2023年7月に秋田県内を襲った記録的大雨から1年。多くの住宅が浸水被害を受けた秋田市楢山大元町は、生活再建が進む一方で、まちを離れた人も少なくない。被害を受けた住民の生活の現状などを取材した。

大雨被害から1年 今のまちは…

2023年7月14日に降り始めた大雨。

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五城目町で1人が亡くなったほか、秋田市の2人の高齢者は、災害後に精神に負担がかかり心肺機能が悪化したなどとして、県内で初めて「災害関連死」と認定された。また、浸水などの住宅被害は7375棟に上っている。(2024年7月10日時点)

秋田市楢山大元町の町内会長を務める伊藤達男さん
秋田市楢山大元町の町内会長を務める伊藤達男さん

「ここからはいなくなった。このまちからいなくなった。息子のところに行ったのかもしれないけど」と静かに話すのは、秋田市楢山大元町の町内会長を務める伊藤達男さんだ。

楢山大元町は、2023年7月に氾濫した太平川のすぐ近く。伊藤さんは大雨被害から1年たった“今のまち”を案内してくれた。

2023年7月に秋田県内を襲った記録的大雨の様子
2023年7月に秋田県内を襲った記録的大雨の様子

大雨に襲われる前、楢山大元町では167世帯が生活していたが、このうち110世帯が浸水被害に遭った。2023年8月の様子を見ると、住宅の前の道路は水に漬かり、使えなくなった家具などの廃棄物が山積みだった。

 
 

当時、伊藤さんは「これ(廃棄物)が自然発火して火事になると大変。それが怖くて眠れない」と話していた。

街灯が被害を受けていたため、夜になると町内は真っ暗となり、歩く人の姿はほとんど見られなかった。

当時の状況を語る伊藤さん
当時の状況を語る伊藤さん

伊藤さんは「大雨の直後、電気がついていないから家に住んでいない人が圧倒的に多くて、電気がついて暮らしている家は12~13世帯くらいしかなかった」と当時を振り返る。

「再びこのまちで暮らしたい」

記録的大雨から1年。絶えず地域の変化に目を向けてきた伊藤さんによると、やっと5月中旬から工事に入ったところがある一方、まだそのまま放置され、いわゆる空き家になっている家もあるという。それでも少しずつ住宅の修繕工事が進み、地域に人の姿が見られるようになった。

まちを案内する伊藤さん 住宅の修繕工事も進んでいる
まちを案内する伊藤さん 住宅の修繕工事も進んでいる

伊藤さんによると、この1年間で12世帯が町内を去ったものの、「再びこのまちで暮らしたい」という人もいるという。

新たに建築工事が進む住宅の前で伊藤さんは、「『ほかのところへ行ったら友達もいなくて寂しい。やはり町内へ戻ってきたい』ということでここへ戻ってきて家を建てようかということのようだ」と教えてくれた。そして、「とてもうれしいことだ」と笑顔を見せた。

被害の爪痕や心の傷は簡単には消えない。それでも住民は前を向こうと懸命に日々生活している。

 
 

伊藤さんは「無我夢中でやってきた感じがする。水害を通じていろいろな人と接することができて、住民とすごく気持ちが近くなった。そういう点では何かをやるときに協力してくれる人も増えている」と話す。

進む洪水への備え 防災意識の向上を

住民の生活を守ろうと、行政は対策にあたっている。その一つが太平川の整備だ。秋田県は、秋田市桜の県道横山金足線の「桜大橋」から、秋田市茨島の旭川との合流点までの4.6kmの区間で改修を進めている。工期は2028年度までの5年間だ。

 
 

県河川砂防課の高杉英幹課長は、「今ある断面に矢板を打ち込んで川を掘削して、水を流れやすくする計画」と説明する。

太平川の河川改修工事のイメージ図
太平川の河川改修工事のイメージ図

計画によると、川の水が流れやすくなるよう、まずは長さ10メートルの板を打ち込む。次に川の幅を広げる掘削工事が行われる。その後、堤防を今よりも丈夫に造り直すという。

改修工事の効果について高杉課長は、「2023年と同規模の大雨が降った時に、川から水があふれない効果が期待できる」と話す。

つまり、工事が完了すれば2023年と同じくらいの雨の量ならば、氾濫を免れることができる見込みだ。しかし、完了したからといって「絶対安全」ということはない。

高杉課長は、「太平川の工事は2023年7月の大雨と同規模の浸水被害を軽減させようというもの。河川改修はできる限り早く対応したいが、いつ氾濫が発生するか分からない。計画以上の洪水となれば、浸水被害の発生の可能性もある」と話す。

その上で「最近は災害が激甚化・頻発化しているので、改めて防災意識の向上を図ってもらいたい。洪水に備えてほしい」と呼びかけている。

(秋田テレビ)

秋田テレビ
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