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今の日本では安全保障に関する本当の議論が出来ていない

平井:
憲法改正の話を伺います。
きのう改めて憲法を読んでみたんですけど、30分くらいで読めるんですよね。
読むと改めて分かるのは、日本国憲法は非常に短くて抽象的で、しょっちゅう「法律で定めます」と書いてあるんです。だから憲法改正する必要がないのかもしれない。

合区も同性婚も、憲法改正しなくても解釈を変更すればできるんじゃないかとも思うんですが、一カ所だけ、9条2項だけは変ですよね。1項はいいとして。

石破:
百歩譲って1項はいいとして。

平井:
だから、僕はそこだけでも変えたほうがいいと思うんですが、一方で、石破案、安倍案があるとして…

石破:
石破案じゃないよ。自民党案だ。自民党で党議決定しているんだから。

平井:
2項を残すか残さないかという時に、2項を残さないと、過半数取れないんじゃないかと思うんです。

石破:
過半数というのは国民投票のこと?

平井:
はい。
この9条はおかしいから変えるべきだけれども、自民党案だと変えられない恐れがあるので、ご不満はございましょうが、安倍案でいくしかないと思うんですが、石破さんはまだ自民党案にこだわっていますか?
 

石破
我が国の最高法規を変えようというときに、何故、国民的議論を経ないままかってに「これならいける」「これはダメだ」と決めつけるのでしょうか。

私も2002年に防衛庁副長官を拝命して以来、多くの国会の委員会で答弁に立ってきました。

そこでも必ず憲法に反するか反しないか、専守防衛に反するか反しないか、そういう原理的な法律論ばかりに時間が費やされ、いま日本を取り巻いている安全保障環境はどうなのか、それに備える陸海空の装備はどうなんだ、法的にも対応できるのか、という実質的な議論はほとんどなされませんでした。

結局、憲法前文に「日本国民は、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」とある。
これを受けて、9条第2項に「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」とした。

それって小学校6年生から教わる。
中学でも同じことを教わり、高等学校でも教わり、大学でも教わり。

普通に読めば全くの非武装です。当初の理念はそうだったわけですから。
けれど、情勢が変わって、日本は全くの非武装ではやっていけなくなった。
だから憲法の文言とのかい離を埋めるために、
「必要最小限だから、戦力ではない。
必要最小限だから、陸海空軍ではない。
必要最小限だから、交戦権ではない。」
という解釈を施した。

しかし、これでは普通、真面目に考えるのをやめてしまうんじゃないでしょうか。
 

 
 

『必要最小限の防衛力』とは何か答えられる人はほとんどいない

平井:
僕は小学生の時「あ、自衛隊は憲法違反なんだ」と思った。
だから、やめてしまおうとクラスの討論で言ったんです。
そうしたら、クラスの中にお父さんが自衛隊員の子がいて「でも自衛隊は災害の時に活動している」と言うので「じゃあ『災害協力隊』に名前を変えたらいい」と言って、議論に勝ったんです。

子供の頃から「この憲法はおかしいから、変えなきゃ自衛隊の存在が否定される」と思っていたんです。

石破:
普通に読めば、そういうことになりますね。
そうではない、とするキー・ワードが「必要最小限」だったわけでしょう。

虎と猫、どちらが大きいかと言われればそれは誰でもわかるでしょうが、「必要最小限の防衛力」とは何ですか、と聞かれて、答えられる人はほとんどいない。

私は今でもオタクとかマニアと言われている。
航空、艦船、車両、これらの性能に詳しい者が、オタクとかマニアと言って異端視されること自体がおかしくないですか。

厚生労働委員会で、医療に詳しい人を「医療マニア」と言いますか。
国土交通委員会で、建築に詳しい人を「建築マニア」と言いますか。

だけど、こと安全保障に限って言えば、それに詳しい人はオタクであり、マニアであり、戦争大好き。
それは、こういうことについて真面目に考えることを異端視する、そういう風土、文化がなぜ形成されたかということです。

平井:
「敗戦コンプレックス」ですか?

石破:
そうでしょうね。
憲法に書いてあることが実態と合わないからでしょう。

「これは何ですか? -戦力ではありません。」
「これは何ですか? -軍隊ではありません。」

そうすると、真面目に考えようという気がなくなるんじゃないですか。
 

地道でまっとうな安全保障・防衛議論が行われない国は怖い

石破:
大臣として、どんなに航空機や艦船や車両について、きちんと準備をしても、そういう具体的なことはほとんど質問されない。

「専守防衛」というのは、人員、弾薬、燃料、食料が十分にないと達成できない防衛戦略です。

では、人は足りているのか? 
燃料は足りているのか? 
警備体系は現状で十分に抑止力足りうるのか?

そういう本当に地道でまっとうな防衛議論が行われない国って怖くないですか。

今でも世論調査によると、国民の3割は「2項を変えるべき」だと思っているんですよ。
「2項を維持するべき」だというのが3割。
「分からない」というのが4割。

これだけ「2項削除は危険な思想だ」「2項削除はフルスペックの集団的自衛権を認めるものだ」といろいろな非難がある中で、3割の人は「2項を変えるべきだ」と。
つまり、あと2割でしょう。
ゼロから始めるわけではない。

あと2割を説得するのが、与党の責任というものではないのでしょうか。

平井:
どこかのタイミングで、石破さんが「自分の意見はあるが、党で決めればそれに従う」とおっしゃいましたね。
あれをもって、なんとなく党内調整の山は越えたのかなと思ったんですが、ご自分ではそこまでいっていないと?

石破:
党で決めてそれに逆らったら、それは離党しなさい、ということでしょう。
党議決定とはそういうもの。

平井:
今まで党議決定に従わない人も沢山いたし、トイレに行ったりする人もいたし…。

石破
それはそれとして、そういう状況までいくかどうかはまだ分からないですよ。
自民党もまだ条文化に至ったわけではないし。
 

 
 

憲法改正にどれだけ政治的エネルギーを費やすのか

平井:
いま少し安倍政権は弱っていて、憲法改正は無理ではないかという人もいますが、安倍さんにできないなら次の総理でも出来ないんじゃないですか?

石破:
もう一つ別の問題として、今の憲法の範囲内で出来るけれども、まだ手付かずの安全保障関連の懸案を先に手掛けるべきではないかということがあります。たとえば、即有事として認定はできないが、我が国の主権が脅かされるような「グレーゾーン」の事態については、私は万全の備えができているとは思っていません。

初動から有事認定に至るまで、警察や海上保安庁と事態対処が、どのように連携すべきか、法整備が必要なら、それも含めて手当てしなければならない。

また、これから本格的な少子化社会を迎え、陸も海も空も自衛官が足りない。
では、どう充足するのか、マンパワーに頼らない体制整備はいかにあるべきか、どれほどの継戦能力にどれだけの予備役が必要か。

まずは、これらの課題を解決するために、政治的エネルギーを振り向けるべきではないだろうかということです。
私は、本当に真っ当な9条改正をやるのであれば、5年かけても10年かけてもいいと思っている。

平井:
グレーゾーンに対応する領域警備法をつくるのは、憲法改正程の政治的エネルギーを要しませんよね。

憲法改正は今が唯一のチャンスかなと思っていたので、それが遠のきつつあることを考えると、もう無理なのかなと思ってしまう。
 

石破:
安倍総裁は「憲法改正しても何も変わらない」と仰っていますよ。

平井:
でも、小学生の僕は納得できるんです。
「自衛隊はもう違憲じゃないんだ。合憲なんだ」と。

石破
いまでも「自衛隊は合憲です。しかも、自衛隊の活動を評価しますか」という問いで、9割の国民が評価しているんですよ。

今どき「自衛隊は違憲だ」という子は、ほとんどいないでしょう。

平井:
それでも、たまにそう言う人がいるじゃないですか。
 

石破:
総裁も、先日の党大会の演説で「自衛隊を憲法違反だという学者がいる。憲法違反だということが教科書に載っている」と発言されました。

そういう学者がいることも事実。
憲法違反だとする学者が法曹界で高名であることもあるでしょう。

でも、憲法は我が国の最高法規です。そして、国民と「軍」との関係は、民主主義の根幹にかかわることです。

それを改正するというときに、現状すでに合憲である実力組織を、とりあえず明示的に合憲とするためだけに改正するというのには、正直、相当な違和感があるんです。


平井:
自衛隊員に聞いてみたわけではないが、自衛隊で働いていたら嫌になりませんか?

石破:
ならないのではないですか。

平井
それはなぜですか?
国を守るという強い意志があるから?

石破:
それは、憲法以前の問題として、国民と自衛隊の間に強い絆があるからです。国民の9割以上が評価をして、ありがとうと言っている。

憲法改正は必要ですよ。
だけど、改正すべき点は、まさに国民と実力組織との絆を、最高法規にどう記すべきか、ということでしょう。それは、国民の側の覚悟も問われるべきものであるはずです。
せっかくエネルギーを費やすのだから、きちんと国民に問いかけ、これからの日本の抑止力を高めるために何が必要なのか、本質的に開かれた議論をすべきです。
 

続きは【平井文夫の聞かねばならぬ】石破茂×平井文夫対談PART3へ
(4月5日公開)
 

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ客員解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て報道局上席解説委員に。2024年8月に退社。