オンでもオフでも、どんなシチュエーションでも合う服がそろっているユニクロ。いまや、日常に欠かせない存在になっている人も多いだろう。

そのユニクロは難民問題と長らく向き合ってきた。

2月には10~30歳のユース世代を対象としたコンテストで集まったアート作品をプリントしたチャリティTシャツコレクション「HOPE AWAY FROM HOME」を発売。その売上を難民支援に役立てている。

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ユニクロによる難民支援を通して「いま私たちにできること」を、同社サステナビリティマーケティング担当のシェルバ英子さんと考えていく。

(聞き手:フジ・メディア・ホールディングス・サステナビリティ推進室・木幡美子)

“回収した服の状態の良さ”が転機

現在、世界で紛争や迫害により故郷を追われた人の数は1億人以上と推計され、この10年で倍以上の増加となっている。 

ユニクロは2006年から国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)と共同で難民への衣料支援をスタート。出身国や境遇にかかわらず、故郷を追われるすべての人を継続的にサポートしてきた。

“服のチカラ”が持つ可能性を信じ、「緊急支援」「衣料支援」「自立支援」「雇用支援」と包括的に支援する取り組みを続けている。

そして、この問題を多くの人に知ってもらい、アクションを起こすためのプログラムの一つがチャリティTシャツコレクション「HOPE AWAY FROM HOME(#難民とともに 描く希望)」だ。

ユニクロ サステナビリティマーケティング 部長・シェルバ英子さん
ユニクロ サステナビリティマーケティング 部長・シェルバ英子さん

――2月22日に発売がはじまった「HOPE AWAY FROM HOME」について教えてください。

2023年の「世界難民の日」(6月20日)を機に、30歳以下の若い世代を対象とした「ユース難民アートコンテスト」をUNHCRと共に開催しました。

4000通以上のアート作品が世界各地から届けられ、応募者の中には難民の方もいました。その中で受賞作品となった5作品をプリントしたTシャツを発売しています。

1枚お求めいただくと3ドルがUNHCRに寄付される仕組みになっています。

「ユース難民アートコンテスト」の受賞作品がプリントされたTシャツ
「ユース難民アートコンテスト」の受賞作品がプリントされたTシャツ

難民というと遠い世界の話だと受け取られがちですが、Tシャツを買うところから支援に参加できるプログラムが「HOPE AWAY FROM HOME」です。

難民問題自体が知られていないという実情が日本にあるため、認知を広げる目的でもこの活動を展開しています。

――難民支援に着手された背景には何があったのでしょうか。

ユニクロはリサイクルに役立てるために2006年から服の回収プログラムを開始しました。

その際に、集まった服の状態が想像以上に良いことに気づき、「リサイクルするよりリユースした方が社会の役に立ち、地球環境への負荷も低減できるのでは?」と思い立ったことが始まりです。

そして、UNHCRの難民支援に活用していただこうという話になりました。

現在ユニクロでは、全世界で服を回収し、難民キャンプの実情やニーズに合わせて18種類に分けて、寄贈しています。これまでに80の国や地域に5400万点以上(※)を現地に届けています。

(※)一部、支援要請に応じて難民以外の受益者も含む 
(※)UNHCRを通した難民などへの寄贈に加え、その他NPO・NGOへの寄贈も含む

難民に必要なのは「自立支援」

フジ・メディア・ホールディングス・サステナビリティ推進室・木幡美子
フジ・メディア・ホールディングス・サステナビリティ推進室・木幡美子

――難民の方々はどのような支援を必要としているのでしょうか。

一概には言えませんが、着の身着のまま近隣国などに逃れ、難民キャンプに行き着いた方々は、水や食料に加えて衣服を必要としています。

私たちはそのニーズに応じる形でUNHCRを通じて服を活用しています。

ただ、そういった緊急性の高いケースだけに対応していてもこの問題は解決しません。必要なのは「自立支援」です。

支援がなくても難民の方々が自立していけるところまでサポートしていきたい。たとえば難民キャンプには、「(現地等で雇用されるのに必要な)縫製技術などを身に着けたい」といったニーズもあります。

UNHCRは、それをサポートする職業訓練活動も展開していて、私たちもそのお手伝いをしています。

――金銭的な支援もされているそうですね。

2023年末までに約4200万USドル(約63億円) を支援しております。

――その上でユニクロは「“届けよう服のチカラ”プロジェクト」 と銘打って子どもたちとともに支援活動も展開されている。

このプロジェクトは、学校や地域と共に子どもたちが「子ども服」を集め、それらを難民キャンプなどに寄贈する活動です。

弊社は「衣」を担う企業として「服のチカラ」を最大限に活かそうと努めています。

また「PEACE FOR ALL」というプロジェクトも進めています。

全世界の著名な方々に無償でTシャツをデザインしていただき、それを販売しています。

利益はすべて、貧困や差別、暴力、紛争等によって被害を受けた人々を支援する国際的な団体へと寄付しています。

「服のチカラ」の可能性

――シェルバさんは「服のチカラ」を実感したことはありますか。

服を届ける際に、行ける範囲で私たちも難民キャンプを訪れています。そこで「服のチカラ」を目のあたりにしています。

服は防寒着にもなり、病気やけがから身を守る。命を守るんですね。

また、服は自己表現の手段でもあります。お気に入りの服を着ることが、現地の人々の喜びにつながる。

加えて、服を通じたコミュニケーションが、難民キャンプにおける「他者とのつながり」を生み、コミュニティを活性化させたりもします。

難民支援を通じて、服の可能性に気づかされます。

――ユニクロは「自立支援」も行っているそうですね。

UNHCRが立ち上げた難民による手工芸品ブランド「MADE51(メイドフィフティーワン)」とコラボレーションし、販売しています。

この取り組みは、難民が故郷で培った技術や才能を生かしたものづくりに取り組んでいただくことで収入を得て、自立した生活を取り戻すための支援です。

UNHCR駐日代表・伊藤礼樹さん
UNHCR駐日代表・伊藤礼樹さん

UNHCRと密に連携を取りながら“難民の現場”に合った支援を続けるユニクロ。

その取り組みは評価も高い。UNHCR駐日代表の伊藤礼樹さんはこう語る。

「難民の方々は確かに困難な状況に置かれています。しかし彼らには、自立し、未来を築き上げようという力強さがあります。

そんな『難民のチカラ』と、ユニクロさんの『服のチカラ』が掛け合わさる。本当に素晴らしいコラボレーションだと思っています」

――ユニクロでは、難民の採用もされていると聞きました。

「難民雇用」を推進し、日本だけでなく欧米の店舗でも採用を行っています。

もちろん、英語や日本語など、母語ではない言語でも難民の方が働けるように、言語教育のサポートも充実させています。

受け入れる店舗にも、難民の方々の背景や文化、彼らへの必要な配慮などを理解してもらう導入研修を実施しています。

ミャンマーから日本に来たネムチン・パウさん
ミャンマーから日本に来たネムチン・パウさん

実際に店舗で働く、ミャンマーから日本に来たネムチン・パウさんは「日本語がまだまだですが、スタッフやマネジャーのサポートもあり、楽しく仕事ができています」と語る。 

――ユニクロが考える今後の難民支援について教えてください。

難民問題は残念ながら深刻さを増しています。ですが、私たちは希望を持ってこの問題の恒常的な解決に関わっていきます。

その中で、難民支援を「気軽に参加できる活動」 にしたい。今回のチャリティTシャツコレクションもその一環です。

また、難民支援と言っても、一社だけでは限界があります。いろいろな企業に「自分たちにもできる」と思っていただけるような、そういった契機になる提案をこれからも続けていきます。

<動画を見る>

UNIQLO Sustainability / THE POWER OF CLOTHING
HOPE AWAY FROM HOME
MADE51
PEACE FOR ALL