お浸しや胡麻和え、味噌汁の具、ソテーにしてもおいしく、カロテンやビタミンCも豊富なホウレンソウ。

日々の食卓に欠かせない食材だが、SNSでこのような説を目にしたことがないだろうか?

「下ゆでせずに食べる生活を続けると、尿路結石になる」

確かに、ホウレンソウを使った料理のレシピでは、下ゆでをして水分を絞る工程を見かける。しかし、下ゆでをしないレシピもある。

本当にそのような病気になる可能性があるのだろうか?専門家に聞いてみた。

尿路結石の痛みは“三大激痛”

まずは、尿路結石に詳しい新潟臨港病院泌尿器科の糸井俊之医師に聞いた。


――尿路結石とはどのような病気?

尿の通り道である尿路に結石ができる病気です。腎結石が尿管に落ちて尿管結石になると、背部や側腹部に激しい痛みを発症することが多くみられます。これは、“人生で味わう三大激痛”とも言われるほどです。

30~60代の男性に多く、日本人の男性では7人に1人が、女性では15人に1人が一生に一度は尿路結石に罹患します。

尿路結石の約70%は自然排石し、30%は手術を必要とします。尿路結石は一度できると再発しやすい特徴があり、1年以内に結石が再発する可能性が15%、5年以内に約半数の人が再発するといわれています。

予防には水分摂取が重要

――ホウレンソウを下ゆでせずに食べる生活を続けると尿路結石になるの?

下ゆでせずに食べ続けたからといって、それだけで必ず尿路結石になるわけではありません。確かに、ホウレンソウには、尿路結石の最も大きな原因となる成分である「シュウ酸」が多く含まれています。

お浸しにすればシュウ酸を減らすことができる(画像はイメージ)
お浸しにすればシュウ酸を減らすことができる(画像はイメージ)
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シュウ酸を多く含む食べ物をとると体内にシュウ酸が増え、それだけ尿路結石のリスクを高めることになります。ですから、シュウ酸の摂取量を減らしたほうがいいことは間違いありません。ホウレンソウの場合、3分間ゆでて水分を絞り、お浸しにすることで、シュウ酸の量を約半分に減らすことができます。

ただ、より重要なのは、水分をたくさんとり尿を薄めることです。尿路結石の予防として1日2リットルの尿を出すことが必要とされており、そのために食事以外に2リットル以上の飲水が推奨されています。


――では、シュウ酸に神経質になりすぎることはない?

そうですね。ホウレンソウ以外にも、シュウ酸を含む食材はたくさんあります。レタスなどの野菜、バナナ、ナッツ類、チョコレート、飲み物ではココア、コーヒー、紅茶、緑茶などに多く含まれます。

これらの食品にはほかに栄養素も多く含まれていますし、全部避けることは現実的ではありません。避けるよりも、水を飲むことと、「食べ合わせ」に気を使ったほうがいいでしょう。

コーヒーにミルクもよいとされる組み合わせ(画像はイメージ)
コーヒーにミルクもよいとされる組み合わせ(画像はイメージ)

シュウ酸を多く含む食品をとる際は、カルシウムを多く含む食品を一緒にとると良いとされています。シュウ酸は腸内でカルシウムと結合することにより、吸収されず便として排泄されるためです。

例えば、ホウレンソウのお浸しにかつお節をかける、コーヒーや紅茶を飲む際はミルクを加えるなどがあります。

冷凍やサラダホウレンソウは?

尿路結石予防にはホウレンソウに含まれるシュウ酸を減らして食べたほうがいいが、そこまで神経質になりすぎなくてもいいことがわかった。

では、冷凍ホウレンソウや、生のまま食べられる“サラダホウレンソウ”に含まれるシュウ酸の量はどうなのか?また、シュウ酸は味にも影響するのか?

シュウ酸の少ないホウレンソウの品種改良に取り組んでいる石川県立大学の村上賢治教授にも聞いてみた。


――冷凍ホウレンソウのシュウ酸の量はどうなの?

冷凍ホウレンソウは下ゆで(ゆでこぼし)をしていないものもあると思うので、シュウ酸の含量は生のホウレンソウと同じだと思います。さらに、冷凍したものを解凍すると細胞が壊れて成分がいっきに出てくることも考えられます。気になる人はゆでこぼしをしたほうがいいでしょう。

下ゆでをしない、またはゆで汁ごと大量に食べるのはお勧めできないと村上さん(画像はイメージ)
下ゆでをしない、またはゆで汁ごと大量に食べるのはお勧めできないと村上さん(画像はイメージ)

――生のまま食べられる“サラダホウレンソウ”は?

販売されている多くの「サラダホウレンソウ」は、生でも食べられるよう、葉の柔らかい品種で、若いうちに収穫したものです。シュウ酸はそれなりに含まれています。ですが、生のホウレンソウはそう大量に食べられるものではなく、その人の体質にもよりますが、少量でしたら大丈夫だと思います。

それより良くないのは、下ゆでせず加熱しての大量摂取や、ゆで汁ごと大量に食べることだと思います。

シュウ酸によって出る「きしみ感」

――シュウ酸の少ないホウレンソウの品種改良に取り組んでいるとのことだが、シュウ酸が含まれることによって、味にどのような影響があるの?

ホウレンソウのシュウ酸は水溶性で、葉に多く含まれています。口に入れると、歯に独特の「きしみ感」がありますが、それはシュウ酸と唾液のカルシウムが化合し不溶性の物質ができるからだと考えられています。


――下ゆでをしたほうがシュウ酸を減らせるとのことだけど、「きしみ感」も減るの?

私の感覚としては、下ゆでをしたほうが「きしみ感」も減ると感じます。そのような感じを持たれるのが一般的だと思います。


――最後に、先生の考えるホウレンソウの優れた点は?

栄養価もありますが、食味だと思います。甘みやうまみに関して、用途の似ているコマツナと比べてホウレンソウに軍配が上がると思います。課題としてはシュウ酸だと思いますので、その含量を少なくできればとても良いと思います。



下ゆでをする、食べ合わせを工夫する方が尿路結石のリスクを下げられるが、より重要なのは水分をとることだそう。また、下ゆでをしたほうが、「きしみ感」も軽減されることもわかった。

シュウ酸が含まれているからと敬遠せずに、おいしく安全にホウレンソウを食べてほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。