長崎の知られざる街の魅力を発掘し、おすすめスポットや地元グルメを、県内21市町をめぐりながらシリーズで紹介する。南島原の蔵元が「発酵文化」を今のスタイルで伝える取り組みに注目。蔵元の一角にオープンしたカフェのイチオシは、隠し味が「甘酒」のカレーだ。
老舗蔵元のこだわり製法
長崎・南島原市有家町にある日本酒の蔵元・吉田屋。大正6年(1917年)に創業し、2024年で107年となる老舗だ。天然の酵母「花酵母」を使った日本酒や甘酒などを取り扱っている。

吉田屋のお酒は大きな木の先に重しをつけ、テコの原理を利用した「はねぎ搾り」で作られている。

重労働で手間もかかり量産をできない手法だが、雑味がなく、すっきりとした味を生み出す。

「はねぎ搾り」の製法は全国でも数少なく、他ではなかなか見ることができない。
カフェで伝える日本酒の魅力
老舗蔵元・吉田屋に2023年8月、カフェがオープンした。その名も「cafe kULa(くら)」。

木を基調とした作りで落ち着きのある空間で、レトロな雰囲気が漂う。創業当時から残る米を保管する倉庫を改装して作られた店内には、懐かしい雰囲気を感じさせるバイクや家電が飾られている。

店主は、蔵元・吉田屋の4代目吉田嘉明さんの娘・吉田日向子さん(24)だ。福岡の大学に通っていた日向子さんは日本酒の魅力を発信しようと、卒業後は地元へ帰ってきた。趣味のカフェ巡りが高じて店を任されたのだ。日向子さんは「カフェを通して若い人にも来てもらい、日本酒もあるんだと思ってもらいたい」と語る。
コクを生み出す隠し味“甘酒”
cafe kULaのイチ押しメニューはグリーンカレーだ。

グリーンカレーは青唐辛子とスパイスの辛みがきいたタイ料理のひとつ。白いルーに雑穀米と色とりどりの野菜で、思わず写真を撮りたくなる一品だ。

テレビ長崎・山口史泰アナウンサー:
ルーはさっぱりしている。暑い季節にいい。がつんと来る辛さではなくあとから来る
蔵元のカフェでお酒ではなく本格グリーンカレーが出て来るというのは意外に感じるだろう。カレーの“隠し味”に使っているのは吉田屋の人気商品「甘酒」だ。

甘酒を使うことで辛さがマイルドになり、コクがでる。グリーンカレーが好きな人からも「今までよりおいしかった」と好評だ。
吉田屋の甘酒に砂糖は入っていない。米麹とミネラルを含む地下水だけで作っており、米麹はつぶさず米本来の甘みにこだわっている。甘酒に対するこだわりがグリーンカレーにもそのまま生かされているのだ。
時代を読み取る酒蔵からの発信
吉田屋の日本酒は2023年に開かれたフランスのコンテストで賞も受賞した。しかし娯楽の多様化や新型コロナウイルスでお酒を楽しむスタイルが変わったこともあり、生産量は2020年から落ち込んでいる。

時代の移り変わりを目の当たりにした吉田屋4代目の吉田嘉明さんは「自分たちの事業をもう一度見直して、お客様に届けたいものは何なのか。アルコール飲料だけでない蔵の歴史や日本古来の発酵文化を届けていきたい」と今後を見据える。
娘のcafe kULa店主・日向子さんも「若い人は日本酒を買いに酒蔵へ行こうとはならない。カフェに来たついでに売店に寄ってみようと思ってくれる人が増えるとうれしい」と語った。

時代の流れを読みとり新たな可能性を模索する老舗蔵元・吉田屋の挑戦は続く。
こんなまちメモ<南島原市>

長崎県の島原半島南部に位置し、農業、林業、漁業が盛ん。世界文化遺産に登録された「原城跡」(「島原・天草一揆」の終焉の地)や修道士育成のための初等教育機関であったセミナリヨ跡、キリシタン墓碑など数多くの史跡が残されている。
(テレビ長崎)