日本で約94年ぶりに、新たな「属」、新たな「種」の植物が発見された。

神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授らの研究グループが3月1日、光合成をしない植物「タヌキノショクダイ科」の未知の仲間が鹿児島県の大隅半島で見つかり、新たな「属」の新たな「種」に認められたと発表した。

きっかけは2022年に大隅半島で発見の植物

発見のきっかけは、2022年6月に福岡県在住の植物愛好家・中村康則さんが大隅半島で見つけた植物。分析した結果、この植物は6本のおしべが円筒状に融合することなく独立していることなどから、既存のどの「属」にも含まれない可能性が浮上したという。

そして2023年6月に再調査を行ったところ、追加でこの植物を発見。2022年、2023年に発見された標本に基づき、形を詳しく調べたところ、今回発見された植物は、既存の植物とは隔絶した存在であることが明らかとなった。

さらにゲノムDNAを用いた系統解析を行い、形と遺伝子の情報を総合的に判断。研究グループは、新属「ムジナノショクダイ属」をつくり、この植物を「ムジナノショクダイ」と命名した。

この発見について、研究グループは「日本から発見と同時に新属と認識され、現在もその属名が認められている種子植物(花を咲かせ種子をつける植物)は、最新のものでも1930年にまでさかのぼり、まさに世紀の発見とも言える」としている。

ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)
ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)
この記事の画像(5枚)

この「ムジナノショクダイ」とは、どのような特徴がある植物なのか? また今回の発見は、今後どのようなことに生かされるのか? 神戸大学大学院の末次健司教授に聞いた。

「属」と「種」の違いとは?

――そもそもとして「属」と「種」の違いを教えて。

分類学は、生物を階層的に体系付けて理解しようとする学問であり、細分化だけではなく、類似するものをまとめる類型化の作業も重要視されます。「属」は、「種」の一つ上の階級で、生物の学名(世界共通の名前)は「属名」と「種小名」の2語で構成されます。

このため、「属」も「種」と同様に、私たちにとって、なじみ深い分類階級と言えますが、属のほうがより上の階級です。つまり、近縁な複数の「種」をまとめたものが、1つの属となるケースが多いです。

今回は、あまりにも隔絶した存在であることがわかったので、1種しか見つかっていないのですが、それだけで「属」を設立することしました。

ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)
ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)

――日本で新属新種の植物が発見されるのが珍しい理由は?

日本は、植物相(どこにどんな植物がいるのか)の調査が世界でも最も進んでいる国の一つです。

このため、近年、日本から発表される新しい植物は、新種ですら、「すでに地元の人はその植物の存在を認識していたものの、正式に記載されて発表されていないもの」、あるいは「すでに知られている種について遺伝子解析などを用いて詳細に検討した結果、複数の種に分ける必要が生じ、新たに記載されて発表された新種」の場合がほとんどです。

つまり、現在において、日本で誰にも全く知られていなかった新種の植物が見つかることは非常に稀であり、新属ともなると、なおのことです。

事実、日本から発見と同時に新属と認識され、かつ現在もその属名が認められている種子植物(花を咲かせ種子をつける植物)は、最新のものでも1930年に中井猛之進氏によって記載されたサクライソウ科のオゼソウ属オゼソウにまで、さかのぼります。

今回の新属新種「ムジナノショクダイ」は日本の植物史上、およそ1世紀ぶりの歴史的快挙と言えるでしょう。

光合成をせずに土中の菌類から栄養を奪って生活する植物

――「ムジナノショクダイ」の特徴は?

大きさは、高さ3センチほど、花の幅が1.5センチほどです。陸の生き物とも海の生き物ともつかない、不思議な形をしていると思います。拡大すると、イソギンチャクの仲間のように思えるのではないでしょうか。

光合成をせずに土の中の菌類から栄養を奪って生活する植物で、菌類と見紛うばかりの奇妙な花をつけることが特徴です。キノコの一種のように見えますが、れっきとした植物で、長芋などの「ヤマノイモ」の仲間に近縁なことが知られています。

普段は落ち葉のすぐ下の地中に隠れており、開花するわずかな期間のみ、地表面にガラス細工のような花を咲かせます。

ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)
ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)

――「ムジナノショクダイ」と命名した理由は?

すでに近縁種の「タヌキノショクダイ」が「狸が燭台(=ロウソク立て)として利用した」と見立てられて名づけられていました。「ムジナノショクダイ」は、一見すると、「タヌキノショクダイ属」の種に見えるものの、詳しく検討してみると似て非なるものであることから名付けられたものです。

また、ムジナノショクダイは、開花時期ですら、植物体のほとんどは落ち葉の下の地中に埋まっており、地中をすみかとするムジナ(=アナグマ)の名はぴったりと思い、名付けました。


――今回の発見は、今後どのようなことに生かされる可能性がある?

「ムジナノショクダイ」は光合成を行わない菌従属栄養植物であるため、植物と菌類の共生関係や進化の過程に関する理解を深める上で貴重な研究材料となります。

特にこの仲間は、光合成をやめたという特性や、「妖精のランプ」とも評される不思議な形から、世界で最も不思議な植物とも評されています。これも、進化の道のりを明らかにするうえで非常に重要な発見と言えます。

また、 「ムジナノショクダイ」のようなユニークな生物の発見は、自然に対する関心を高め、生物多様性の重要性についての教育や啓発活動に利用することができます。

特に学校教育や公共の展示では、生物の不思議さや科学的探求の魅力を伝えるための素晴らしい材料となるでしょう。

ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)
ムジナノショクダイ(提供:神戸大学大学院 末次健司教授)

日本で約94年ぶりに発見された、新属新種の植物「ムジナノショクダイ」。光合成をせずに土の中の菌類から栄養を奪って生活する植物で、開花するわずかな期間のみ、地表面にガラス細工のような花を咲かせることが分かっている。

この世紀の発見をきっかけに、「ムジナノショクダイ」以外の植物の生態にも目を向けてみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。