窓のない「密閉」されたスタジオで、多くのスタッフが「密集」し、役者同士がマスクもフェイスガードもなく「密接」するドラマ撮影は、このコロナ禍において、ひときわ対策が求められる難しい現場だ。

そんなドラマ撮影における“ニューノーマル”とは? 教えてくれたのは、現場で制作を指揮するフジテレビ編成制作局第一制作室の稲葉直人プロデューサー。稲葉さんが担当するのは、2020年10月スタートの連続ドラマ『ルパンの娘』。2019年に次ぐ続編として放送されるこのドラマは、稲葉さん曰く「ラブシーンあり、アクションあり、歌うシーンあり」の、言わば「濃厚接触」になりがちな場面の連続だ。

いざドラマの撮影をはじめるにあたり、稲葉さんが作ったのはオリジナルの『新型コロナウイルス感染防止ガイドライン』だった。1週間かけて練り上げたという、約20ページにもわたるマニュアルを手元に、その内容から話を聞いた。

現場での対策は徹底的にマニュアル化

――どのような経緯でマニュアルを作られたのですか?

稲葉直人プロデューサー
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もともと産業医の先生が番組収録時のガイドラインを出してくれていたのですが、それはバラエティもドラマも共通のもので。ドラマにはドラマの事情があって、まったくケースが異なるので、自分で『ルパンの娘』用にオリジナルのマニュアルを作りました。

大まかな指針だけを示しても現場のスタッフには伝わらないので、まずは「マスクの常時着用/消毒・除菌、手洗い・うがいの徹底/検温など体調管理の徹底/三密(密集/密接/密閉)を避ける」これら4つの基本ルールをあらためて徹底して。

スタジオに入る際には、必ず事前にスタッフが検温する

それを踏まえて「朝起きた時」「現場に来て準備する時」「撮影が始まった時」「休憩時」「終わって片付ける時」など、もう場面ごとに、すべてにおいて具体的に注意事項を並べました。

共同で利用する設備は素手で接触しないよう注意書きを
換気のためのサーキュレーターと扇風機は各部屋2つづつ、ルール化して設置
部屋での打合せはすべてドア全開で行われ、入口には消毒用のアルコールが置かれる
スタジオのドアも、もちろん全開。カメラが回っている間は全員が「静かに」することでノイズに対応する

自粛生活での実感がドラマのエッセンスに

――ドラマに出てきた、「リモート泥棒」や「自粛生活」のようなワードに共感する人も多かったと思います。

あれはちょうど、ドラマの準備期間中に脚本家と監督と僕と3人でZoomをやってみたときの実体験が反映されています。監督の画面が固まって打合せがスムーズに進まず、みんなイライラしたりして…みなさんも今、こういう思いでしょ?って。

小沢真珠さん演じる三雲悦子が「画面ばっかり見て肩がガチガチで目もチカチカする」って言っていたセリフも、監督がZoom会議中に「目がチカチカする」って言っていた、実際のやりとりから生まれました。

――コロナ禍によって演出的に大変だった部分もありますか?

感染対策を考えるなら、ラブシーンもアクションシーンも極力少なくしなければいけない、そして大声で歌ってはいけないって言われて、そうなるとこのドラマはもう、やっちゃいけないことだらけなんですよ(笑)。だから最初は「本当にやりますか?」って聞きましたね。

結局、ラブシーンは極力減らして、愛情表現をバックハグにしたり、キスシーンを減らしたりとギリギリの表現にとどめています。アクションシーンも、アクション監督に接近して組み合わないようにという指針のもとで書いてもらいました。

役者は本番以外は、フェイスガードやマスクをつけて演技をする
バックハグによって、密接を緩和する愛情表現になるよう工夫する

――緊急事態宣言下であらゆる現場がストップしていた頃、稲葉さんは何を考えていましたか?

リモートワークがメインだったので、制作の仕事を始めて約13年でほぼ初めて、ずっと自宅にいれたんですよ。うちは子どもが4人いるんですけど、1人目が生まれてから今まで、こんなにずっと子どもといっしょにいられたことはなかったなって。不謹慎ですけど、それがすごくうれしかったですね。

子どもってあっという間に大きくなっちゃうじゃないですか。だから、今しかないんだなって、そんな当たり前のことに気付かされました。

今回の『ルパンの娘』のテーマは「家族の絆」に置いてるんですね。僕自身、昨年末に父親を亡くしたり、また子供も4人もいるといろんな問題がでてきたりするわけです。だから自分としても家族というものへの意識がすごく高まったこともあった機会でもあったりして。だから今回は特に、最終回に向けても家族のテーマが色濃いですね。

リモートと対面を使い分ける「ニューノーマル」へ

今回、もっとも目からウロコだったのはオーディションです。3話から出演する小学生の女の子を募集したんですが、通常は80人ぐらいを丸2日かけて5〜10人にしぼって、さらに最終面接をします。

それが、今回アメリカのドラマのメイキングで知ったリモート・オーディションを試してみたんですよ。子役の事務所に台本だけ渡して家で動画を撮ってきてもらって。ご両親が携帯のカメラで撮ってるんですが、みなさんカメラワークも構図もこだわって、相手役のお父さんも熱演していたり、すごくクオリティが高くて。動画でもしっかりと審査ができます。これは今後も続けたいですね。

あともう一つよかったのが、脚本の打ち合わせを気軽にできることです。これまでは監督と僕と脚本家、3人のスケジュールを合わせて喫茶店に集合してやってたのが、今はWi-Fiさえ飛んでいれば、たとえロケで千葉にいたとしても普通に打合せできちゃう。移動時間がないのも大きい。Wi-FiやZoomなど機能自体は以前からあったのに、こうなるまで気づかなかったです。

これまでは、脚本打合せはみんなで顔を付き合わせてやるもの、っていう固定概念があったんですよ。会議室にみんなで集まって、難しい顔しながら歩き回ったり、お菓子をバリバリ食べたりしながら、深夜てっぺん過ぎるまで打合せしていた。そうでないと良い作品ができないと思い込んでいたんですね。

――脚本打ち合わせも、今後はリモート中心になりますか?

移動の時間がなくなるのと、多元的にいろんなことが両立できるメリットはあるので、今後もスケジュール次第で取り入れると思います。ただ、今回の脚本家の徳永さんは、前作の『ルパンの娘』もあって、初めての相手じゃなかったからできた面も大きかったと思うんですよ。

初めていっしょに作る人だと、やっぱり「飲みニケーション」じゃないですけど、ご飯をいっしょに食べて、「僕、あの映画が好きなんですよね」とか言いながら、お互いのクリエイティブの価値共有をしていく。それが制作において、実は意外と大事だったりするんですよね。

(企画・構成:原礼子 / フジテレビ国際開発局 取材・文:高木さおり)