台湾を襲った3日の大地震で最大震度6強が観測された花蓮県。
“台湾のグランドキャニオン”とも称される、台湾随一の絶景スポット「太魯閣公園」の周辺では巨大な落石や、道路が完全に崩落するなどの被害が確認されている。
東京大学大学院の渡邉英徳教授に、衛星画像からわかる海岸線や山岳部の地震前後の変化について聞いた。
土砂で濁る海岸線
ーー地震の被害は?
衛星画像で地震前日の4月2日と発災直後1時間以内の海岸線の画像を見比べると、もともとは青くて綺麗な海が茶色く濁っていることがわかります。

河口から大量の土砂が海に流れ込んで、防波堤の中も、もともとは綺麗な青色だったのが茶色く濁ってしまっています。
問題はこの土砂がどこから来たかです。

また2日には大きな船が停泊していましたが、地震が起きた直後には、津波が来るという警報があったのだと思いますが、岸壁を離れて沖に向かって行く様子が写っています。

波については、津波なのか普通の波なのかはちょっとわかりませんが、水位が前日に比べて少し低くなっているようにも見えます。
この30~40分後に満潮を迎えるはずで、本来は海面が高いはずなのですが、前日と比較すると少し水位が低くなっているように見えるので、津波の影響があるのかなと思います。
崖崩れで山肌が露呈
一方、山の上空には白くモヤモヤしたものが確認され、地震により大量の土砂が巻き上げられた状態ではないかと渡邉教授は指摘する。
ーー山の土砂崩れの様子は?
山の状態を上空が晴れていた3月23日の画像と比較すると、もともとは川の両側は木で覆われていて緑でした。

しかし、地震後はあちらこちらで大きく崩れて土が見えています。
もともと綺麗な山だったところが崩れてしまって、山肌が見えてしまっているのがわかります。

こうした変化は、川の流域全体に沿って起こっています。
この土砂が全部川に流れ込んで、発災からわずか1時間後に河口はあれだけの濁りが生じたということです。

また、山の上にかかる白くモヤっとしたものは雲ではなく、土砂が巻き上げられた状態なのかもしれません。
それだけ大規模に土砂崩れが発生していると考えています。

同じような状況は、1月に起きた能登半島地震の時にも発生していました。
市街につながる川の上流で崖崩れが起きて川が濁るという現象は、珠洲市でも起きていました。
台風シーズン前に対応を
地盤が緩んでいる中、心配されるのが台風などによる洪水被害だという。
ーー今後の懸案は?
台湾で今後心配されるのは、日本と同じように台風がよく来ることです。
夏に向けて台風シーズンになった時に、すでに崩れ落ちて地盤が緩んでいる山のところに大雨が降ったとしたら、洪水等が起きる可能性があります。

それまでは植物があって水を保持する力が強かった土壌が、地震によって緩んでしまったり、斜面が崩れて雨がじかに土に染み込むような状況が生まれてしまっているので、台風による大雨が降った場合は大変危険な状況が生まれることが心配されます。
夏が来るまでにがけ崩れをコンクリートでせき止めて補強するのは難しいので、どれだけの対応が可能かはこれから台湾の政府に求められてくることだと思います。

ーーこれだけの被害は予想できた?
震源は海の中なので、まずは津波の印象が強く、陸上の被害にはあまり意識が向いていませんでした。
しかし衛星画像を観察していくと、都市部はもちろんのこと山地で大規模な崖崩れが多数起きていることを発見したので、予想とはちょっと違っていました。

津波の発生や、都市部で建物が倒壊する点に注目しがちな災害ですが、実際には山岳部で高速道路が倒壊するなど、むしろ山沿いでの被害が多い印象です。
能登半島地震の時もそうでしたが、もし山の中に集落があった場合は孤立している可能性があります。
今後はアクセスしにくい山の中の集落をどうやって支援していくか、また、崖崩れが起きてしまった場所をどのようにカバーするかが問われてくるように思います。