ロシア・モスクワ郊外のコンサート会場で22日に起きた銃撃テロの死者は、これまでに137人に上り、容疑者4人が24日起訴された。
数十年で最悪のテロ
銃撃テロによる死者はこれまでに137人、負傷者は182人に上り、過激派組織「イスラム国」は23日、襲撃当時の様子とする映像を公開して、犯行を主張している。

地元メディアは、ロシア当局が24日に実行犯4人を起訴したと報じ、いずれも外国籍だとしている。
プーチン大統領は、実行犯らがウクライナに越境する「窓口」が用意されていたと主張していて、ウクライナ側はロシアが責任転嫁しようとしていると非難している。モスクワでは数十年で最悪のテロとなった。
「イスラム国」は23日、犯行時のビデオを公開するなど、今も積極的に存在をアピールしている。新たに公開されたビデオは、「イスラム国」の広報機関とされるアマーク通信がSNSを通じて公開したものだ。

映像には、犯人の1人が劇場内で銃を乱射している様子が捉えられている。また、廊下には複数の市民が倒れ、遠くには炎が燃える様子も確認できた。実行犯は4人で、3人が銃撃を行い、1人が火炎瓶などを使い火をつけたという。

映像は1分30秒ほどだが、ナイフで市民に襲いかかる様子や、犯人の1人が「異教徒は殺せ」と叫んでいる様子も映されており、冷酷で残忍な犯行の全容が克明に捉えられていた。
一方で、ロシアの治安当局は犯行グループ11人を拘束し、犯人を連行する様子を公開した。犯人たちの顔面は大きく腫れ上がり、犯行から拘束の過程で激しい暴力があったことも見て取れる。
プーチン氏は“憎むべき対象”
「イスラム国」のテロは、これまで欧米が狙われてきたケースが多い印象だが、今回なぜロシアが狙われたのか。

2011年に勃発したシリア内戦では、アサド大統領率いる政府軍と「イスラム国」が激しく対立した。欧米から批判が強かったアサド大統領を強力に支援したのがプーチン大統領で、「イスラム国」へ激しい攻撃を続け、壊滅状態にまで追い込んだ過去がある。こうしたことから、「イスラム国」にとって、プーチン氏は“憎むべき対象”だといえる。
“最も残忍”「イスラム国」-Kとは
今回犯行声明を出したのは、「イスラム国」-Kと呼ばれる「イスラム国」の支部の一つで、「イスラム国」の中で最も残虐な集団とされている。

「イスラム国」-Kは、アフガニスタンなどの地域を示すホラサン地域の一部で活動を行っており、「イスラム国」-KのKは、ホラサンの英語表記「Khorasan」の頭文字から取っているという。
この「イスラム国」-Kは、最近も動きを活発化させていた。2022年にはカブールのロシア大使館で自爆テロを起こすなど、ロシアへの攻撃を続けていた。

今回のテロは、大統領選から1週間後というタイミングを狙ったと考えられる。世界が注目しているし、圧勝を誇らしげにアピールしていたプーチン氏にダメージを与える狙いがあったと思われる。また、イスラム教徒にとって神聖なラマダン月にジハード、テロを行うことはテロリストにとってポイントが高いといえる。そのため過激派のモチベーションが上がっていたと考えられる。
アメリカが事前に察知しロシア当局に共有
今回のテロの可能性について、アメリカは事前に察知していたという。ウクライナ戦争で関係が悪化する中、アメリカはロシア当局とも情報を共有していた。

在ロシア米国大使館は7日、「過激派がモスクワでの大規模集会をターゲットにした差し迫った攻撃を計画している」として、ロシアにいるアメリカ市民に警告を出していた。
しかし、プーチン氏は「アメリカの警告は挑発的だ。社会を不安定化しようとしている」と意に介さず反発。そうした中で実際にテロが起きたため、プーチン氏は完全にメンツを潰された形になった。それだけに、プーチン氏は多くの市民に犠牲が出ているのに、ほぼ1日姿を見せることはなかった。

事件発生から約19時間たった23日、ようやくテレビ演説を行っているが、そこで「犯行グループがウクライナに逃亡しようとしていた」として、背後にウクライナが関与していると示唆した。そのためロシア側は、「イスラム国」による犯行とはまだ認めていない。

ウクライナと結びつけるのは、テロを食い止められなかった自分の失策をウクライナの責任にしてしまおうとの思惑があるかと思われるが、キリスト教徒との対決を叫ぶ「イスラム国」が、ウクライナと連携するというのは考えにくい。アメリカの当局者は、プーチン氏が今回のテロへの報復を口実に、ウクライナへ激しい攻撃を行うのではないかと話している。

プーチン氏は、日本時間25日未明に犠牲者を追悼するため教会で祈る映像を公開した。大統領選では安定や強いロシアを強調したプーチン氏だが、今回市民に多くの犠牲を出したことをどう受け止めているのか、しっかりとした言葉で語って欲しい。
(「イット!」 3月25日放送より)