成人式といえば、一般的には1月の“成人の日”に行われるが、お盆の時期に開催する地方自治体も意外と多い。「帰省のタイミングで、新成人が集まりやすいから」という理由が大きいようだ。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、「今年は帰省しない」と考えている人も多いだろう。その流れを受け、お盆の成人式を延期・中止にする自治体も出てきている。コロナ禍において、各自治体はどのような思いをもって判断したのだろうか。

「冬より秋の方が帰省しやすい」という声を採用

福島県三島町では、毎年8月15日に開催している成人式を、11月22日に延期することを発表。夏季に町内で開催されるイベントのほとんどが延期・中止となり、成人式も同様の判断になったとのこと。

2019年の成人式(提供:福島県三島町)
2019年の成人式(提供:福島県三島町)
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延期を発表した自治体はほかにもあるが、その開催時期はさまざま。三島町はどのような経緯で11月の開催に決めたのだろうか。

「今年度の新成人は11人いるのですが、たまたまその1人が役場職員の娘さんで、新成人のLINEグループがあることを教えてくれたのです。そのグループを利用して延期時期のアンケートをしたところ、『秋頃が帰省しやすい』という回答が多かったため、11月の3連休での開催を決めました」(三島町生涯学習課 秦さん)

アンケートでは「1月初旬」という項目も用意していたが、冬場は積雪量が多くなる地域のため、新成人も1月は避けたようだ。

「今後、新型コロナウイルスの感染者数などがどのように推移するかわからないですし、新成人には学生さんが多いので、大学の後期の授業がどう設定されるかというところも懸念点です。状況に応じて臨機応変に動く必要があると思いますが、なんとか11月に開催したいです。例年通り、母校訪問なども行えたらいいですね」(秦さん)

そもそも、「中止」という選択肢はなかったのだろうか。

「三島町は新成人の人数も少ないですし、一生に一度の成人式をやってあげたいという気持ちもあったので、延期という形を取りました」(秦さん)

「冬季への延期」を現実的に考慮した結果の「中止」

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自治体の中には、成人式の中止を決断したところもある。100人が成人を迎える群馬県嬬恋村は、8月15日に開催する予定だった成人式の中止を決定。

「延期にするとすれば、1月の可能性が高かったです。しかし、現在の状況を踏まえ、さらにインフルエンザの流行も考慮すると、冬の開催は現実的ではないという結論に至りました」(嬬恋村教育委員会 熊川さん)

新成人の多くは大学進学や就職で、東京圏に出ている人が多いため、東京都知事や群馬県知事の帰省自粛要請の声も大きく影響したという。

「緊急事態宣言が解除された後の6月上旬は、このまま収束すると感じていました。しかし、7月に入り、東京の感染者数が増えてきた頃から、毎日のように話し合いました。ただ、中止を決めたことで、新成人の方から『成人式に出席することに不安があったから、ホッとした』という声もありました」(熊川さん)

成人式の中止を残念に思う声がある一方で、自治体の決定が安心感を与える場合もあるのだ。嬬恋村では、新成人に向けて、村長や恩師からのメッセージ・スライドショーをまとめたDVD、記念品などの贈呈を予定している。

「毎年、式典で流しているメッセージ動画を今年も作り、新成人の皆さんにお送りできるよう、準備しています。DVDを見て子どもの頃を思い出し、同級生と連絡を取ってもらうきっかけになったらうれしいです。また、今年度は中止としましたが、一生に一度しかない成人式ですので、来年度に“集い”という形で開催ができないか、検討中でもあります」(熊川さん)

コロナ禍の成人式こそ新たな試みにチャレンジできる時

一方で、お盆中の成人式の実施を決めた自治体もある。その1つが、長野県朝日村。8月15日に、村役場で成人式が開催される。ただし、例年とは違う形式で行われる。

「首都圏や中京方面の大学に進学されている方が多いですし、現在長野県内でも感染者数が増えてきているので、今年はオンラインでも出席できる形にしました。改めて、出欠席を確認したところ、『オンラインなら参加します』という方がいて、現状では新成人が47人いるうちの6人、恩師の方が1人、オンラインで参加する予定です」(朝日村総務課 中村さん)

朝日村では感染予防の観点から、県外に居住している新成人に向けて、オンラインでの参加を要請。また、県内在住であっても、会場に赴くかオンラインで参加するか、選べるようにしている。新たな形の成人式の実施には、地元企業の協力があった。

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「もともとは民間のWeb会議ツールを使い、村単独でやってみようと考えていたのですが、松本市のCATV会社・テレビ松本ケーブルビジョンにオンライン通話のシステムの実績があるということで、ご協力いただけることになったのです。毎年、成人式を撮影していただいていたというつながりもあり、オンライン成人式を計画することができました」(中村さん)

今年の成人式実施は大きな決断だが、自治体の強い意志も感じさせてくれた。

「『時期をずらしてほしい』という声があることも事実ですが、先が見えない今、延期する時期を判断できません。それならば、新たなシステムを導入し、新しい試みに挑戦することも必要だと感じています。感染者が爆発的に増えるようなことがなければ、予定通り開催したいと考えています」(中村さん)

自治体によって考え方はさまざまだが、新成人を思う気持ちは同じ。成人式が実施されるにしても中止になるにしても、この機会に同級生に連絡してみてはどうだろうか。オンライン上であっても、懐かしい話題で盛り上がれることは間違いないだろう。

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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