静岡県議会は定例会のたびに不測の事態に陥ることが“恒例”となってしまっている。それも原因が常に知事にあると聞けば驚く人も多いだろう。3月18日に閉会した2月定例会も例に洩れず、最終日の本会議は緊張感に包まれた。

定例会のたびに“荒れた”1年

静岡県議会(定数68・欠員1)は川勝平太 知事と反目する自民改革会議が67議席のうち41議席を占めていることから、議会が紛糾する場面をしばしば見かけるが、それでも2023年度ほど“荒れた”1年は過去にもないだろう。

知事に対する不信任案が出される事態に

最初の定例会となった6月定例会は、川勝知事が自身の不適切発言に伴い「給与やボーナスを返す」と言っていたにも関わらず返上していないことが明るみとなり、この問題に端を発して県政史上2度目となる知事に対する不信任決議案が提出されるに至った。

すべての発端となった”コシヒカリ”発言(2021年10月)
すべての発端となった”コシヒカリ”発言(2021年10月)
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採決の結果、この決議案は否決されたものの、可決ラインまではあと1票とまさに“薄氷の否決”。川勝知事が肝を冷やしたのは言うまでもなく、だからこそ、公の場で「議会とのコミュニケーションを密にする」と誓いを立てたのだろう。

不用意な発言で最大会派が激怒

しかし、続く9月定例会。開会以降、何事もなく順調に日程を消化していたにも関わらず、最後の最後で川勝知事自らが火種をまいた。

閉会前日の10月12日に行われた経済界の懇談の中で議会の議決を得ていない事業について、さも“決定事項”かのように話したことから自民改革会議が「議会軽視である」と猛反発。

川勝知事を糾弾すべく、当初は最終日の議事日程に入っていなかった緊急質問が行われるなど、午前中に終わるはずだった審議がすべて済んだ頃には午後7時半になっていた。

発言は「不用意」 撤回求めるも…

また、迂闊な発言の代償は大きく、真偽を確かめるため閉会中も調査が行われることになり、県議会・総務委員会は関係者への聞き取りなどから、知事の発言は「不用意であることが明らかになった」と総括。

そして、「県議会や県当局はもとより、関係する多方面に混乱をもたらしたことは事実」として、12月定例会の開会を前に川勝知事に対して発言の速やかな訂正と今後は軽率な発言を慎むよう申し入れた。

県議会 総務委員会による申し入れ(2023年11月)
県議会 総務委員会による申し入れ(2023年11月)

ところが、川勝知事はこの申し入れを「訂正するほどのことではない」と突っぱねる。

その姿勢は12月1日に定例会が開会しても変わらず、「申し入れを真摯に受け止めている」と口にしながらも「訂正はしない」と頑なな姿勢を貫いた。

全県議で決議案提出・可決も非は認めず

だが、この態度が自民改革会議の怒りに火をつけることになる。

あるベテラン議員は議員総会で会派の執行部に対して「舐められているんだよ、完全に。真摯に受け止めるが訂正しないなんて日本語はない。訂正させなければダメだ」と捲し立て、他にも川勝知事に対する厳しい対応を望む議員が多数いたことから、他の会派や無所属議員と調整の上、県議全員の連名で発言の訂正を求める決議案を提出し異議なく可決。

さらに、中沢公彦 議長は川勝知事を議長室に呼び出した上で、報道陣に公開する形で決議文を手渡すという異例の対応を取り、「6月・9月・12月と毎議会のごとく問題を起こしていることは大変遺憾」と申し添えた。

知事に決議文を手渡す際の中沢議長(2023年12月)
知事に決議文を手渡す際の中沢議長(2023年12月)

これを受け、川勝知事は事業の白紙化表明を余儀なくされると共に、議会に混乱を来し決議にまで至ったことを陳謝。ただ、発言それ自体について最後まで詫びることも非を認めることもなかった。

わずか30分の面会で3つの失言

それから3カ月。中沢議長からの“忠告”を忘れてしまったのか、またしても川勝知事の発言が物議を醸すことになる。

取り沙汰されているのは3月13日の出来事だ。川勝知事は女子サッカーチームとの面会の中で、突如として藤枝東高校について話題にあげ、「藤枝東はサッカーするためにやって来ている。ボールを蹴ることが一番重要。勉強よりも何よりも」と発言。

むろん、藤枝東高校は県内だけでなく、全国でも有名なサッカーの強豪校だが、その一方で地区トップの進学校でもある。そんな高校について、誰もがサッカーしかしていないかのごとく聞こえるような言い草をしてしまった。

しかし、“失言”はこれだけに留まらない。「サッカーはサムライブルー。野球は侍ジャパン。侍というが、それは礼儀正しく、潔い。スポーツでいえばフェアプレイ・スポーツマンシップが身に付いている。やっぱり男の子はお母さんに育てられるし、お母さんが(そうした部分を)持っている」と自説を述べ、県が男性の家事・育児参画を促進する取り組みを推進する中で、トップたる知事自らがジェンダー・バイアス(男女の役割について固定的な観念を持つこと)を露見。

このジェンダー・バイアスをめぐっては、2021年6月の知事選の際に、川勝知事が演説で「女性は子供、主人、父母のために愛情を持って生きている。愛情にあふれた女性を立てないで、男は男になれない」などとも口にしていて、後に「自身の女性観・家族観が今の時代に合っていると考えるか」と問われた知事は「パターン化した時代錯誤的な発言」と深く反省していたが、図らずも価値観が変わっていないことを露呈したとも言える。

不適切な発言が複数飛び出した面会(3月13日)
不適切な発言が複数飛び出した面会(3月13日)

加えて、女子サッカーチームが磐田市を本拠地としていることを念頭に「磐田というところは文化が高い」と持ち上げたところまでは良かったが、続けて「浜松より元々高かった」となぜか隣接する浜松市を引き合いに出したことで、結果として浜松を揶揄するような形になってしまった。皮肉にも、川勝知事がその場で「こういった言い方をすると語弊があるかもしれない」とすぐさま“火消し”を図っていることが何よりの答えだ。

それでも「私は自分が思っている通りのことを話している。場を心得て話しているつもり。(面会相手に)無礼を働いたとすれば問題があると思うがそういうことはなかった」と、いずれの言動も謝罪や撤回・訂正をする考えはないという。

不信任案見送りも…藤枝東OBが怒り

このため、自民改革会議は15日に役員会や議員総会を開いて対応を協議。

一部には再び不信任決議案を提出するよう求める議員もいたそうだが、慎重な意見が多数を占め、結果的に提出は見送られた。

だからと言って自民改革会議が何もしないわけではない。

18日に行われた2月定例会最終日の本会議で、議案審議の賛成討論に立った河原崎聖 議員は壇上で声を張り上げた。

河原崎議員は藤枝東高校の出身。母校への思い入れも強く、「私が入学した45年前ですら勉学優先の学生生活を送る生徒が多かった。藤枝東高校のアイデンティティに触れたかったのかもしれないが、表現はどう言いつくろっても適切ではない」と断罪するとともに、磐田市に関わる発言について「(辞職勧告決議に発展した)“コシヒカリ”発言を機に県民を分断する表現は強く戒めるようになったのではないか?」と疑問を呈した。

その上で、「リップサービスのつもりでの発言が必ず何かとの比較になる。自身がおもしろい、正しいと思っている発言は、聞き手からすると受け入れがたいものが多いことを自覚するべき」と諫言。

問いかけに無言を貫く川勝知事(3月18日)
問いかけに無言を貫く川勝知事(3月18日)

一方、討論は質疑と違って答弁を求めるものではないため、閉会後、報道陣は川勝知事を待ち構えたが問いかけに何も応じることなく自室に戻った。

大谷選手を政治利用?川勝知事の“夢”

ちなみに、あまり知られていないが2月定例会の文化観光委員会ではこんな場面もあった。

県の職員によれば川勝知事は大リーグ・大谷翔平 選手に惚れ込んでいて、だからなのか1月5日に開かれた静岡商工会議所主催の賀詞交歓会では「(静岡市にある)草薙球場は野球の聖地。何とか大谷翔平さんのいるドジャースを静岡県に招きたい。そして、あそこの球場で投げてもらいたい」と夢を語り出し、「“野球の神様“ベーブ・ルースを抜いたのは翔平さん。ですから、あそこ(草薙球場)に銅像を建てたい。ここを野球の聖地にしていきたい。それをするのに一番効果的なのはドジャースの開幕戦を迎えること。岸田会頭、何卒尽力をお願いします。県としても、野球ファンとともにそういうことが可能になるようにやっていきたい」と”宣言“したという。

これに対し、現地で川勝知事の挨拶を聞いていた無所属の遠藤行洋 議員が「川勝知事による大谷翔平 選手の明らかな政治利用。あたかも県が商工会議所と組んでドジャース戦を草薙に持ってくるかのような話しぶりで、その場にいる人を喜ばせているが、そんなことは絶対にできない」と指摘し、「静岡県でもっとも公の立場にいる知事が、公の場で堂々と荒唐無稽なウソをついている」と迫ると、委員会に出席した県幹部は「我々もいろいろ調べ、知事には『草薙ではドジャース戦は出来ない。過去に日本でメジャーの試合が開催されたのはドーム球場だけ』と伝えている」と声を絞り出すのがやっとだった。

なお、川勝知事は同様の発言を浜松商工会議所の賀詞交歓会など、他にも複数の場でもしていたそうだ。

口は禍の元というが、その意味をどれくらい理解しているだろうか。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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