ロシアの刑務所で収監中に死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏の母親が、ロシアの捜査当局に対して遺体の早期返還を求めて提訴した。
妻のユリアさんもSNSを通じて「ナワリヌイ氏の遺志を継ぐ」と宣言するなど、反プーチンの姿勢を鮮明にしている。
今後、“ナワリヌイ ファミリー”はどうなるのか。ナワリヌイ氏本人に取材した経歴がある大和大学の佐々木正明教授に聞いた。
「遺志を継ぐ」妻の姿勢に称賛
――家族への影響は?
ナワリヌイ氏が亡くなった後、妻・ユリアさんは早速YouTubeやツイッターなどで、「自分はナワリヌイ氏の遺志を継ぐ」と宣言しました。

ロシア当局はナワリヌイ氏に花を手向ける人を拘束するなどしていますが、次のターゲットになるのはナワリヌイ氏の母親のリュドミラさんやユリアさん、弁護士ら「ナワリヌイ グループ」といったナワリヌイ氏の支援者になると思います。

これは大統領選挙が近いからです。
今ロシア社会がぐらつくと、プーチン政権の戦争継続の政策や大統領選挙への余波が大きくなるので、治安当局は早期にユリアさんを抑えることに裏で動いています。

ーー妻・ユリアさんの発言も影響力ある?
ユリアさんがYouTubeにメッセージを上げると、瞬く間に2時間で200万回再生され、今は590万回のアクセスがあります(2月26日時点)。
YouTube上ではユリアさんの姿勢を称賛し、プーチン政権を批判するメッセージが溢れています。
これは政権にとって由々しき事態で、反プーチンの導火線に火が着いて大きく燃え広がる前に、ユリアさんの口封じをする必要があるとターゲットにされています。
“ナワリヌイ ファミリー”への圧力
現地を訪れた母親のリュドミラさんに息子の遺体が引き渡されたのは、死去が発表されてから8日後だった。
ロシア当局は「検査に少なくとも14日間かかる」などとして当初は引き渡しを拒否していたが、その対応について佐々木教授は、「ナワリヌイ グループによる真実の曝露を恐れている」と指摘する。

ーーなぜ遺体を引き渡さなかったのか?
ナワリヌイ氏は2020年9月、シベリアに渡航中に猛毒の神経剤・ノビチョクを盛られて意識不明になりました。
ドイツの病院で命は取り留めましたが、ロシアに残っていたらうやむやのまま死に至っていたと思います。

映画「ナワリヌイ」では、プーチン氏の側近であるパトルシェフ安全保障会議書記の命令を受けて秘密工作のチームがやったのではないと示唆しています。
そのため遺族側は今回、自分たちで検査して死因を調べたいという思いがあります。
遺体を引き渡さなかったのは、プーチン政権が「ナワリヌイ グループ」が真実を暴くのを恐れているからです。

ーーユリアさんへの制裁は?
ユリアさんがロシアに戻って街頭でデモをすれば、反プーチンの大きな政治勢力になりかねません。
また、ナワリヌイ氏の遺志を継いで大統領選挙に立候補したり、政治家になるといった選択肢もあると思います。
そのようなことにならないようにユリアさんには圧力がかかります。
また、弟のオレグ氏も指名手配されるなど、当局のターゲットになっています。

今反体制派の人たちはロシアを離れ、ベルリンやロンドン、パリ、アメリカなどに逃れています。
中には、ロンドンで毒殺された元KGBの職員のように命を狙われている人もいます。ユリアさんはそうしたことを覚悟して、反プーチンの旗手になろうとしています。

「裏切者は許さない」というのがプーチン政権の掟です。
プーチン氏に歯向かう者は罰を受ける、という姿勢はどんどん強まっていくと思います。
ユリアさんは命を狙われることを知りながら、夫が残した言葉を受け継いで、愛する故郷や自由と民主主義、そして、嘘でまかり通らない政治のために、信念を持って命がけの行動を海外から起こすのだと思います。