「党で全く議論をしていない。このままでは自民党は必要ない」
自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長は今月、激しい言葉で政権批判を展開し世間を驚かせた。
批判の矛先は、安倍首相がぶち上げた2兆円規模の政策パッケージの財源を巡る、意思決定のプロセスだ。
安倍首相は先月、衆議院選挙大勝の余韻が冷めやらぬ中、「人生100年時代構想会議」を開き、産業界に対して教育無償化を柱とした政策パッケージの一部財源負担を求めた。
パッケージ総額2兆円のうち、1兆7000億円は2019年10月の消費増税による増収分を充てるが、残り3000億円の負担を産業界に求め、会議に出席していた経団連の榊原会長がこれを容認したのだ。
これに対して、子育て世代の負担軽減のため「子ども保険」の創設を訴えてきた小泉氏は、「まったく党で議論していない」と安倍政権を批判。さらに矛先を経団連にも向け、「経済界は政治の下請けか。それだけ政治に左右されるなら、イノベーションは生まれない」とこき下ろしたのだ。
ある財界の幹部は小泉氏の批判に困惑
では、小泉氏の言う通り、財源負担の議論は、これまで党内で行われてこなかったのか?
ある財界の幹部は、「選挙戦で総理は、消費税の使途変更を公約として訴えていました。つまり政府与党としてのお願いだったわけです。財源調達については、消費増税分では足りないんじゃないかという報道もその際あったし、与党の議員は十分わかったうえで選挙戦に臨んでいたんじゃないですか」と、小泉氏の批判に困惑の色を見せる。

安倍首相が経済界に求めた負担とは、保育の受け皿整備のために、企業の事業主拠出金を増額するというものだ。
経済界はこれまでも、政府の「待機児童解消加速化プラン」に基づいて、企業主導型の保育所整備のために、厚生年金料とともに負担している事業主拠出金を増額してきた。
(このプランが開始された3年前、事業主拠出金は0.15%だったが、現在は0.08%上乗せされて0.23%)
これによって経済界は、「年間5万人の待機児童解消につながる1000億円程度の保育所整備財源を負担してきた」(財界幹部)のだ。
これは従業員1人当たりに換算すると、年間約千円となると言われている。
この「加速化プラン」は今年度末で終了するが、来年度以降は「子育て安心プラン」がスタートする。
新たなプランでは、1年間で10万人の待機児童の受け皿整備が求められているが、経済界はさらなる財源負担についてもすでに了承済みだ。
経済界の負担は、「1000億円程度の拠出金の上乗せになる見通し」(財界幹部)だが、首相から求められた額は3000億円。
残り2000億円については、保育所の運営費にあてることを柱に、今後経団連と日商で詰めの議論を行うという。
つまりこれまでの経緯を見る限り、この財源負担を巡っては、政府と経済界はすでに決まったレールの上を走っているだけで、小泉氏の批判は的を射ているとは思えない。
若手議員のガス抜きを狙う?

では、なぜ小泉氏は、政権や経済界批判を行ったのか。
1つ言われているのは、一部の国民の中に残っている反安倍感情のガス抜きを狙って、批判を展開したという見方だ。
しかし、もしそんな茶番であれば国民に早々に見抜かれ、今回の選挙でうなぎ上りの人気を獲得した小泉氏のイメージダウンにつながることは、本人がよくわかっているだろう。
むしろガス抜きを狙ったのであれば、相手は党内で『子ども保険』を議論してきた若手議員たちではないか。
小泉氏は、若手議員を中心に『子ども保険』を議論し、提言を作り上げてきた。
しかし、結果として党も政府も提言をスルーしたかたちとなっており、若手議員のリーダー格である小泉氏としては、これを黙って見過ごすわけにはいかなかったのだろう。
政府に対しても主張すべきところは主張する姿勢を示すことで、若手議員からさらなる信任を得ることになり、党内基盤の強化にもつながる。
正面突破で相手の痛いところを突いてくる小泉流のやりかたが(経済界は巻き込まれた感もあるが)、今回もさく裂したというわけだ。