反人種差別運動の波にのまれた化粧品業界

今年5月、アメリカで黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を圧迫されて死亡した事件が発生して以降、世界各地で反人種差別運動が起きている。アフリカ系の移民が多く住むフランスも、例外ではない。

反人種差別運動はフランスでも例外ではない

そして、反人種差別運動の大きな波に飲まれたのは、警察や政府だけではない。

今、化粧品業界をも大きく揺るがしている。

フランス化粧品最大手の「ロレアル」は6月、「美白(ホワイトニング)」「白」「明るくする(ライトニング)」などの言葉を、商品から削除することを発表した。

イブ・サンローランや、ランコムなど、フランスを代表するメーカーを傘下に持つグループのこうした決定に、議論が沸き起こった。

フランスを代表するメーカーの決定に議論が沸き起こった

SNS上では、「そこまでする必要があるのか。やり過ぎではないか」といった反対の声も多く見られた。

そこで、フランスの人たちは率直にどう思っているのか、街で聞いてみた。

結果は、黒人や褐色の肌をもつ女性たちが「良いことだ。遅すぎた。もっと早くにそうするべきだった」などと賛意を示す一方、白人女性たちは「化粧品の名前を禁止することはやり過ぎだ。そこまでする必要はない」といった反対意見を持っていて、それぞれの肌の色によって概ね意見が分かれた。

「美白」を愛するアジア人は・・・

子供の頃、強い日差しの中で立っていると、祖母から日傘の下に入るよう言われ、
「『色の白いは七難隠す』って言うのよ」と、日焼けをしないよう注意されたものだ。「色が白く肌が綺麗な女性は、本来の容姿以上に美しく見える」という意味で、江戸時代の浮世草子に初めて使われた表現とされている。

日本人の私は、白い肌の女性にはやはり美しいイメージを抱くし、そこに差別の感情など少しもない。あるのは、憧れだけである。

フランスの強い日差しの下、日焼け止めをこれでもかと言うほど塗って日傘を差して歩くのも、しみやそばかすを作らず、透明感のある美しい肌を保ちたいからだ。

そもそもフランスでは、日傘を使用する人はほとんどいない。クロード・モネの絵画「日傘をさす女」のイメージで、フランスではさぞかし素敵な日傘を差して歩く女性がいるのだろうと思うと、それは幻想である。日焼けした肌こそセクシーだと思われがちなフランス。そんな場所で日傘を差していると、「なぜ?」と言わんばかりの視線を投げつけられるのだが、そんなことは気にしていられない。私は日焼けを避けたいのだ。

フランスでは日焼けした肌ほどセクシー

「美白」とは「肌を白くすること」ではない?

そもそも、私はこれまで美白化粧品に対して誤った認識を持っていた。

「美白」=「肌を白くすること」だと勘違いしていたのだが、実は日本の美白化粧品には明確な定義があった。

美白化粧品とは、厚生労働省の認可を受けている美白有効成分を含む薬用化粧品(医薬部外品)で、美白有効成分とは、「メラニンの生成を抑え、しみやそばかすを防ぐ、あるいはこれに類似した効能があると認めた成分」と定義されている。また、美白化粧品は、肌そのものを白く変えるための化粧品ではないので、商品広告としても「使うほど肌が白くなる」などの表現は認められていない。したがって「美白化粧品」=「肌を白くする化粧品」とは言えないのだ。

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スイス大手化粧品Valmont(バルモン)CEOが今回の騒動を解説!

こうした「美白」についての考え方のずれは、実はヨーロッパでも存在する。

フランスの化粧品メーカーは今回の問題をどのように認識しているのか気になり、複数の会社に取材を申し込んだのだが、社会を揺るがす敏感な問題のためか、出稿時までに回答を得られなかった。こうした中、日本でもマスクパックなどで知られるスイスの大手化粧品「バルモン(Valmont)」のソフィー・バン・ギヨンCEOがインタビューに応じてくれた。

ギヨン氏は、「美白(ホワイトニング)」と言うと、ヨーロッパでは多くの人が「ハイドロキノン」が入った医薬品を思い浮かべると指摘する。「ハイドロキノン」は、実際に「肌を白くする」効果が認められているが、安全面などの理由から現在EUでは医薬部外品への使用が禁止されており、化粧品に使用することはできない。

「ハイドロキノン」は、まさにアフリカ系の人たちが肌を白くしようとする目的で使用されてきたのだ。それゆえ、アフリカ系の移民などが多いヨーロッパでは、「美白」という言葉に対して我々アジア人よりも敏感なのである。

一方、現在のヨーロッパでは、医薬部外品である美白化粧品は、「肌のしみやそばかすを防ぎ、透明感を与え、肌色を均一化させる」ものであり、その考え方は日本と同じだ。さらに、追加の成分こそ異なるものの、美白化粧品の基礎的なレシピはヨーロッパでも日本でも実はほとんど同じだという。

ところが、ヨーロッパでは「美白」化粧品の需要は多くない。何故なら多くの女性たちが求めるのは「美白」ではなく、「肌のなめらかさ」や「輝き」、「透明感」などを持つ健康的な肌(=la bonne mine)なので、基礎的なレシピがほとんど同じでも、「美白」を謳わない傾向にある。

パッケージも、日本で好まれる白系ではなく、ピンク色が好まれるそうだ。

つまり、基礎的なレシピが似ていても、それを「美白化粧品」とするのか「なめらかで健康な肌」を目指す化粧品とするのかは、世界各地でどのような肌が好まれるかに基づく、マーケティングの結果に左右される。

目指すのは「なめらかで健康な肌」

そういった傾向や需要面から考えると、ヨーロッパにおいて商品から「美白=ホワイトニング」の言葉を消すことは、化粧品メーカーにとって大した打撃にならないと思われる。ヨーロッパでは「ホワイト」という言葉が差別的なイメージを与えることに加え、消費者が「ホワイト」を求めていないからだ。多くのアフリカ系住民がいるヨーロッパと、そうでない日本では、反人種差別運動をきっかけに起こった「美白」化粧品をめぐる反応が異なるのは当然と言えよう。

ギヨン氏は、「今回のロレアルの決定で、日本人などアジアの人たちに『美白』ではなく、別の言葉の使用を押しつけることになる」としつつも、「ロレアルがコスメ業界に大きな影響を与えているので、ロレアルがそのような決断を下せば、他のメーカーも従うしかない」との見解を示した。

多様化するコスメへの意識

化粧品業界は、反人種差別運動に加え、新型コロナウイルスがもたらした生活様式の変化への対応にも迫られている。

日本では、マスクの長時間着用で肌荒れに悩む人が増えているというが、フランスでも同様のことが起きている。

新型コロナウイルス拡大前と後での変化を街で尋ねたところ、様々な変化が明らかになった。肌への刺激を避けるためにメイクをせず、口紅すら塗らないようになったという人や、

マスクで顔の大部分が隠れることから、メイクというよりはスキンケアにより力を入れて、マスクをしても隠れないアイメイクを重視するようになったという声も聞かれた。

さらに、メイクや肌のお手入れについて、新型コロナウイルス拡大前と「全く変わった」と答える人もいた。前出のバルモン化粧品ギヨンCEOも、「消費者が、以前より基礎的なものを求めている。必要な商品だけを購入し、無駄なものはいらない(と考えている)」と話してくれた。

日本の化粧品大手に目を向けてみると、例えばカネボウ化粧品などを傘下に持つ花王グループは、「ダイバーシティ(多様性)の尊重」を企業活動における原則の一つに掲げている。

美白化粧品をめぐる一連の流れについて聞いてみると、「あらゆる人のそれぞれの美しさを尊重する」ということで、「しみそばかすを防ぐ」ことを目的とする「美白」も多様性のひとつ、という回答だった。

なるほど、白さだけが美しさではないという考え方も多様性のひとつであるし、しみやそばかすを防いで透明感のある肌でいたいと願う「美白」もまた多様性のひとつではないだろうか。

世界の大手化粧品会社による大きな変化の波の中でも、少なくとも、文化や習慣に基づいた日本人としての「美白」の楽しみは存在してもよいのではないだろうか。

美白化粧品をめぐる一連の流れがどの程度定着していくのか、見守りたい。

【執筆:FNNパリ支局長 石井梨奈恵】