突然トンデモないことを

岸田文雄首相が突然、「オレも政倫審に出る」と言い出し、公開を嫌がっていたとされる安倍派の幹部だけでなく、野党側をも驚かせた。

最近の岸田氏は、宏池会解散の時もそうだったが、根回しもせずに突然トンデモないことを言い出して敵も味方も驚かせる。そうやって事態打開を図っているらしい。

政倫審出席の日の朝 2月29日
政倫審出席の日の朝 2月29日
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派閥解散の際は安倍派、二階派だけでなく森山派も同調し、茂木派も分裂状態になった。今回も衆院の予算通過の日程がギリギリの状態で、開催が難航していた政倫審が一転公開で開催され、いずれも事態打開につながったようにも見える。

岸田氏が何か言うたびに敵も味方も大騒ぎするのだが、正直言って筆者はどちらも驚かなかった。派閥の解散は30年前に一度やったことだし、この政倫審というのも刑事的責任でなく、政治的、倫理的責任を問う、というよく趣旨のわからない会合だ。新しい事実が明らかになるはずもない。

派閥解消への決意が盛り込まれた政治改革大綱を受け取る竹下首相(当時)1989年5月
派閥解消への決意が盛り込まれた政治改革大綱を受け取る竹下首相(当時)1989年5月

岸田氏は、今国会での政治資金規正法改正に「意欲」を示し、安倍派幹部の処分についてもこれまでより前向きの答弁をしたが、はっきり言って政倫審の2日間の質疑でこれまで表に出ている以上の話はほとんど出なかった。

立憲民主党の野田佳彦元首相が、26日の予算委の集中審議で迫力ある追及をしていたので期待したのだが、岸田氏から「首相在任中はパーティーはしない」という答弁を引き出しただけで、野田氏本人も終了後「答弁は予算委とほぼ同じ」と不満そうだった。

岸田VS野田の「首相対決」 2月29日
岸田VS野田の「首相対決」 2月29日

昨年末から続く、この政治資金規正法違反「騒ぎ」は、最近は政倫審に誰が出るか、公開か非公開かという問題に矮小化されてしまったようにも見える。

いまだに「ぶれない」小沢さん

ところで今回の政倫審開催について、立憲の小沢一郎氏が、「立法府が捜査に影響を与えることになる。政倫審は捜査が入らない疑惑のときに開くものだ」と述べたのは面白かった。

小沢氏は15年ほど前に、政治資金規正法違反で秘書3人が逮捕されて有罪判決を受け、小沢氏本人も検察審査会で強制起訴されたのだが、裁判では無罪となった。その時に、捜査が行われ司法手続に入ることを理由に、政倫審出席を断った。

東京地裁に入る小沢氏 このあと無罪判決を受けた 2012年
東京地裁に入る小沢氏 このあと無罪判決を受けた 2012年

小沢氏はロッキード事件を経て、1985年に政倫審が設置されたときに、衆院議院運営委員長を務めており、設置に深くかかわった人だ。

小沢氏の論理だと、今回の政治資金規正法違反は捜査が入っているわけだから、政倫審の開催は不適当という事になるのだが、これには多くの国民の支持は得られないかもしれない。それでも小沢さんという人が、いまだに「ぶれない」のはすごいと思う。

政倫審と大谷結婚はどっちがトップか

そもそも政倫審というのは、何のためにやっているのか。野党やメディアは、しきりに「政倫審を開いて真実を明らかにしよう」と言っている。

だが該当の議員は、東京地検の任意聴取を受けており、これまで議員3人を含む10人が起訴、略式起訴されて捜査は終結した。これから裁判が行われるので、地検が把握している以上の情報が出るはずもない。

岸田首相も政倫審で謝罪した 2月29日
岸田首相も政倫審で謝罪した 2月29日

では新しい話が出ないのなら、岸田首相はじめ自民党の議員はもっと国民に「謝れ」、あるいは「謝り方が足りん」ということなのだろうか。実際、岸田氏をはじめ出席した議員は「平身低頭」だった。

ただ国民は政治家に何度も謝ってほしいと思っているわけではなく、政治資金の「透明性と「厳罰化」がどこまで進むのかを知りたいのではないか。しかしこの2つについて野党間でも必ずしも考えが一致しておらず、どうなるのか全く見えない。

一つ言えることは、岸田氏が出てきたことによって、政倫審の緊張感が一気になくなった。野党は明らかに調子が狂っていた。それが岸田氏の狙いだったのならすごい。さらに予算審議も衆院採決に向けて動き出した。これは「事態打開」ということなのだろうか。

トップニュースは大谷翔平選手の結婚に…
トップニュースは大谷翔平選手の結婚に…

「つまらんなあ」とぼやきながらテレビで政倫審を見ていたら、午後5時の終了直前に「ドジャース大谷結婚」というすごいニュース速報が画面に入り、筆者は慌ててスマホのX(旧Twitter)のアプリを開いて、大谷選手の相手が誰か探し始めた(翌日時点でまだわかっていない)。

その夜のNHKの9時のニュースのトップは大谷選手で、政倫審は2番目だった。つまり政倫審のニュースバリューすなわち国民の関心は、その程度のものだったのかもしれない。
【執筆:フジテレビ報道局上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。