静岡市清水区の工場で発がん性が指摘される化学物質PFOAを使用していた問題で、元従業員の血液から日本の全国調査平均値の20倍以上の濃度のPFOAが検出された。アメリカの学術機関が「健康にリスクがある」とする指標値も大幅に上回り、元従業員は不安を募らせる。

全国平均値の20倍超の高濃度

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PFOAは有機フッ素化合物PFASの一種で、水や油をはじき熱に強いためフライパンのコーティング加工や食品パッケージなどに使われた。現在 日本では製造や輸入が禁止されている。
WHO(世界保健機関)のがん研究機関は、2023年12月PFOAを「発がん性がある」とした。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場
三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

静岡市清水区三保の化学工場「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は、そのPFOAを1965年から2013年まで48年間扱ってきており、2024年2月 元従業員などを対象に血液検査を実施した。
PFOAに関しては環境省が血中濃度の全国調査をしていて、2022年の調査の全国の平均値は2.0ng/mlだった(対象89人、血漿中濃度)。1ngは0.000001mgだ。

PFOA(資料)
PFOA(資料)

約30年間にわたりをPFOAを扱っていた元従業員の男性は血漿中の濃度が約48ng/mlで、全国平均値の20倍以上だった。
PFOAの毒性に関する研究が進んでいるアメリカの学術機関が「健康リスクがある」とする指標値20ng/mlと比べても約2.5倍だ。

退職後40年経っても高濃度

鈴木さんの検査結果
鈴木さんの検査結果

元従業員の鈴木さん(77)の血液の血漿からも29.7ng/mlのPFOAが検出された。日本の全国平均値の約15倍で、アメリカの学術機関が「健康リスクがある」とする指標値も上回る。
鈴木さんは高校卒業後に入社してから13年間PFOAを扱う作業をしていた。フライパンのテフロン加工で知られる「テフロン」と呼ばれるフッ素樹脂を製造する仕事をしていて、PFOAはその材料だった。上司から危険性についての話はなく、手袋や防塵マスクをせず、素手で粉状のPFOAを扱っていたという。

13年間PFOAを扱った鈴木さん
13年間PFOAを扱った鈴木さん

鈴木さんは30歳代に退職してから40年余りたった調査で高濃度が検出されたことについて、「一時期 長年使っていて、(その仕事を)離れていたとしてもまだ体に残っているということは、一つの資料として大事だと思う」と話す。PFOAは分解されにくく体内や自然界で残り続けることから、「永遠の化学物質」とも言われている。

「会社はちゃんとみてもらいたい」

鈴木さんは2021年に舌がんとわかったが、PFOAとの因果関係がわからず不安は残ったままだという。

鈴木さんは舌がんを発症
鈴木さんは舌がんを発症

鈴木さん:
因果関係がないのが苦しいですけど、ただ検査して数値が出てきて自分の数値が高いのか低いのか、危ないのか危なくないのかわからないまま終わってしまうのでは何の意味もない。(がんが)PFOAの関係で起きているのか、個人の生活の乱れできているのか、体質的な問題なのかもわからないので、それは会社として、自己責任だと言わないでちゃんと見てもらいたい

鈴木さんによるとPFOAを扱わない職場にいた元同僚の血中濃度は10ng/ml未満だったそうで、「PFOAを扱う、扱わないで血中濃度に違いがあるのか知りたい」と話す。
鈴木さんは三井・ケマーズフロロプロダクツに対し毎年検査を実施することや、元従業員のそれぞれの血液検査の結果と業務内容との関連を分析して公表するなど、誠意ある対応を求めたいとしている。

デュポングループの工場で

PFOA(提供:京都大 原田浩二准教授)
PFOA(提供:京都大 原田浩二准教授)

PFOAは1990年代末にアメリカの化学メーカー「デュポン社」の工場の周辺で、住民や家畜などに健康被害が出たことから注目され始めた。
住民がデュポンを相手取った裁判の中で、工場周辺の住民7万人を対象にした疫学調査が行われ、大学教授などで組織する科学委員会が6つの病気について、PFOAとの関連を認めた。
腎臓がん・精巣がん・妊娠高血圧症候群・甲状腺疾患・血液中のコレステロール上昇・潰瘍性大腸炎の6つだ。
裁判では、こうした病気にかかった3500人余りが健康被害を認定され、デュポンは2017年 6億7070万ドルの賠償金を支払うことで和解した。

デュポンを相手取った集団訴訟の住民側の弁護士、ロバート・ビロット氏が裁判の経緯を記録した著書「毒の水~PFAS汚染に立ち向かったある弁護士の20年」(訳 旦祐介氏・花伝社)のなかに、17年間PFOAに汚染された水を飲んだ後、腎臓がんと診断された59歳の女性(2015年の裁判当時)が原告となった裁判の記載がある。
160万ドルの賠償が認められた彼女の、PFOA血中濃度は19.5ppb(19.5ng/ml)だった。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場
三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

鈴木さんが清水工場で働いていた「三井・ケマーズフロロプロダクツ」は、以前の社名を三井・デュポンフロロケミカルといい、2018年に現在の社名に変更した。2024年現在50%を出資するケマーズは、デュポンがテフロン部門を切り離して作った会社だ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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