超小型EVづくりに挑んでいる素人の集まりが、2025年の量産化に向け、着々と歩みを進めている。“短距離に特化した超小型モビリティ”というコンセプトに賛同するプロや企業の応援も加わり、量産化を前提とした試作車が広島で完成した。

少子高齢化で手軽な足“ちょい乗り” ニーズ高まる

東広島市のスタートアップ企業、KGモーターズは、一人乗りの電気自動車を量産化に向け開発中だ。作業場では、ハンドルがついた車体の骨組みの点検が行われていた。

KGモータースの作業場(東広島市)
KGモータースの作業場(東広島市)
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2022年に会社を立ち上げ、2025年中の量産化を目指すのは楠社長。

KGモーターズ 楠一成社長:
毎日色んな問題にチャレンジしているところなので、ここまで来たというよりは、まだまだ道の途中という感じ。市場にお届けできるように頑張っていきたい

近年、少子高齢化で超小型モビリティが注目されている。国の調査では、自家用乗用車の平日1回あたりの移動距離は平均で10.8キロ。乗車人数の平均も1.3人で、「ちょい乗り」「1人から2人乗り」の車のニーズが高まっている。

試作車は全て手作り コンセプトに賛同する仲間増

KGモーターズ社長の楠一成さんは、以前は自動車部品の販売会社を経営し、整備士の資格は持っているが、車をつくる専門知識は一切なかったという。

人口減少の地方で環境にやさしい超小型電動モビリティの必要性を感じ、2022年のプロジェクト発足からYouTubeで開発の様子をありのままに配信。そうすると、コンセプトに賛同する“仲間”が次第に増えていく。SNSでつながったKGモーターズ メンバーら50人が活動に加わり、動画を見た広島県内外の企業と専門家から技術協力の提案が来るようになった。

KGモーターズの役員には、車に全く興味がないという人もいる。

KGモーターズ 横山文洋取締役:
今まで車に携わっていないどころか、そもそも車にあまり興味がない。今もなお、実は本音を言うとあまり興味がない。そういう立場なんですよ、僕は

(Q:どうして楠さんと一緒に?)
「くっすん」って僕らは呼んでるんですけど、まず第一にあるのは、くっすん自体のやることに魅力を感じたということ

楠社長(左)と横山文洋取締役(右)
楠社長(左)と横山文洋取締役(右)

2023年に第1号のコンセプトカー

そんな仲間たちと2023年には、手作りで試作品の「コンセプトカー」を完成させた。閉店後の商業施設の通路で試運転が行われた。

KGモーターズ 楠一成社長:
小回りがきくなという感じがしますね

そのコンパクトさと手軽さを知ってもらおうと、展示会やモーターショーにも「コンセプトカー」を出展。

「だいたい、おいくら万円くらいになるんですか?」
KGモーターズ 松井康真さん「税込100万円で販売できるように…」
「欲しい!」

一般の人たちの反応は思いのほかいい感じ。

KGモーターズ 楠一成社長:
私は呉市出身で、おばちゃんが細い道を車のミラーをたたんで、タイヤを半分落としながら走っているのを見て、明らかに車が大きすぎると、ずっと考えていて、いつしか一人乗りの乗り物があったらいいなと考えるようになった

最高時速は60キロ、家庭用100V電源から1度の充電で100キロを走ることができる「ちょい乗り用」の電気自動車。試作のコンセプトカーは走りも軽快だ。

KGモータースYouTubeから
KGモータースYouTubeから

職人の手仕事から量産化に向けた工程に 新たにプロも参加

販売価格は1台100万円に目指しているが、試作の「コンセプトカー」のつくりでは量産化は不可能だった。

KGモーターズ 楠一成社長:
コンセプトカーは一言で言うと、職人さんが手作りでつくった。次の試作車は職人さんも関わっているが、ほとんどの工程を職人さんの手を介さずにつくっているのが大きな違いです

車体に取り付ける部品の数は小さなネジも含め全部で500点。量産化のため手作りだった部品の多くを型にはめてつくり、市販の材料も活用する。

素人同然だったメンバーが奮闘する様子を動画やニュースで知り、心強い「プロフェッショナル」も加わった。

2023年秋からKGモーターズに参加 定年まで車部品の設計開発者だった氏本卓志さん:
ここに来てこういう仕事ができるのは、達成感があるというか、毎日が面白いんですよ

KGモーターズ 楠一成社長:
やはりYouTubeで発信し続けて、自分たちのミッション、ビジョンに共感した人が集まってくれているところが一番大きいかなと思います

作業現場では、設計通りのはずでも、想定外の事態が起こることがしばしばだという。車体にパネルをはめ込む作業では…

KGモーターズ 松井康真さん:
ばちばち当たっとるわ、これ。もっと削らにゃ。ストライカーのところ。チェッカーが当たりよる

その場でできる限り修正を施していく。車づくりに注力する一方で、出資してくれた株主への現状報告も行う。協力してくれる企業の数はこの1年で約20社増えた。

KGモーターズ 楠一成社長(株主へのリモート説明):
量産化に向けた生産をどうやっていくか、どう安定化させていくか、品質をどう保証していくか、それに伴ってどう資金を調達していくかといった、ちょっと今までと違ったフェーズのことをしていかないといけない

量産化前提の試作車が遂に完成

作業開始から1カ月、ついに量産化を見据えた試作車が完成した。

KGモーターズ 楠一成社長:
大企業の自動車メーカーに比べると圧倒的に人が少ない、お金もないので、その中でよくみんなで協力してやりきったなと安堵(あんど)しています。絶対壊れちゃいけないところは、安全に守るような構造にすることが、すごく大事だと思って、そこを一番意識してつくりました

車体自体は以前の「コンセプトカー」と大きく変わりがないように見えるが、安全性に加え、より公道での走りを意識したつくりになった。

右が新たな試作車
右が新たな試作車

五十川裕明記者:
完成した車体ですが、色も落ち着いて大人っぽい雰囲気になりました。まずディスプレイがかっこいいですね。中に入りますと以前の車よりも、フロント部分のフレームが薄くなり、より視界がひらけた感じがします

早速、完成した当日に関係者向けのお披露目が行われた。

東京から:
東京も住宅街は道が狭いですし、駐車場も広くないので、こういう小さい車があるといいなと感じる場面は多いですね

名古屋から:
郊外や交通難民の人々、こういったニーズをいかに捉えるかがカギとなる

2025年に300台量産化を目指す

車づくりの知識がなくでも、周囲の人たちを巻き込んで量産化のスタートラインに立ったKGモーターズ。2024年中に安全性能を確かめ、2025年、300台の量産化を目指す。

KGモーターズ 楠一成社長:
もっともっと人口が減少して過疎が進んでいくと、本当に交通インフラが厳しくなってくると思うんですね。そのときに、こういうコストが安くて、エネルギーを使わない乗り物が非常に重要になってくると思うので、必ず実現しようと思います

KGモーターズ 楠一成社長
KGモーターズ 楠一成社長

家庭用100V電源で充電できる超小型電動モビリティは、高齢者など交通弱者の移動手段として、今後注目度が高まることが予想される。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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