64歳の誕生日を迎えられた天皇陛下。

還暦と結婚30年、大学卒業と就職。およそ1時間にわたる記者会見から垣間見えたのは、人生の大きな節目を迎えられた皇后さまや愛子さまを思いやる陛下の「家族愛」だった。

「家族で集まっていた多くの家庭を…」被災者の悲しみに寄り添われ

21日の午後5時過ぎ。皇居の宮殿・石橋の間でにこやかに着席し、原稿を手元に広げると、まずこう述べられた。

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「年明けから間もない今年の元日の夕方に発生した能登半島地震は、お正月に家族で集まっていた多くの家庭を襲い、大勢の方が亡くなり、またけがをされたり、住まいを無くされたりしました」

家族の団らんを一瞬で押し潰した地震。家庭のぬくもりを大切にされる陛下が、被災した人たちの深い悲しみに心から寄り添おうとされていることが、冒頭のおことばや表情からから伝わってきた。

長引く避難生活や、高齢者の体調、孤立集落を案じ、被災地を支える関係者やボランティアへの感謝の思いを示された。

また、3月下旬の実現に向けて調整が進められている現地への訪問については、「現地の復旧の状況を見つつ、被災者の皆さんのお気持ちや、被災自治体を始めとする関係者の考えを伺いながら、訪問出来るようになりましたら、雅子と共に被災地へのお見舞いができれば」と述べられた。

被災した人たちの気持ちに寄り添い、受け入れ可能な時期を慎重に探られる陛下の配慮が感じられた。

「この先の人生も引き続きよろしく」結婚30年の皇后さまへの感謝

2023年6月に結婚30年、そして12月には60歳・還暦の節目を迎えられた皇后さま。

21年ぶりの国際親善の旅が実現し、インドネシアを公式訪問するなど、活動の幅を広げられた。

インドネシアではジョコ大統領の運転するカートに
インドネシアではジョコ大統領の運転するカートに

陛下は「本当によくやってくれている」「助けられることも多いです」と労い、「これまでの感謝の気持ちを伝えたいと思うとともに、この先の人生も引き続きよろしく、と伝えたい」と穏やかな笑顔で感謝の気持ちを明かされた。

「お友達と一緒に運動を」愛子さまのキャンパスライフ

大学4年生となり、ようやくキャンパスライフが始まった長女の愛子さまについては、意外な姿を明かされた。

「キャンパス内で先生方やお友達と直にお話ししたり、一緒に運動ができたりしたことなどが、かけがえのない経験として印象に残っているようです」

学習院大学にて 2023年4月
学習院大学にて 2023年4月

運動というのは愛子さまのお好きなバレーボール。この1年は大学で友人と、帰宅後には職員と皇居で、度々バレーボールを楽しまれていたという。

充実した大学生活の様子を紹介される陛下は、とても嬉しそうだった。

愛子さまの「福祉」「社会人」選択の背景

卒業後の進路に大きな注目が集まる中、愛子さまは日本赤十字社の嘱託職員として就職が内定したことが発表された。

留学や大学院ではなく、福祉に関心を寄せる愛子さまが選ばれた「社会人」という選択。

日赤本社を訪問し関東大震災100年の企画展に足を運ばれた 2023年10月
日赤本社を訪問し関東大震災100年の企画展に足を運ばれた 2023年10月

陛下は決まるまでの経緯について、2023年に両陛下と共に日赤の活動に関する報告を受けたり、関東大震災に関する展示を見るために日赤本社に行ったことなどを通じて、「少しでも社会に貢献したいという気持ちを強く持つようになった」と明かされた。

「これからも愛子のことを応援していきたい」娘の希望を尊重

なぜ愛子さまは福祉の道を志されたのか。

お尋ねすると、陛下は「愛子は私たちの手元で育って、私たちが色々やっていることを間近に見てきている」「福祉についての話を愛子にすることもありました」と振り返り、「人々の役に立ちたいという気持ちが徐々に形作られていったのではないか」と述べられた。

日赤に就職したいと聞いた時には、「雅子も私もとてもいい考えではないかと思いました」「これからも愛子のことを応援していきたい」と率直に、父親としての思いを嬉しそうに笑顔で明かされた。

成長の過程では、体調を崩したり、通学への不安を抱えるなど、困難に直面された時期もあった。そうした中にあっても、常に愛子さまの気持ちを尊重し、最大の理解者として寄り添ってこられた両陛下。

学習院初等科の入学式 2008年4月
学習院初等科の入学式 2008年4月

就職に際しても、愛子さまの希望を聞き、相談に乗り、支えてこられたという。

「日赤の一員として多くの人のお役に立てるよう、努力を続けて欲しいと思いますし、社会に出ると大変なこともあるかもしれませんが、それを乗り越えて、社会人の一人として成長していってくれることを願っています」

大変なことがあっても乗り越えてほしい。父親からの温かいエールについて、ある側近は「陛下はこれからの成長が大切だと感じられているのではないか」と話していた。

卒業と就職はゴールではなく、新たなスタート。時に社会の厳しさも知り、「社会人」としての経験が愛子さまのさらなる成長、心豊かな人生につながることを願う父の思い。

愛子さまの話題ではいつも目尻を下げ、嬉しそうな笑顔を見せられる陛下。これからの歩みを「応援していく」と明かされたまなざしはとても温かかった。

「質問に対してしっかりとお答えになりたい」 会見への真摯な姿勢

約1時間に及んだ会見では、陛下はいつも通り記者に目を配りながら、丁寧に答えられていた。

側近によると「質問に対してしっかりとお答えになりたいというお気持ちが強い」といい、今回も直前まで何度も推敲を重ねられていたという。

大切な娘を見守る父親の思いを率直に明かされるお姿からは、記者会見を通じて、カメラの向こう側にいる国民にまっすぐに考えを伝えようとされる真摯な思いが伝わってきた。

宮﨑千歳
宮﨑千歳

天皇皇后両陛下や皇族方が日々取り組まれる様々なご活動をより分かりやすく、現場で感じた交流の温かさもお伝えできるような発信を心がけています。
宮内庁クラブキャップ兼解説委員。1995年フジテレビジョン入社。報道局社会部で警視庁クラブなどを経て、2004年から宮内庁を担当。上皇ご夫妻のサイパン慰霊の旅、両陛下の英エリザベス女王国葬参列などに同行。皇室取材歴20年。2児の母。