香港の活動家・周庭さん逮捕

香港の「民主の女神」と呼ばれた周庭さんが逮捕され、SNSでは抗議の書き込みが相次いだ。

23歳の活動家・周庭さん
23歳の活動家・周庭さん
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香港で民主化運動をけん引してきた23歳の活動家・周庭さんが香港警察当局に連行された。
香港メディアによると、周さんは外国勢力と結託し、国家の安全を害したとして逮捕された。

容疑は、6月末に成立・施行された国家安全維持法違反。最も重い場合は、無期刑となる。

SNSには抗議の書き込み

SNS上では、
世界中の人が、あなたのことを応援しています」、
政府は国家安全維持法では過去のことを取り締まらないと言っていたが、その全く逆のことをしているではないか」など、
逮捕に抗議する書き込みが相次いでいる。

周さんの英語名「アグネス」にちなみ、「周さんに自由を」を意味する「FreeAgnes」のハッシュタグが付けられた。

周庭さん逮捕に香港の人たちは・・・

「(周さん逮捕は)香港の人はみんな知っているよ。彼女は『国家安全法』を侵害することはしていない」

「香港の人の言論の自由がなくなっている」

民主的な選挙を求める2014年の「雨傘運動」では、10代ながら学生団体の幹部を務め「民主の女神」と呼ばれた周さん。

2014年の「雨傘運動」
2014年の「雨傘運動」

英米政府からも批判の声

今回の逮捕について、イギリス外務省は、「香港国家安全維持法が、反対する人たちを黙らせるために使われていることの証拠となった」と強く批判。

また、アメリカのポンペオ国務長官は、中国政府に批判的なメディアであるリンゴ日報の創始者が逮捕されたことに対し、「中国共産党が香港の自由を骨抜きにし、人権を侵害していることがあらためて証明された」とツイッターに投稿した。

菅官房長官は、周さんやメディア関係者が相次いで逮捕されたことについて、「重大な懸念を有している」と表明した。

この日本の対応について、中国外務省は、「日本は現実を見て立場を正し、中国内政にいかなる干渉もやめるよう促す」と、日本を名指しして批判した。

中国外務省の会見
中国外務省の会見

逮捕前、最後の公の場となった8月5日、周さんは独学で学んだ日本語でこう訴えた。

周庭さん:(5日)
政治的な弾圧がどんどん強まっているうちに、どうやってこういう恐怖感の中にも、引き続き自分の信念を貫くことがとても重要だと思う。わたしだけではなく、香港の若者たち、一生懸命闘っているので、引き続き注目してほしい

周庭さん
周庭さん

周さんは11日夜遅くに保釈されたが、「今まで4回逮捕されたが、正直、今回は一番怖かった。一番きつかった」と話している。

逮捕は「不遡及の原則」無視の結果か

内田 嶺衣奈キャスター:
今夜は哲学者で津田塾大学の萱野稔人教授に聞きます。
香港の国家安全維持法については以前から懸念する声がありましたけど、やはり民主勢力の締め付けに使われてしまっていますね。

津田塾大学・萱野稔人教授:
深刻なのは今回逮捕された周庭さんは国家安全維持法が施行されたその日に所属していた民主派の団体を解散しています。つまり法が存在しなかった過去に遡って国家安全維持法が適用された恐れがあります。

それがどれくらい深刻なのかといえば、「不遡及の原則」といいますが、これは近代法の根本的な原則です。過去に遡って法を適用してはならない、という原則です。
これがもし許されてしまうと、もはや法による統治というものは崩れてしまって、権力による恣意的な統治が行われることになってしまいます。
どんな過去にも法律を適用できるようなことになってしまう。

今回、明らかになったのは、近代法の原則をかなぐり捨てた統治が今後香港でなされる可能性が高まったということだと思います。

日本にとっても「対岸の火事ではない」

内田 嶺衣奈キャスター:
国際社会が中国への批判をこれだけ強めていても、なぜ中国は香港への締め付けを止めないのでしょうか?

津田塾大学・萱野稔人教授:
カギとなるのは「核心的利益」という言葉ですね。
これは中国にとって領土と主権に関わる問題であることを示す言葉なんですけど、中国政府は香港について核心的利益だとずっと主張していました。
これは香港だけでなく、台湾、チベット、ウイグル、南シナ海、さらには尖閣諸島の領有権についても核心的利益という言葉を中国政府は使っています。

これらの地域を見て共通するのは、中国政府は核心的利益についていかなる妥協もしないということ。そのために国際社会がいくら中国を批判しても、中国は拡張政策を止めないということが言えると思います。

内田 嶺衣奈キャスター:
ということは、今後中国は尖閣諸島についても今までよりも強い姿勢を見せてくる可能性があるということでしょうか?

津田塾大学・萱野稔人教授:
妥協しないという点で言えば現に今月2日まで111日に渡って中国公船が尖閣諸島の接続水域を航行したという事実もあります。
香港の事態は日本にとって決して対岸の火事ではない、他人事ではないんです。
今後、核心的利益ということで日本にも降りかかってくるような深刻な事態として香港の問題を考える必要があると思います。

内田 嶺衣奈キャスター:
香港だけの問題ではないという意識を日本人も持たなくてはいけないということですね。
私たちに今できることは、こういったことが起きているという現実を受け止めて香港のニュースに関心を持ち続け、国際社会からの目を向け続けることなのかもしれません。

(「Live News α」8月11日放送分)