での生活はどうするのか」相次ぐ質問に町の担当者は「検討中」と答えるしかなかった。
長濱智恵子さん: みんなそれぞれ持病もあるし、お薬を毎月もらったりしているわけですよね。そういうことが、与那国にいるみたいにできるかなとすごく考えるんです。避難しろと言われて、簡単に「はい、いきます」と言えないわけですよね
「まるで80年前の疎開ではないか」。島に危険にさらされる事を前提とした計画に不安を募らせる。
国境の島 日米軍事一体化の象徴に
長濱さんら住民が不安を抱くのは今回の日米共同訓練だけが理由ではない。自衛隊の配備以降、与那国島を取り巻く情勢は急速に変化しているからだ。2024年5月、アメリカのエマニュエル駐日大使が初めて島を訪問し抑止力の必要性を強調した。糸数健一町長は終始笑顔で対応したが、大使が島を離れると「公務を終えた」として取材に応じなかった。「一戦交える覚悟が必要」。糸数町長は改憲派の集会でそう訴えた。先鋭化する町長の言動は日米両政府にとって「地元の声」として歓迎されている。
自衛隊が配備された島で、こうした動きに反対を明言するのは難しい。91歳の長濱さんは「もとの与那国島になってほしいと思う」と願いを込めた。不安を訴える住民の声をかき消しながら、国際情勢の安定や抑止力の名の下に軍事一体化を加速させている。