2022年夏、東北勢初の甲子園優勝を成し遂げ、翌2023年は準優勝。2年連続で甲子園決勝に進出し、日本の夏を熱くさせた仙台育英。今年のチームは、昨秋の宮城大会準々決勝で敗れ、センバツ出場を逃すも、春は再び県王者に返り咲いた。3年連続 夏の甲子園出場へ。宮城大会初戦を前に、名将・須江航監督がその思いを語った。(取材日:2024年7月2日)

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「センバツ」という目標がない冬

―今年のチーム作りの手ごたえ

冷静に判断すると、特に何かが遅すぎるわけでもないし、逆に想像以上の何かが起きたわけでもない。亀のように歩みは遅いですが、夏が近づくにつれ、緩やかに右肩上がりに成長している。十分評価できる日々を過ごしてきましたし、県で優勝するということに関しては、十分チャンスがあると思っています。

―甲子園優勝、準優勝を成し遂げた偉大な先輩との比較で壁にぶつかることは

過去と比較してはいけないと思いながらも、「この時期にこのレベルまたどり着いていないと夏で勝負にならないんじゃないか」といった物差しで測ってしまう。昨年度から試合に出ている選手たちは求められるレベルが体に染みついているので、「この精度では夏を勝ち抜けない」というストレスを感じていたと思う。人から何かを比較されるというより自分自身が経験によって物差しが出来ていたので、選手たちもそこのギャップが苦しかったのではないですかね。

―今年のチームはセンバツという目標がなかった

センバツがあれば、1月や2月ぐらいから実戦練習が始まって、どうやって勝つかという方向に目を向けるのですが、センバツに出場できなかった分、3月末ぐらいまできっちり体作りができました。選手一人一人の基礎技術も十分に上げることができたので、良い時間が過ごせました。(選手たちは)優勝・準優勝した代よりも自分たちは力がないと思っているかもしれないですが、力がないかどうかは最後の結果で分かることなので、練習量だけは圧倒的に勝ってますから、自信にしていいのではないかと思っています。

「甲子園だけが目標」は薄っぺら

―能登半島地震で被災した石川県の球児との交流など、野球以外の部分も取り組んできた

甲子園出場はすごく価値のあることですが、高校野球の3年間、甲子園に行くことしか考えてない3年間なんて薄っぺらすぎますから自分が高校生としてどういう姿であるべきか、野球から離れたときに1人の高校生として、何が自分にできるのかとかそういうことを大切にしたいと思っています。

能登半島地震被災地の高校を招いて行われた練習試合
能登半島地震被災地の高校を招いて行われた練習試合

能登の地震に対して、彼ら(仙台育英の野球部員)も行動を起こしたいっていうバイタリティがあった。そこで、相談しながら3月末に復興支援試合とホームステイをやりました。みんなで一緒に野球して語り合いながら、それぞれの立場の苦労や葛藤をお互いに共有して、日常生活があるということは特別なことなんだということをお互い学びました。

滞在中 須江監督自宅で寝食を共にした球児たち
滞在中 須江監督自宅で寝食を共にした球児たち

「映画のよう」3年連続夢の舞台へ

―この夏に向けて今思うことは

一本の映画を見ているような気分になっています。人生とこの3年間を重ねて見ています。僕の人生ということではなく、彼らの人生が今後どうなっていくのか見てみたいという感覚。

高1の夏に全国優勝という最高の喜びを感じて、高2の夏に同じ舞台(甲子園決勝)にたどり着きながらも、準優勝という悔しさを感じた。偉大な先輩、“偉大なお兄ちゃん”と常に周囲から比較され「〇〇くんのお兄ちゃんすごいね」と言われるのが最初は嬉しかった。でも、同時に自分がダメに聞こえるような、そういう環境と重ね合わせて見てしまう。最終的には、物事を成し遂げるためにも自分が成長していくためにも、他者との比較はとても大事。他者と比較して自分の至らないところを見つけて、それに対して努力していくということはとても大切だと思うのですが、最後は自分の力でコントロールできることで勝負するしかない。

たかだか高校野球なんですけど、彼らの3年間には人生のすごく濃密なことが詰まっています。自分の在り方、他者との比較、周りの声、目指すべき方向。そして自分が努力しても成果が出なかったたくさんの経験。失敗が多かった3年間で最後それがどうなるかというのがすごく詰まっている。僕自身が映画を見に行ったお客さんとしてこの物語がどういう風に完結するのかとても楽しみですね。

仙台育英は7月13日(土)に仙台市民球場で松島との初戦(2回戦)に挑む。全国優勝、準優勝。2年連続で夏の甲子園決勝に進出した姿を、間近で目の当たりにしてきた彼らの集大成となる戦いがいよいよ始まる。