山陰でも各地で「まちの本屋」が姿を消している。全国で書店の閉店が相次ぎ、このままでいくと2028年には、多くの街から書店が姿を消すと警鐘を鳴らす専門家もいる。国も「書店振興プロジェクトチーム」を立ち上げるなど、対策に乗り出した「書店衰退」の背景を取材した。
ネット普及で「リアル書店」が苦戦
島根・西部の大田市で、「やはり寂しい、あったものがなくなるというのは」と市民が振り返るのは、2024年3月末に閉店した書店「ブックセンタージャスト大田店」だ。
人口3万1000人余りの大田市も、これで“書店ゼロ”の地域になってしまった。
国内の書店の数は、2023年の時点で、約1万1000店。ここ20年で半分にまで減少し、新刊や雑誌を扱う本屋がない、いわゆる「書店ゼロ」となった市町村の割合は、島根県が26.3%、鳥取県が36.8%。島根・鳥取両県では3割前後が書店の“空白地域”となっている。
その大田市民に聞くと、「リアル書店はあった方がうれしい」とはいうものの、“書店ゼロ”の影響については、「スマホがあるので、ないといったらないが…」と返ってきた。
全国で苦境に陥っている「リアル書店」、その苦戦の背景にあるのが、ネット通販や電子書籍の普及だ。書店で購入しなくても、本を手にできる時代が訪れている。
島根・鳥取両県では、2024年に入って、境港市の1店舗が閉店、浜田市の1店舗が8月末に閉店する予定で、書店の閉店が相次いでいる。
紙の教科書販売減少でさらに苦境に
消えゆく「まちの本屋」にとって、存亡にかかわる大きな節目が2028年にも訪れると警鐘を鳴らす専門家がいる。
経営コンサルタントの小島俊一さんは「2028年にはデジタル教科書が本格化するので、本当に書店にとどめを刺すんじゃないか」と話し、このままでは「まちの本屋」がゼロになるのも避けられないという。
小島さんは、書籍を書店に卸す出版取次大手「トーハン」の元執行役員で、愛媛県内の老舗書店に出向して社長に就任、独自の手法で業績を回復させ、経営を立て直した。当時の経験を踏まえ、これからの書店、出版業界の在り方についても提言している。
小島さんは2024年5月、書店の衰退に歯止めをかけるため約30人からの提言を一冊にまとめた「2028年 街から書店が消える日」を出版した。
タイトルにある「2028年」には、小中学校のデジタル教科書の普及がさらに進み、まちの書店にとって重要な経営の支えになっている紙の教科書の販売が減少し、書店はさらに苦境に追い込まれるとみられている。
卸と小売の立場で出版・書店業界に身を置いた小島さんは、「普通はメーカー側が決めた小売価格で(小売店を)拘束はできないが、本だけは出版社が価格を決定して、小売(書店)はそれを勝手に変えるとだめ。一方で、本屋は、問屋から送られてきたもの(本)を返すことができる」と、書店衰退の背景にあるのは、時代に合わなくなった業界ならではの特殊な商習慣があると指摘する。
時代遅れの商習慣?書店衰退に拍車
小島さんの指摘する特殊な商習慣とは「再販売価格維持制度」、いわゆる「再販制度」と「委託販売制度」だ。
「再販制度」は、出版物や音楽CDなどにだけ認められた価格決定の仕組みで、全国のどの書店も、出版社が決めた価格で販売しなければならないルールだ。
輸送や流通のシステムが十分整っていなかった時代に、文化の礎ともいえる書籍が、輸送コストのため、東京から遠い場所で値段が高くなってしまうことを防ぐのが目的だが、書店に価格決定権がなく、高騰する経費を価格に上乗せすることはできなくなっている。
一方、「委託販売」は、書店が出版社からの委託を受けて書籍を販売する制度。本や雑誌が売れ残った場合、書店は同じ価格で出版社に返品することができる。
多数出版される書籍が読者の目に触れる機会をできるだけ多く設けたい出版社と、リスクなく品ぞろえを豊富にしたい書店、双方の思惑が一致して生まれた、業界独特の商習慣だ。
小島さんは「(再販制度は)価格競争がないという良い面はあり、歴史的な役割は持っていたと思うが、市場全体が縮小する中では足かせの方が大きい」と指摘、さらに、返品できることによって、小売業にとって重要な「仕入れ能力」が弱まり、書店の衰退に拍車をかけたと分析する。
いずれの制度も、多くの国民が、書籍を通じて文化や娯楽を楽しむことができるよう考えられた仕組みだが、小島さんは、こうした業界独特の商習慣がすでに時代遅れだと指摘する。
魅力的な店づくりで書店の再生も
業界に身を置いた立場から、厳しい言葉を投げかける小島さんだが、その一方で「まちの本屋」の復活を信じている。
小島さんは「ものすごく堅い業界だけど、脇が甘くて伸びしろがものすごく大きい。『2028年に書店が消える』という見立てが外れることを祈って本を書いた。『マネタイズ』という意識を書店が持てば変わっていくと思う」と話す。
このままであれば、町から書店がなくなる可能性は否定できないが、店づくりに力を入れることで、存続に望みをつなぐ書店が地方にも現れている。
例えば、広島・庄原市の書店「ほなび」は、既存の書店が閉店して「書店ゼロ」になった庄原市中心部に2024年5月にオープンした。一見すると普通の書店だが、スタッフが読んでほしい本を並べたコーナーなど、個性的な棚づくりや、客の好みを把握して、本を勧めるなど積極的な接客に力を入れている。
魅力的な店づくりを目指すその姿勢は、地域の人たちからも好評だということだ。
従来の経営から抜け出し、店づくりに力を入れることが書店再生の足がかりになりそうだ。
(TSKさんいん中央テレビ)