長崎のブランド魚が赤潮の被害から“復活”だ。2023年夏の赤潮で甚大な被害を受けた橘湾の養殖シマアジの販売が再開した。被害から一年足らずでの復活には、生産者たちの社運をかけた、たゆまぬ努力と迅速な行動力があった。

長崎県内のスーパーで再販売スタート

週末のスーパーマーケットに並んだのは長崎市のブランド魚「戸石ゆうこうシマアジ」の刺身。

高級魚「シマアジ」に長崎特産の柑橘「ゆうこう」をエサに混ぜて養殖した「戸石ゆうこうシマアジ」
高級魚「シマアジ」に長崎特産の柑橘「ゆうこう」をエサに混ぜて養殖した「戸石ゆうこうシマアジ」
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アジの王様と言われる「シマアジ」に長崎市の伝統柑橘「ゆうこう」をエサに混ぜて育てていて、臭みがないのが特徴だ。

「戸石ゆうこうシマアジ」の刺身を頬張る子供たち
「戸石ゆうこうシマアジ」の刺身を頬張る子供たち

この日は、店頭に朝水揚げされたばかりの「戸石ゆうこうシマアジ」の試食300食分が用意され、新鮮な刺身を子供たちも次々と頬張った。

祖父・父の代から引き継ぎ

長崎市東部に位置する戸石地区では、東シナ海に面した橘湾で昔からトラフグやタイの養殖がさかんに行われている。厳しい審査をクリアした良好な環境で育てられた長崎県のトラフグは生産量日本一を誇る。しかしトラフグは繊細な魚で病気や近年頻発する赤潮により被害を受け、生産量が安定しないことが課題だった。

昌陽水産のシマアジの養殖場(2024年5月撮影) 
昌陽水産のシマアジの養殖場(2024年5月撮影) 

「昌陽水産(しょうようすいさん)」(長崎市戸石町)は、初代から50年近く続く「トラフグ」養殖業者でそれまでは「トラフグ」一筋だったが、3代目の長野陽司さんは病気の影響を受けやすいトラフグやタイに加えて「シマアジ」の養殖を2019年10月からスタートした。

年間5万尾のシマアジの稚魚を仕入れ、長崎のみならず首都圏や海外にも出荷していた。販促ルートも拡大し3代目として、これからが“本番”だった。そんな時、海に異変が起きたのは2023年夏だった。

過去最大の被害で廃業寸前も

2023年7月から8月上旬、橘湾に赤茶色に濁ったものが広がっていた。長崎県水産試験場は、2023年7月末に「カレニアミキモトイ」という有害な赤潮プランクトンが大量に発生していることを確認した。水温が25度から30度と高くなるとプランクトン増殖の要因となる。プランクトンが大量に発生すると、エラに詰まって呼吸ができなくなり魚が死んでしまうという。

この大規模な赤潮の発生は、橘湾の養殖魚を壊滅させ、漁業者に大きな損害をもたらした。「戸石ゆうこうシマアジ」をはじめ、橘湾で養殖されていたトラフグやマダイなどを含め、被害額は橘湾全体で過去最大の11億円にのぼった(長崎県まとめ)。

養殖していた魚の8割が死滅した「昌陽水産」も一時は廃業寸前にまで追い込まれたという。しかし、行政の支援やクラウドファンディングで資金を募るなどして、被害からわずか2か月後の2023年10月から再び養殖をスタートした。

長崎のブランド魚を全国、世界へ

本来シマアジは稚魚から育てる場合、約1年半かかるが、1キロほどの中間魚を仕入れることで出荷再開のめどが立ったことから、今回長崎県内のスーパーでの販売再開にこぎつけたという。

この日、長崎市のスーパーには昌陽水産の長野社長の姿もあった。やっとの思いでこぎつけた販売再開に、従業員とともに自らも店頭で「戸石ゆうこうシマアジ」の魅力を伝えていた。試食をした買い物客も「おいしい」と笑顔を見せていて、その味に納得の様子だった。

買い物客に戸石ゆうこうシマアジの魅力を笑顔で伝える「昌陽水産」長野陽司 社長
買い物客に戸石ゆうこうシマアジの魅力を笑顔で伝える「昌陽水産」長野陽司 社長

養殖業者「昌陽水産」長野陽司 社長:自分たちが一生懸命育てたシマアジ、ゆうこうが入っていて臭みがないのでおいしく食べてもらいたい。まずは地元長崎から認知度を上げて全国・世界へと羽ばたいていきたい

赤潮については長崎大学などがメカニズムの解明を進めているが、昌陽水産の長野陽司さんは「自然が相手、しかも赤潮は広範囲にわたるため対処が難しいのが現状。対策としては海水温が上がる前に早めに水揚げをすることや、行政や漁業関係者と協力して海のモニタリングをして、小規模でも赤潮が発生した場合はSNSで情報を拡散するなどして魚を守っていきたい」としている。

「戸石ゆうこうシマアジ」は、長崎県内のスーパーで週末のみ販売されている(長崎県内のエレナ全店)。昌陽水産ではこちらのスーパーに2024年末までに1万5000匹を納入する予定で、トラフグやマダイなど他の養殖魚を含めて2024年冬の本格的な復活を目指している。

(テレビ長崎)

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