新型コロナウイルスの影響により、テレビ業界も各所で「リモート」を取り入れた。この変化は今後"ニューノーマル”として定着するのだろうか。番組制作の現場を取材する。

今回は7月4日に特番としてオンエアされた『ハモネプ』と、土曜夕方6時のレギュラー番組『MUSIC FAIR』。コロナショックの期間に、苦しい環境にもなり、また多くの人に力を与えることにもなった音楽番組の状況をリポートしたい。

――密を避けなければいけない期間ですが、どのような経緯でハモネプ開催に至ったのですか?

北口 富紀子(チーフプロデューサー):
募集を開始した後に、コロナウイルスの感染が拡大していって、もちろん、やれるのかやれないのか、やいのやいのとありました(笑)

その時に、視聴者センターにこんな問い合わせも頂いたんです。「子供がどうしてもハモネプに出るといって、練習に行こうとします。どのようにお考えなのですか?」と。

学生の皆さんはやっぱり出場したいと思ってくれていたんだと、熱い思いを感じ取って、開催するという気持ちは固まっていました。

緊急事態宣言もいずれ終了するはずだから、応募の期間をギリギリまで延長して、学生の皆さんにも、今は集まらないようにとTwitterなどで丁寧に発信しました。

また、他の番組と大きく異なるのは、出演者がタレントではなく、一般の学生たちという事です。その部分は本当に悩み、皆で様々な工夫をしました。

普段は1日で開催するのですが、今回は人数を減らすために予選と決勝の2日に分けて。また、MCのネプチューンと学生たちとのトークも番組の醍醐味ではあるのですが、リスクを考慮して、予選にはネプチューンが参加しない事に。これは苦渋の決断でした。

北口 富紀子(「ハモネプ」チーフプロデューサー)

――この期間に、音楽の力で元気を届けたいという意図もありましたか?

北口:
まさにそうですし、実はアカペラはどんな場所でも出来るので、このコロナショックのタイミングにマッチしているという思いもありました。それに、応募してくれた学生たちが本当に歌が好きで。

石川 敬大(プロデューサー):
エントリーの動画には、フェイスシールドを付けて歌っていたり、リモートで収録していたりと。「僕たちもしっかりと対策して練習してますよ」と伝わるような動画を送ってくれました。

北口:
みんなの熱い思いを知っていたので、収録当日は私もサブ(スタジオの調整室)で泣きまくりです(笑)

――番組でもCGグリーンバックの前で歌唱するシーンが少し紹介されていましたが、どのように収録したのですか?

北口:
本来は大勢の前で歌える舞台が、応募のモチベーションにもなっているのですが、今回はもちろんお客さんを入れられません。苦肉の策として、グリーンバックの前で歌ってもらい、CG合成する事になりました。

それでも、出演者には誰かの前で歌って欲しい。なので今回は学生たちの憧れの方々をゲストに呼び、同じスタジオ内で十分に離れた場所から聴いてもらいました。

いつもは10人のゲストをお招きするのですが、今回は4人。それでも同じ空間に感動してくれる人が居た方が絶対良いと思いまして。

石川:
各出演者の間にはアクリル板を設置、カメラもゲスト側は固定で、歌唱の方に数人、ディレクターも2人だけでした。

ハモネプ制作スタッフによるリハーサルの様子

――CG合成という点では、ネプリーグのノウハウが生きていますね。

北口:
CGはかなり気合が入っています。ディレクターと演出が面白いものを作りましょうと言って。収録の後に制作したのですが、各チームの世界観に合わせて作りました。例えば曲が「鬼滅の刃」であれば、少しダークなCGなど。色んな効果が実現できるんです。舞台下からせり上がって登場するようなCG演出もしました。

アニメ「鬼滅の刃」主題歌「紅蓮華」を歌唱する「まいける.jp」
舞台下からせり上がるCG演出で登場した「シンフォニア」

――リモート参加のチームもあって驚きました。しかも高得点を叩き出していて。

北口:
学校側の許可が下りず、スタジオに来ることが出来ない学生たちもいました。実力はものすごくあって期待も高かったんです。なので、応募の審査結果の順番通りに、リモートで出演してもらいました。

北海道からリモート参加した「アルペジオ」

――ツールはzoomでしょうか?

石川:
はい、zoomです。練習を重ねてリズムも合わせて、マイク機材なども自分たちで音の出方が良いものを選んでいたようです。番組側からは何も提供していません。他のスタジオ出演したチームも、この期間はリモートでしか練習ができない状況でした。

――リモートでのアカペラコンテストへの参加、世界初かもしれないですね?

石川:
もしかしたら、このタイミングだとそうかもしれないです。

石川 敬大(「ハモネプ」プロデューサー)

――制作スタッフの働き方に変化はありましたか?

石川:
これまで編集室に集まって何時間もかけていた作業を、リモートでやるようになりました。IVSさん(IVSテレビ制作)の提案で、プレビュー用の動画をクローズドな場所にライブストリーミング配信して、皆リモートでアクセスして作業を進めました。

また、変わった事と言えば、やっぱり会議。これまで会議の為に資料をプリントアウトしたり、テレビ業界の場合は、お菓子屋や飲み物を机の上に並べたりしますよね?とりあえずたくさん置いとけ、みたいな。そういった時間は削られました。

――それでは、リモートだからこその良い面はありますか?

石川:
う~ん。。それは、一切ないですね(笑) 本当はお客さんの前で歌ってほしいし、ネプチューンにも横にいて欲しいし。

アカペラも、皆で距離を縮めてくっついて歌うから、音を重ね合わせていけるのだと思います。

北口:
冒頭でMCの原田泰造さんも言ってくれたのですが、アクリル板を一枚隔てると、トークでも聞こえづらいのに、その状況でさらにハモリを成立させていると。

今回はそのような感動もあって、番組としては良い結果となりました。

――今回の収録スタイルの中から、今後“ニューノーマル”として定着する要素はありそうでしょうか?

北口:
もちろん感染対策のマニュアルは、今後の収録にも生かして行きます。ただ、一人も感染者を出さないという緊張感は本当にきついですし、対策もその都度、何度も話し合って進めるものでしょう。CGもまた使いたいですが、ライブの収録は美術セットの良さもあります。

先日他の番組ですが、リモートでお客さんに入ってもらいました。実は「99人の壁」で、99人が一斉にリモート参加するというので、その仕組みを勉強しに行ったのです。その後「ENGEIグランドスラム」で、お客さんのリモート参加を実施しました。

今後はリモートでの番組観覧が増えてくるかもしれないですね。

記事TOPグリーンバック画像のCG合成後(「ザ・コンティニューズ」)

――最後に、オンエアの反響、手応えはいかがでしたか?

北口:
学生たちが作り出した、筋書きのないストーリー、そのストーリーに視聴者の皆さんがすごく反応してくれた、入り込んでくれた、という印象があります。

あれだけ練習を重ねても、本番で歌詞が飛んでしまったチームがありましたが、視聴者の皆さんは、そのチームの成功バージョンが聴きたいと、YouTubeの再生回数が跳ね上がったりしたのです。

――HIKAKINさんの存在も大きいですね

北口:
やっぱりハモネプ出身ですし、学生の立場を一番分かっていて、愛情があります。今回は直接は会えないのですが、学生たちに「HIKAKINさんからだよ」と差し入れを持っていくと、皆盛り上がって、緊張がほぐれたり。

――チーフプロデューサー自身の熱い思いも感じました

北口:
ハモネプはしばらく開催していない期間もありました。昨年、数年ぶりに復活したんです。今回は学生限定大会という事で、原点に戻ってリスタートするという意味も込めていました。

とにかく私自身が本当にハマっちゃって。たとえば、King Gnuの「白日」はもともと素晴らしい曲ですが、私は学生たちがアレンジした演歌バージョンじゃないともう物足りなくて(笑)、スマートフォンにダウンロードして聴いてるんです。

リモートワークでオープニング曲を制作

55年の歴史を持つ「MUSIC FAIR」では、ミュージシャン、アーティストの方が自宅から歌唱・演奏するリモート収録で、新たなオープニング曲「MUSIC FAIRのテーマ ~在宅ワークver~」を制作。5月2日からしばらくの期間に渡ってオンエアした。

この期間の番組制作に関して「MUSIC FAIR」演出/プロデューサーの浜崎綾さんに話を聞いた。

MUSIC FAIRのテーマ ~在宅ワークver~

――まず最初に「MUSIC FAIRのテーマ ~在宅ワークver~」制作の経緯を教えてください

緊急事態宣言が出され、この先しばらく収録が出来ないだろうという事になり、総集編でしのぐしかない中で、まずはどんな総集編をやっていくかを考えました。

ミュージックフェアは55年の歴史がありますので、何十年分というリストの中から、他の音楽番組とは被らない括りを考え、当面2か月くらいの見通しを立てたんです。

ただ、もちろん総集編も良いのですが、何か1曲、新作・新企画があっても良いのかなって。それはもう個人的に勝手に思いまして。

まずは番組のスポンサーであるシオノギ製薬に相談しました。普段からもやり取りがあるのですが、このコロナ禍において、特に医療に関わる企業ですから、考え方を確認したのです。

すると、ぜひやってほしいというお返事でした。

そのような企画を進めてくれるのは、製薬会社の従業員も病院や医療に関わる方々も、きっと勇気づけられると思いますと。

それからすぐに制作に取り掛かりました。

浜崎 綾(「ミュージックフェア」演出/プロデューサー)

――実際の制作はどのように進めたのでしょう?

まず音楽監督の武部聡志さんに連絡して、テンポをキープするクリックとピアノによるガイドを依頼しました。アーティストにはそのクリック・ガイドをイヤホンで聞きながら歌ってもらいます。

その音源に、企画主旨と簡単な動画撮影のマニュアルを添付して、アーティストの皆様に送りました。

――アーティストの方はご自身のスマホで撮影されたのですか?

そうですね、マネージャーさんも稼働せずに、ご自身で撮ったものでした。

ISSA(DA PUMP)

――(マニュアルに)「“こんな事やってみた”も大歓迎」とあります

コーラスやハモリを送ってくださる方もいました。シンガーソングライターの方は自宅にも機材があったりするので、音声ファイルでいくつも送ってくれたり。例えばこちらは、さかいゆうさんからのデータですが、ハモリ1番、ハモリ2番、というように。

さかいゆう

――これだけの音源を編集するのは大変でしたか?

地味な作業をコツコツ進める部分はありますが、実はこれくらいの編集はPCで全部出来てしまうんです。映像はPremiere Proですが、音の編集はPro Toolsを使って。

ひと昔前は、編集室のオペレーターさんにお願いするという感覚の人も多かったのですが、今は実作業も出来ないと、ディレクターとして食べて行けない時代です。

編集もリモートワークにて PC上での作業

――制作の過程で、新たな気づきはありましたか?

例えば、天才小学生ドラマーのよよかちゃんは、北海道に住んでいるのですが、わざわざ東京に来てもらわなくても、自宅からお父さんがマイクを立てて録音して、メールで送ってくれるんです。

何かもう、普段からこのようなやり方も出来たのでは?と。逆に楽だなという印象さえありました。

よよか

――完成し、オンエアを経て、どんな事を感じましたか?

アーティストの皆さんも歌っている時は自宅で一人だったはずですが、オンエアを見ると多くの方とコラボして共演している。こんな事ができるんだ、という新たな気づきになったと思います。

また、このコロナの状況の中で何か自分たちに出来る事はないだろうか?と探していた時に、このようなオファーと演奏する機会をもらえて、本当に嬉しかった、明るい気持ちになれたと言ってもらえました。

――緊急事態宣言が明けて、収録を再開していますが、どんな変化がありますか?

やっぱり一番気を付けている事は、アーティストにとってリスクの無い環境を作る事です。

再開してしばらくの間は、スタジオの人数を減らすために、生演奏のバンドを一切入れずに収録しました。ただミュージックフェアはコラボがあるので、既存のカラオケ音源では出来ません。ですので別日にバンドだけでレコーディングをして、その音源を使って収録しました。

生演奏やボーカル同士のエネルギーをすごく大切にする番組なのですが、それでも諦めざるを得なかった。もう考え方を根底から変えると言いますか。「そこが一番大事なんだから無理してでも貫こうよ」と言える状況では無かったという事です。

生演奏であれば、その場で盛り上がって100点だったものが130点になる瞬間がありますが、事前のレコーディングではそうは行きません。

ビニールシートで感染対策をするスタジオ

――制作スタッフの働き方も変わったと思います。“ニューノーマル”として今後も定着しそうな事はありますか?

いわゆる「セット打ち(美術セットの打ち合わせ)」などは、これまで10名くらい集まっていましたが、デザイナーとディレクターのみ対面で、他は全員リモートになりました。照明もこれまで15人だった所を4人にして、後はzoomです。

また、編集室も密になりやすい場所です。これまではADさんがずっと付きっ切りで、見て学ぶという慣習もあったのですが、それも止めました。

テレビ業界は遅れがちな部分もあったのですが、考えようによっては今回すごく効率化されて、働き方改革がきちんと進んだというイメージです。

今は対面で会議をしても大丈夫なのですが、それでも定例はzoomで続けています。そうすることで、他に用事があるスタッフは、わざわざ台場へ移動する時間をカット出来るようになりました。

いいことが多いですね(笑)

――逆に大変になった事はありますか?

別で担当している番組「Kinki Kidsのブンブブーン」ですが、例えばリモート収録で出演者が4人の場合、各場所にカメラ2台を設置すると、編集時には8つの動画データを扱う事になります。このパズルはなかなか大変で、やっぱりディレクターの編集作業は増えています。

――リモートという制約があるからこそ、クリエイティブが生まれる。そのようなポジティブな面もありますか?

ブンブブーンの方でも、テーマソングを作ろうという音楽の企画をやりました。遠隔でギタリスト、ベーシスト、キーボードの方をお呼びして。アウトラインのデモテープに合わせてその場で演奏して、いいね今の採用、といった具合に。

実はリモートは音楽との相性が良いのかなと感じます。今はデータ量もまったくストレスにならないですし、たとえば普段はなかなかお会いできないロスのミュージシャンとも、全然コラボできてしまいます。

――ブンブブーンでは、メイキングのような見せ方もされていました

作っていく過程を見せるのは、なんだかダラダラしたり、テレビ的に引きが無いと、これまで思い込んでしまっていたのかもしれません。テレビの制作者側からすると、出来上がった綺麗なものをお見せしたいと。

今回メイキングをやってみたら、視聴者の方からは「このような過程は見たことが無かった」「こういう所を見たかった」というリアクションを多く頂きました。

――技術に関してはいかがですか?

カメラの台数を減らしています。現代の音楽番組って少なくても6台、多いと8台~9台のカメラが稼働するのですが、今は4台でやっています。昔の「夜のヒットスタジオ」みたいな。

その代わりに、1台のカメラの比重が大きくなるので、カメラマンにとっては良い修行になっています。1カットで30秒持たせるワークって、なかなか無いですよね。それでも夜ヒットなどはやってたんです。ドリーの技術だったりズームなど、高いレベルで求められています。

収録ではカメラの台数を減らしている

――最後に、音楽業界全体に関する事ですが、アーティストの皆さんと接する中で、どのような事を感じましたか?

このコロナショックの中で、音楽業界は最初に影響を受け、そして標的にもされたのだと思います。東京ドームでのコンサートが当日中止となったり。

ただ、ミュージシャン、アーティストの方と接していると、とても倫理観が高いように感じました。まだ3月上旬、他の業界では休業などが発生していない段階で、音楽業界は自制をしています。もちろん経済的な損失はあるのですが、それでも今はやるべきではないと。

そして、この状況がしばらく続くと分かってくると、新たなチャレンジも始まりました。

「これからは何でも自分でやれる人間にならないと、生き残っていけない」と、アーティスト本人が動画の編集をして、YouTubeに配信をしたり。勉強意欲の高い方が本当に多いです。

「編集のソフト、何使ってるの?」と聞かれたりして。今までそんな会話をした事は無かったのですが、自粛期間中に自分で作れるようになりたいとおっしゃるんです。

(企画・構成:原礼子 / フジテレビ国際開発局 取材・文:寺記夫 / FNNプライムオンライン)