日差しが強く気温も高い今の季節、何よりも気をつけたいのが“熱中症”だ。本格的な夏を迎え、正しい対策はできているだろうか?
カバヤ食品株式会社(岡山市)は7月11日、「熱中症への対策意識・行動に関する調査」の結果を発表。すると、多くの人の熱中症に対する認識が甘く、“発汗時には水分も塩分も補給が必要”だという意識が浸透していないことが分かったという。
塩分が不足するのは知っているが…
調査は全国の20~60代の男女1000人を対象に、WEBアンケートで6月17~19日に行った。

この中で「暑い時期の体調管理や熱中症の備えができていると思いますか?」という質問に、「完璧にできている」「ある程度できている」の回答の合計が48.3%。「あまりできていない」「できていない」(24.2%)と比べ、約2倍の開きがあった。
なお熱中症の備えが「できている」理由としては、「水分補給をこまめにしているから」が86.5%と1番多く挙がっていた。

また、大量の汗をかくと水分とともに塩分も体内から出てしまい一時的に“塩分が不足してしまう”ことがある。この「大量の汗をかくと、一時的に塩分不足になることを知っているか?」については、78.1%が「知っている」と回答。

しかし「発汗時の塩分摂取の意識」は、発汗時でも「特に何も塩分の補給の工夫はしない」「なるべく塩分を摂らないように心掛けている」と41.8%が答えていた。
塩分を摂らない理由は、「塩分は食事から十分補給できているから(31.8%)」「水分補給させしていれば十分だと思うから(30.4%)」が多く、中には「塩分の適切な摂取量が分からないから(22.5%)」という回答もあった。

今回の調査では、発汗時は食事以外にも「塩分補給をする習慣がある」「塩分補給をしたことがある」人を対象に、どのような塩分補給を活用しているのか聞いている。
回答で最も多かったのは「スポーツドリンクなど塩味が入っている飲料を飲んでいる(60.9%)」で、そして「塩分の入った飴を食べている(41.1%)」が続いたのだが、注目すべきは3番目に「麦茶を飲んでいる(34.3%)」がランクインしたことだ。
同社によると、麦茶に含まれるミネラルはごく少量で、大量の汗をかいた塩分補給としては正しくないという。
背景に“塩分は控えるべきもの”というイメージ
「大量の汗をかくと塩分が不足することがある」と知っていながらも、熱中症対策は水分補給のみで、塩分補給を習慣化している人が少ないことが明らかになった。では、なぜそもそも水分だけでなく塩分も必要なのだろうか?適切な補給の方法やタイミングも知りたい。
カバヤ食品株式会社の鏡原仁美さんに教えてもらった。
ーーたくさん汗をかいたら塩分不足になると知りながらも、41.8%が「塩分補給の工夫はしない/摂らないようにしている」という現状。この結果をどう感じた?
昨今、平均気温が急激に上昇している状況にあるにも関わらず、塩分補給をしないと回答した方の割合が多いと感じました。
ご自身の置かれている環境や背景などによっても変わるため、必ずしもその選択が誤りということではありませんが、汗の中には水分だけでなく塩分も含まれるため、大量に発汗した時には“一時的な”塩分ロスになる可能性があります。ですから、水分の補給意識だけに偏ってしまうのは好ましくないと考えております。
ーーなぜ塩分不足を知りながら補給しない人がいると考える?
「汗をかいた時は塩分補給をする」という知識自体は持っていても、実際にご自身が塩分不足になっていると実感していない場合や、自分は熱中症に見舞われることはないだろうというリスクに対する過小評価、いわば「正常性バイアス」もあるのではないかと考えております。
また今回の調査で、塩分を補給しない理由として、「塩分は食事から十分補給できているから」「塩分不足になるほど汗をかいていると思えないから」(だから不足しない)というように、食事以外での塩分を補給する必要性を感じていない方が一定数いらっしゃいました。
そのように答える背景には「塩分はどんな時でも控えるべきもの、カラダに悪いもの」というイメージがあるのかもしれません。そのイメージを払しょくするためにも、啓発活動をとおして「一時的な塩分不足は誰にでも起こり得ること」や「塩分補給によるメリット」も正しく伝えたいと考えています。
さらに、「塩分の適切な摂取量が分からないから」という回答のように、どのくらいの補給が適切なのか迷われている方もいらっしゃることが分かっています。食品であるため具体的な容量用法を指定することはできないのですが、汗をかいた際に必要な塩分補給の目安をお伝えすることも必要と考えています。こうした適切な情報発信をおこなっていくために、今回の調査は、熱中症に詳しい帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センター長の三宅康史先生に監修を頂いております。

ーーそもそもなぜ水分だけでなく塩分も必要なの?
実は、塩分に含まれるナトリウムに体内の水分を保持する重要な役割があるからです。体内の水分量は体内のナトリウムの総量で決まります。つまり体内のナトリウム量が減ると、体内に必要な水分が保持できず、水分を補給しても、そのまま素通りして尿になってしまいます。
汗をかくと、体から多くの水分と塩分が失われます。この一時的な「塩分ロス」の状態で水だけを補給してしまうと、元の体液量に戻る前に体液濃度が正常化してしまい、体がそれ以上水を受け付けない状態になってしまいます。そのため、体内の水分量が正常に戻らず脱水状態が続いてしまいます。この状態を避けるために、塩分と水分を補給することで、体内の水分量を正常に保つことができるようになります。
ーー実際のところ、大量に発汗した場合はどれくらいの塩分補給が必要?
実際に汗をかかれた量にもよりますが、食事を摂っておらず500ml発汗した場合には、500mlのペットボトル1本分の水に加えて、塩をひとつまみ(0.5~1g程度)を一緒に摂るとよいとされています。
なお、睡眠時であっても350ml、炎天下の1時間の運動だと1800mlもの発汗があるとも言われています。個人差や体調による差はありますが、汗の塩分濃度は約0.3%と言われており、運動による1730mlの発汗だと計算上の塩分喪失量は約4~6gにもなります。
適切な塩分の補給方法は?
ーー塩分補給の方法として多くが「スポーツドリンク」「塩分の入った飴」を挙げているが、これは正解?
塩分が補給できるという点では誤りではないと思います。ただ、これらの商品の多くには塩分が余りふくまれていなかったり、美味しく飲めるように味を調整するため、糖質が必要以上に多く含まれていることがあるため、成分を良く確認する必要があると思っています。
ーー34.3%の人が「麦茶を飲む」という塩分補給の方法を挙げていたが、どう思った?
水分の補給という点においては間違いないのですが、麦茶には、塩分・ナトリウムは殆ど含まれていませんから塩分補給という意味では間違いと言えるかと思います。
特に汗で失われるミネラルは塩分です。たくさん汗をかいた時は、ミネラルの中でも塩分の補給が出来ているかを確認した方が良いでしょう。引っ掛け問題のようではありますが、こうした誤解が3割以上というのはかなり多い印象です。

ーーでは、適切な塩分の補給方法やタイミングを教えて。
大前提としては、バランスのよい3度の食事を摂っていただき、その上で運動時や夏場の外出、クーラーをつけていない猛暑の時など、屋外・屋内に限らずたくさん汗をかいた際には、水分と塩分を補給いただくのが望ましいです。
水分と塩分が一緒に摂れるスポーツドリンクや経口補水液。塩分、糖分の量がコントロールしやすく、持ち運び性に優れた塩分補給タブレットなど、様々なアイテムがあるので、生活スタイルに合わせて取り入れていただければと思います。
大切なのは、汗をかいた時にはこまめな水分補給とあわせて、こまめに塩分補給をすることだと考えています。ただし、夏でも日常生活が中心で大量に汗をかかない方、高血圧や心臓病、腎臓病のある方は、塩分の補給についてはあまり意識せず、バランスの良い3度の食事をシッカリとることと、涼しい環境での生活を意識していただくことがむしろ大切です。
ーー改めて、今回の「熱中症への対策意識・行動」の調査結果をどう受け止めている?
熱中症警戒アラートの発表回数は2021年には613回だったのに対し、2023年には1232回と約2倍になるなど、危険な暑さ増えています。年々暑さが増し、熱中症で搬送される方も増えている中、水分・塩分の補給が必要ということを知識としてとどめておくだけでなく、ぜひとも汗をかいた時にはこまめな塩分補給の実践をしていただきたいと考えております。こうした調査やその他取り組みを通じて、より多くの方々に発信してまいります。

座っているだけでも汗をかく日もある夏。水分だけではなく“塩分”も意識してほしい。自分に限って大丈夫だろうという考えは捨て、しっかりと熱中症への対策を取ることが大切だ。