能登半島地震では住宅の倒壊が相次ぎ、死因の多くが倒壊した家屋の下敷きになったこととみられている。住宅被害を拡大させた要因の一つとみられるのが「木造住宅の耐震化不足」だ。
耐震化率全国平均 大きく下回る
今回特に被害が大きかった半島の先端に位置する石川・珠洲市は、住宅の耐震化率が全国平均の87%を大きく下回る51%で、改めて住宅耐震化の重要性が注目されている。こうした状況を目の当たりにし、愛媛県内でも今、住宅の耐震化への関心が高まっている。
この記事の画像(16枚)愛媛県建築住宅課・川井俊明課長:
愛媛県の住宅の耐震化率は、約81.3%となっており、全国平均の約87%を下回っている状況です。市や町に対して県の方は耐震診断とか、耐震改修工事の補助を行っています。特に耐震改修工事は県・市町・国費あわせて(最大)100万円の補助を用意しています。
愛媛県内も全ての市や町で耐震化率は全国平均を下回っている。各市町は1981年以前の古い耐震基準で建てられた建物への耐震診断や耐震補強工事への補助を行い、耐震化率のアップを目指している。
能登半島地震をきっかけにこれら窓口への相談や申請が増えるなど、住民側にも再び関心が高まっている。
一級建築士に聞く耐震補強のポイント
愛媛・松前町の叶田さんの住宅は築52年。2023年に町が支援を行う無料の耐震診断を受け、年明けから耐震補強工事が始まった。
叶田美由喜さん:
母親が在宅でおりまして足が悪いので、なんかの時につぶれてもいかんと思って。30年くらい前の芸予地震の時にひびが入ったり屋根の瓦がズレたりしたのがあるのと、目に見える感じに基礎が崩れてきてた。タイミング的にこれから工事をお願いしようかという時に能登で地震があって、つぶれた家を見て思い切ってよかったなと。
耐震診断を担当した松前町の一級建築士・相原昌彦さんに、今回の耐震補強工事のポイントを聞いた。
ふたば設計・相原昌彦一級建築士:
まず、補強工事の一番大きな点として、既存の基礎の横に添わせるような形で「鉄筋コンクリート造りの新しい基礎」を追加しました。元々は鉄筋コンクリートの入っていない基礎だったんですけど、今度は鉄筋コンクリートの基礎にして、十分に地震力を受けた壁の力を地盤に伝えることができた。
家の歪みを補強するため、まず基礎の強化に取りかかった。しかし工事が進む中、思わぬ事態が発覚した。床下の基礎にも大きなひび割れが見つかったのだ。
ふたば設計・相原昌彦一級建築士:
ひび割れの幅としては1cm近くのひび割れで、基礎の半分くらいが割れてて崩れかかってた状態でした。これぐるっと(柱を)取り囲むような形で補強してます。
想像以上に建物の劣化が進んでいたようだ。
加重を柱1本で…縁側に潜む倒壊リスク
続いて案内してくれたのは昔ながらの日本家屋に多い縁側。ここにも倒壊につながるリスクが潜んでいるという。
ふたば設計・相原昌彦一級建築士:
こちらは広い縁側になってまして、ここから反対側のサッシ(窓枠)のところまで三間半(約6m30cm)のところの加重を柱1本で受けてる状態でした。日本は南側からの太陽の光を取り込むために東西に向かって開いた長い形が、日本家屋はほとんどそう。明らかに南側に窓がたくさん多くて壁が少ない状態。
そこで相原さんは、窓を減らし補強壁を取りつける工法を提案。
ふたば設計・相原昌彦一級建築士:
ここからここまであったサッシを、まず半間の(耐震)壁を追加するような形にしてサッシを縮めて新しいサッシを入れます。当然、元々ここに柱はなかったが新たに柱を追加します。
倒壊リスクにつながる外壁のひび割れ
最後は住宅の外壁部分だ。意外と知られていない改修ポイントがあるという。
ふたば設計・相原昌彦一級建築士:
今回、外壁のひび割れを補修するのも耐震改修の補助対象に含まれます。この辺は意外に皆さんお気づきになってない点。実はこのひび割れから雨水が染み込んでやがて土台や柱を腐らせる。結局、建物の強度が損なわれる。こういった部分も耐震補強工事の補助対象になります。
今回の工事によって、この住宅の耐震性はどのくらいアップするのだろうか。
ふたば設計相原昌彦一級建築士:
(耐震補強で)ほぼ2倍近く強度が増すことになります。このままでは地震が起こって建物が倒壊することによって中で生活してる人の命を奪う状態でした。ところがそれを全然傷がいかない状態ではないが、倒れずに何とか踏ん張ってる間に避難できる状態にもっていくことができた。
高齢化が耐震化率上昇のブレーキに
命を守るために欠かせない住宅の耐震化。その大きな壁になっているとみられるのが、「住民の高齢化」だ。県内の耐震化の状況をみても高齢化が進んでいる地域ほど耐震化の遅れが目立つ。
耐震化率が36.6%と県内で最も低い松野町の高齢化率は約47%で、人口の半分を65歳以上の高齢者が占めている。
住民の高齢者からは「耐震化は全然考えてないです。もう年ですし。家は築60~70年ですけど、危ないけど耐震にしたらお金が相当いりますよ」「ほとんど昔の家ですけん、壁がないんですよ。一番危ない」などと諦めに近い声も聞かれた。
危険性はわかっているのに、高齢であることや費用のことを考え、工事に二の足を踏む人が少なくないようだ。
松野町 建設環境課・信崎恵一係長:
町内は高齢者が多いもので、なかなか改修まで手が付けられない。そこまでの踏ん切りがつかないというのが今の現状。
高齢化が耐震化率アップに歯止めをかけている状態に、県も頭を悩ませている。
愛媛県建築住宅課・川井俊明課長:
やはり高齢化が耐震化にブレーキをかけていると言われている。出前講座や各戸訪問とかの形で、決めるための情報を提供している。新しい来年度予算の中で「補助の対象戸数の拡充」や「改修設計に対する支援」も新しく盛り込んでいる。ぜひそれで進めていきたいと思う。
将来、必ず発生する南海トラフ地震に備えるためにも、耐震化の促進は待ったなしの状況だ。
(テレビ愛媛)