宝石のごとく鮮やかな色の花が咲くことから、「ビジュー」(フランス語の「宝石」)とキク科の総称「マム」から名付けられた新しい花がある。マーガレットとローダンセマムの交配で生まれた「ビジューマム」は、両者のいいとこどりの花だ。世界で初めての花を生んだ研究者と生産者の思いを追う。

10年かけて誕生 世界で初めての花

ビジューマム
ビジューマム
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淡いピンクや赤紫など鮮やかに咲き誇るのは、静岡生まれの新しい花「ビジューマム」。フランス語で「宝石」を意味する「ビジュー」と、キク科の愛称「マム」から名付けられた。
鉢物(はちもの)の花として人気の「マーガレット」と「ローダンセマム」を交配させた、世界で初めての花だ。

県農林技術研究所・伊豆農業研究センター
県農林技術研究所・伊豆農業研究センター

「ビジューマム」が生まれたのは静岡県東伊豆町にある県農林技術研究所の伊豆農業研究センター。マーガレットやカーネーションの他、かんきつ類などについて品種改良や栽培方法などを研究している。
伊豆農業研究センターの勝岡弘幸さんは「マーガレットの寒さに弱い性質を克服するため、耐寒性の強いローダンセマムを使って交配をはじめた」と誕生の経緯を教えてくれた。

交配作業
交配作業

最初の交配が行われたのは10年前。これほど時間がかかった理由は、種類の違う花を掛け合わせて種をつくる難しさがあったからだそうだ。

伊豆農業研究センター・勝岡弘幸さん:
マーガレットとローダンセマムの交配の場合、植物の種類が違うので交配しても種ができない。種ができる前に死んじゃうので、死んじゃう前に種になる元の部分を取り出して人工的に培養して生存可能な植物を作る

勝岡弘幸さん
勝岡弘幸さん

ビジューマムは「胚珠培養」という技術によって生み出された。ローダンセマムの花粉をつけて交配させたマーガレットから、種のもととなる部分「胚珠」を取り出す。
胚珠は直径わずか1mmほどの「子房」と呼ばれるものに包まれており、顕微鏡をのぞきながらメスとピンセットを使って取り出していく。

伊豆農業研究センター・勝岡弘幸さん:
切ってみても中身が空っぽだったり、「しいな」と呼ばれる発達しないで死んでしまったものがかなりの割合で入っていますけど、ごくまれに充実した胚珠が入ってます。それを取り出して培養することで雑種を取り出すことができます

試験管の中で胚珠を培養
試験管の中で胚珠を培養

マーガレットの場合、ひとつの花に200から300の子房があるが、その中で充実した胚珠はひとつあるかどうかだという。何度も交配をして、ようやく取り出した胚珠を試験管の中で培養することでビジューマムは生まれた。

似ているけれど違う難しさ

生産者の遠藤美行さん
生産者の遠藤美行さん

伊豆の国市で「ビジューマム」を栽培している遠藤美行さんは、試験段階から協力してきた。
世界で初めての花。どのように栽培するかも試行錯誤を繰り返した。
遠藤さんは「品種が新しいから手探り状態だった。マーガレットと似ているけど違うから、その辺が難しいところで」と当時を振り返る。

ビジューマム
ビジューマム

マーガレットと同じように育てたところ、出荷できる時期が3月から5月頃までと短いことが分かった。
そこで遠藤さんをはじめ県東部の11人の生産者たちが情報を共有しながら、効率的な栽培方法を模索し、2023年ようやく本格的な出荷にこぎつけた。

遠藤美行さん
遠藤美行さん

生産者・遠藤美行さん:
山で親木を冷やして(花芽を促して)から挿し木をして、秋口に下(平地)にもってきて、今度は電気をつけるという促成栽培ですね。それによってうちの場合だと1月の頭から出荷ができるようになる

”静岡のビジューマム”を全国へ

水の与え方や光をあてる時間を変えるなど様々な栽培方法を試し更に効率を上げるための工夫をつづける中で、この新しい花に特別な思いを抱くようになったという。
遠藤さんは「実験的な栽培を何年もやりながら積み重ねてるからやっぱり愛着もありますし、全国的に“静岡のビジューマム”という名前を売り込んでいきたい。そのためにはいいもの作らないとね」と話す。

ビジューマム
ビジューマム

研究者の技術と生産者の努力によって静岡から生まれた世界初の花が、大きな一歩を踏み出し始めた。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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